『異文化理解力』は、通っていたビジネススクールの参考図書になっていたものの、そのときは買いもせず、時間だけ過ぎていき…ましたが、誕生日の欲しいものリストでおねだりをして、頂くに至ります。出版社が英治出版ということもあり、ずっと興味はあったんですよね。
でも、私が勤めている会社はめちゃくちゃドメスティックな企業。何か参考になることがあるのかなーとやや気になる。読んでみた結論なのですが、『異文化理解力』で語られる、国を単位とした文化的な違いで言ってしまうと、なかなか私には活用シーンが浮かばない。クライアントも国内企業だしね。
とはいえ、一部社内にもいる外国籍の方とのコミュニケーションであったり、同じ国だったとしても地域や部署や会社が違うとカルチャー違うことも多いので、そういった視点で考えていきたいと思います。東京と沖縄とか絶対違うしね。
あ、外国籍の方のMBO面談、そういえば評価への感覚がだいぶ違う。なるほどこれだ、異文化。
自己解決しましたが、知識としても純粋に面白い。国ごとに価値観が違うこと、特に日本人が本書でエリン・メイヤーが提唱しているカルチャーマップ(異文化の見取り図)で、結構極端に位置しているのは改めて苦笑な次第です。
日本企業が海外企業の買収に失敗するという話が取りざたされることが目立ちます。よく出る論点として売り遅れたものをに日本企業が手を出しているというようなものですが、実際のところ日本独特のハイコンテクストな文化、根回しと稟議システムという超合意主義というのは、かなりハードルが高いのだと思います。
といった、国単位でもなるほどと思うことが多いのですが、人単位になると必ずしもそうではないですよね。同僚にだってローコンテクスト(明文化)重視、フィードバックもはっきり言って欲しいという人、思い浮かぶわけです。
上司はメンバーそれぞれのカルチャーマップ(この場合は価値観マップ?)を把握しておくと、お互いがスムーズに事が進めるのではないかなと思います。でもそういう情報って個人情報っぽいので共有されないものなんですかね。欲しいなあ。
ちなみにハーバード・ビジネス・レビューに、自分の価値観を入力すると、比較したい文化(選択の誘導としては自分の国)の平均と比較することができたりします。この本で読書会をしたメンバーでやってみたのですが、日本の平均値よりも乖離しているという方がちらほらいらっしゃいました。サイトは下記です。
●参考URL
What’s Your Cultural Profile?
著者のエリン・メイヤー氏とハーバード・ビジネス・レビューで共同して情報集めているんですかね。アンケート結果の活用先が気になりますね~
本の概要と要約
著者の課題
異文化間の行き違いによって、本来であれば単純に解決できるはずの問題が難題になることがある。
解決方法
世界の異文化が互いのことをどう見ているのか、8つの指標で構成されるカルチャーマップつくり、理解する。
内容
・文化が異なると行き違いが生じる
-異文化適応プログラム(仏&中のチームで研修を提供)
-(仏)間を作り目配せをし、しゃべってもらえるよう促す
-(中)ずっと黙っていてアイデアを持っていないように見える
-(仏)が実例を話してというと、(中)は素晴らしい話を展開
-中国人は主催のフランス人がトップなので支持を待っていただけ
-また、フランス人の間と目配せは合図に思えなかった
-勤務評価(米国上司と仏人の部下)
-アメリカ人上司は、何度もFBすることに辟易
-フランス人部下は、最高のレビューだったと評価
-アメリカ人のFBが間接的でフランス人は率直に受け入れただけ
・互いの文化的コンテキストや振る舞いの意味を知れば、難題にも効果的に対処できる
・カルチャーマップを仕事に生かす
-8つの指標で見取り図をつくる
①コミュニケーション
ローコンテクスト VS ハイコンテクスト
(明確な確認)VS(空気読む)
②評価
直接的なフィードバック VS 間接的なフィードバック
(はっきり伝える)VS(遠まわしに伝える)
③説得
原理優先 VS 応用優先
(概念から)VS(結論から)
④リード
平等主義 VS 階層主義
(フラットさ)VS(組織)
⑤決断
合意志向 VS トプダウン式
(根回し)VS(強制・命令)
⑥信頼
タスクベース VS 関係ベース
(仕事で信頼)VS(人間を知って信頼)
⑦見解の相違
対立型 VS 対立回避型
(対立は健全)VS(批判は1on1で)
⑧スケジューリング
直線的な時間 VS 柔軟な時間
(アジェンダ通り)VS(状況によりけり)
・カルチャーマップは絶対的な位置関係ではなく、自分との相対的な位置関係で考える
・誰ひとり同じ人間は存在しないが、育った文化はその人の世界の見方に強く影響している
・効果的に働くために文化の違いを読み解く力が必要
著者:エリン・メイヤー
フランスとシンガポールで展開するビジネススクール、INSEADの客員教授。グローバルな異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とし、異文化間の交渉、多文化組織におけるリーダーシップについて世界中で教鞭をとる。2015年には次代を担う世界の経営思想家として「Thinkers50 Radar Award」を受賞。
●記事
カルチャー・マップで描いて見せた、各国経済が相互依存する多文化社会(Harvard Business Review 2017年11月10日)
●動画
The Culture Map: The Future of Management
●SNS
Twutter:@ErinMeyerINSEAD
本の解説と感想
異文化による行き違い
異文化の違いについて理解しているときと、していないとき、どちらがより生産的かと問われたら、明らかに「異文化を理解しているとき」ですよね。
冒頭でエリン・メイヤー氏が例に出していたのが、あるフランス人夫婦が中国に行くにあたって、異文化について学ぶ研修会を開いた時のこと。(エリン・メイヤー氏の時間を二人だけに割くというのはなかなか贅沢というか超エグゼクティブクラスなんですかね…)
ボー・チェンという中国人を専門家として雇って(非常に意気込みがあるように見えた)、実際にプログラムを進めていくなかで、エリン・メイヤー氏がチェン氏にそれとなく目配せなどで「(いま、実例を語って…)」のように促したものの、チェン氏は黙ったまま。
エリン・メイヤー氏は、このプログラムが失敗した気持ちになったようなのですが、「何か実例はありますか?」と声を出してチェン氏に依頼すると、おどろくほど参考になる実例を話はじめたそうです。
中国人のチェン氏から見れば、「この研修の場を仕切っているのはエリンだから指示を待っていた」「話を差し込むには間が短すぎる」状態だったことから、自ら話すことがなかったのだとか。
この例からわかることは、自分が自分と似た価値観を持つ人同士では阿吽の呼吸で事が進めるはずのことが、文化が異なる人とのチームでいつも通りに振舞ってしまうと、全く自分の想定通りにはいかないということです。
チェン氏の文化を知ってさえいれば、プログラムはもっとスムーズに進んでいたはずです。
異文化の関係は相対的に見る
他人への接し方に影響を与える文化の違いを考えてみると、大事なのは指標における相手の文化の絶対的な位置ではなく、むしろあなたとの相対的な位置関係の方である
『異文化理解力』p65
カルチャーマップの概念と各要素については口述しますが、例えばローコンテクスト(明確にする)とハイコンテクスト(空気読む)という軸で国をマッピングすると、最もローコンテクストなのがアメリカで、最もハイコンテクストなのが日本になります。
この軸のなかで、イギリスはローコンテクスト側なのですが、アメリカ・イギリス・日本はそれぞれどう見えるか考えてみましょう。
日本から見ればアメリカもイギリスも言葉を明確に定義したり、具体的に物事を伝えたりするなという感覚を持ちます。一番ハイコンテクストなので。
ところが、イギリスから見ればアメリカが自分たちよりもハイコンテクストで、アメリカから見ればイギリスは自分たちよりローコンテクストということになります。
マップを絶対的な比較としてみるのではなく、異文化理解には自分と相手とを相対的に捉えることが重要です。
異文化を理解する「8つの指標」
エリン・メイヤー氏が提唱するモデルが「カルチャーマップ」。カルチャーマップを構成する8つの要素は以下になります。
1.コミュニケーション
ローコンテクスト VS ハイコンテクスト
(明確な確認)←―→(空気読む)
●ローコンテクスト
良いコミュニケーションとは厳密で、シンプルで、明確なものである。メッセージは額面通りに伝え、額面通りに受け取る。コミュニケーションを明確にするためならば繰り返しも歓迎される。
※ローコンテクストな環境とは、話し手と聞き手の間の暗黙の了解が比較的少ない環境
●ハイコンテクスト
良いコミュニケーションとは繊細で、深みがあり、多層的なものである。メッセージは行間で伝え共感で受け取るほのめかして伝えられることが多く、はっきりと口にすること少ない。
※ハイコンテクストの環境は共通点や暗黙の了解があることを無意識に前提とした環境
「良い聞き手」と「良い話し手」という二つの重要な能力の定義は、文化ごとに異なっている
『異文化理解力』p50
日本は、ほんっと~っにハイコンテクスト。空気読め、空気読む。それが日本。
それは言葉にも表れていて「足」という単語には、英語でいうfoot(くるぶしから下の部分)やleg(腿から下部分)が含まれているし、同音異義語もたくさんあるので、日本はただ話をするだけでも強制的に文脈から空気を読まなければならないのです。
本に書いてあるわけではないですが、行間を読むという文化は、古来より和歌などがあるように、風柳としても根付いてもいます。
一方で、アメリカやその他アングロサクソン文化圏では、曖昧さのないコミュニケーションをするように訓練されているそうです。良いコミュニケーションとは何より明確で曖昧さのないとののことであって、メッセージを正確に伝えることがコミュニケーターの責任として重要視され、「聞き手が理解できないのは話し手のせい」っていう日本人からするとちょっと厳しい見方をされるんですね。
●自分よりハイコンテクストの同僚と働くとき
相手が情報を意図的に省略していると受け取るのはNG。注意深く聞くこと。何を言っているかではなく何を意味しているかを聞くように心がけるということです。
人を貶めようと思っている人ってそんなにいるわけないですよね。向こうは自分が慣れているコミュニケーションスタイルでいるだけなので、もし、曖昧だなと思ったら、「それはこういう意味ですか?」と質問をすればいいだけ。といいつつ、我々は日本人なので質問される側ですね笑
●自分よりローコンテクストな人々と働くとき
真意をはっきりと口にする。会話の初めに本題や論点を明確にしておくこと。また、議論の終わりには決まったことをおさらいするのも有効。
異文化の者が多いチームでは、日本・中国・ブラジル人のような、まったく違うルーツを持つハイコンテクスト文化出身者が最も行き違いが生じやすいそうです。
こうした多文化チームでは、なるべくルールを明文化するなどローコンテクストなやりとりをすることが望ましいです。行違えちゃうんだからそうですよね。ただ、ローコンテクストな文化を持ち込むとハイコンテクストな文化を持つ人たちからは尊敬や信頼をされていないような印象を持たれるかもしれません。そうならないために、ルールを明文化する理由もしっかり伝えることが大切です。
2.評価
直接的なフィードバック VS 間接的なフィードバック
(はっきり伝える)←―→(遠まわしに伝える)
●直接的なネガティブ・フィードバック
同僚へのネガティブ・フィードバックは率直に、単刀直入に、正直に伝えられる。ネガティブなメッセージをそのまま伝え、ポジティブなメッセージで和らげることはしない。顕著な例では、批判する際に「間違いなく不適切だ」や「全くもってプロフェッショナルとは言えない」と言った言葉が使われる。批判はグループの前で個人に向けて行われもする。
●間接的なネガティブ・フィードバック
同僚へのネガティブ・フィードバックは柔らかく、さりげなく、やんわりと伝えられる。ポジティブなメッセージでネガティブなメッセージを包み込む。顕著な例では「やや不適切だ」や「少しプロフェッショナルじゃない」と言った言葉が使われる。批判は1対1でのみ行われる。
またしても日本は極端で、間接的なネガティブ・フィードバックのMAXです。なんとなくコミュニケーションと相関していそうですが、そうでもないそうです。
率直にものを言うローコンテクストな文化のいくつかは、ネガティブな批判を伝える際は遠回しで間接的に言うことがあり、反対に普段遠回しにものを言う文化のいくつかは相手の欠点をはっきりと包み隠さず伝えることがあるのだ
『異文化理解力』p86
本書では、コミュニケーションと評価は四象限で表されています。それぞれ特徴や対処法をまとめてみます。
①ローコンテクストかつ直接的なネガティブフィードバック
自分よりもローコンテクストな文化の人とやりとりするには、彼らの真似をしようとすると率直に受け止められ過ぎてしまう可能性があり、意図しない敵を作ってしまう危険性があります。なので、真似はしないようにしましょう。話を聞くときは、彼らの直接的な批判を前向きに受け止める心構えが必要です。攻撃の意図はないと理解することが大事です。
②ハイコンテクストかつ直接的なネガティブフィードバック
結構複雑な文化です。例えば、ロシアは暗に仄めかしてメッセージを伝えることが多いものの、批判になると直接的になるようです。対処法は…まあこれもそういうものだと考えて真摯に受け止めることでしょう。
③ローコンテクストかつ間接的なネガティブフィードバック
ポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックのどちらからもアプローチするのがよいそうです。より具体的にいいところと悪いところを分解して評価していくイメージです。
④ハイコンテクストかつ間接的なネガティブフィードバック
日本です笑 四象限の一番隅っこにいます。このグループに所属する文化の人への評価は、グループの前でフィードバックを行わないことです。また、伝えるメッセージはぼかします。フィードバックを、ゆっくりと長い期間をかけて行い、徐々に浸透するようにします。そしてたまにランチなどにいって、好ましくないメッセージをぼかします。
3.説得
原理優先 VS 応用優先
(概念から)←―→(結論から)
●原理優先
各人は最初に理論や複雑な概念を検討してから事実や、発言や、意見を提示するように訓練されている。理論的な議論をもとに報告を行ってから結論へと移るのが好ましいとされている。各状況の奥に潜む概念的原理に価値が置かれる
●応用優先
各人は事実や、発言や、意見を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせる概念を加えるように訓練されている。まとめたり箇条書きにしてメッセージや報告を伝えるのが好ましいとされている。議論は実践的で具体的に行われる。理論や哲学的な議論はビジネス環境では避けられている
説得の技術は最も重要なビジネススキルの一つだ。相手を説得して自分のアイデアを支持してもらう力がなければ、支持を集めてアイデアを実現することはできない
『異文化理解力』p119
原理優先の思考法というのは、演繹的思考とも呼ばれ、結論や事実を一般的原理や概念から導き出す思考法です。例としてあったのは、「人間は皆死ぬ」という一般原理から、具体的な事例「ジャスティンビーバーは人間だ」があったとして、そこから「ジャスティンビーバーもやがては死ぬ」と導き出されるというものです。この文化圏の人は、最初に理論や複雑な概念を検討してから事実や発言意見を提示するよう訓練されています。
応用優先の思考法というのは、帰納的思考とも呼ばれ、個別の事実を積み重ねることで普遍的な結論へと至る思考法です。例としてあったのは、ミネソタ州へ1月毎日行けば、氷点下よりもはるかに気温が低い体験を毎回するので、「ミネソタの冬は寒い」のだと結論づけられます。この文化圏の人は、事実や発言、意見を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせるよう訓練されています。
多くの人は原理優先と応用優先の思考法どちらも使えるがどちらを習慣的に使うかがし後方に大きく影響されている
具体的な行き違いの例として、フランス人上司がイギリス人部下にメールする様子が描かれています。
メールは次のように構成されていました。
●フランス人からのメール
段落1:トピックの導入
段落2:自身の意見を伝えチームメイトに理論で訴え一般原理を展開
段落3:自身の意見に対する最もあり得る懸念点の指摘
段落4:自身の結論を説明しチームメイトに指示を求める
フランス人としては、前提から順をおって説明ができているが…
●イギリス人の受け止め方
すぐに本題に入り、話をそらさない応用優先の文化で育っているため、第一段落を見て明確な論点がないのでいつか読むメールのフォルダに移してしまう。
4.リード
平等主義 VS 階層主義
(フラットさ)←―→(組織)
●平等主義的
上司と部下の理想の距離は近いものである。理想の上司とは平等な人々のなかのまとめ役である。組織はフラット。しばしば序列を飛び越えてコミュニケーションが行われる
●階層主義的
上司と部下の理想の距離は遠いものである。理想の上司とは最前線で導く強い旗振り役である。肩書きが重要。組織は多層的で固定的序列に沿ってコミュニケーションが行われる
現代のグローバルビジネス環境では、平等主義的なリーダーか、階層主義的なリーダーのどちらかになるだけでは十分ではない。どちらにもなる必要があるーー文化の指標のどちらもマネージできる柔軟性を身につけなければならない
『異文化理解力』p179
具体的な行き違いの例として、デンマーク人のリーダーが北京に赴任したというエピソードが描かれています。
デンマークは平等主義で、リーダーが「僕は君たちのチームの一員だよ!」というメッセージを伝えることを行動言動に表していきます。そのひとつが自転車通勤。汗をかいて出勤している姿が共感を呼ぶんでしょうね。
ところが中国では、自転車通勤する上司を「恥」と思うのだそうです。中国人の富裕層には自転車通勤という選択肢はなく、自転車通勤をする人は階級の低い人たちだという意識があるのだとか。
日本は(またしてもぶっちぎり)階層主義なのですが、そんなことはない気がするので、同じ階層主義でも多少意味は違いそうです。これは歴史とか発展の過程とか、そういったものの作用があるんでしょうか。
本書では、この「リード」という要素を考えるうえで、歴史的文化要素は外せないということが書かれています。それは同じヨーロッパ圏だとしても、差がある理由がそれだそうです。
ローマ帝国の時代、ローマ人たちが階層的な社会や政治的構造を作ったことで、中央集権的な組織構造が出来上がります。反対に、ヴァイキングは驚くほど平等主義的だったらしく、デンマーク、スウェーデンコは、現地で会議しても誰が上司なのか分からないままということがあるのだとか。ほかにも各宗教における神と人間の距離(プロテスタントはカトリックに比べ遥かに平等主義)など、ヨーロッパでも「リード」の分布がばらつくのには歴史的背景も影響している模様です。
5.決断
合意志向 VS トプダウン式
(根回し)←―→(強制・命令)
●合意志向
決断は全員の合意の上グループでなされる
●トップダウン式
決断は個人でなされる(たいていは上司)
またしても、日本はぶっちぎり。超合意志向と名指しされてます。ただそれが悪いということではありません。合意に基づく文化では、全員の意見を聞くため意思決定にかなりの時間がかかる決断が下されるものの、決定すれば実行はとても迅速。またそうそう覆らない。一方トップダウン式の文化では、意思決定は個人でなされるために決断が速いという特徴がありますが、進行過程で一人の人間によって下される決断の一つ一つは変更可能だということです。
私が働いている会社はオーナー企業なので早いものは早いですね。でも超合意志向というのは全然あって、会議の前に十分な根回しをしておかないとその場で覆るとあとが立ち行かなくなってしまうことが多々あり、すり合わせに時間を要します。ただ、握ってしまいさえすればほんとにスムーズ。
本書に例として挙げられていたのが日本の稟議システム。これをもってエリン・メイヤー氏は日本を階層主義かつ超合意主義としています。稟議って予算をとるために承認を貰うのですが、社長あるいは執行権限のある人まで段々と承認を得ていくプロセス。これがまたしかも、稟議を早めに回すために根回しするという…日本おそるべし。
では、それぞれの文化圏、そして多文化組織ではどのような心構えをしていたらよいのでしょうか。
●自分よりも合意志向がある人たちと仕事をする場合
・意思決定には時間がかかり多くのやりとりや会議が生じると想定する
・なるべく忍耐力を持ちプロセスに関わっていく
・仲間たちに献身的なところを見せるため定期的に連絡を取る
・非公式な場でチームと接触を持つ
・迅速な決断を促したくなる誘惑に打ち勝つ
・一度決断が下されたらそれを変更するのは難しいのだと忘れない
●トップダウン式の意思決定を好む人々と仕事をする場合
・議論や意見交換の時間が少ないまま決断が下されるのだと想定しておく
・自分の意見が聞かれなかったら、拒否されても決断に従う心づもりをする
・リーダーのときは決断は迅速にする
・意見が割れる場合、しかも明確なリーダーがいないときは投票を提案する
・最初の決断が変更不可能であることはめったにないと認識しておく
また、グローバルチームで仕事をするときは、チーム組成の最初の段階で、意思決定の方法を話し合い合意を取ることがよいそうです。
6.信頼
タスクベース VS 関係ベース
(仕事で信頼)←―→(人間を知って信頼)
●タスクベース
信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。仕事の関係は実際の状況に合わせてくっついたり離れたりが簡単にできる。あなたが常にいい仕事をしていれば、あなたは頼りがいがあるということになり、私もあなたとの仕事に満足し、あなたを信頼する
●関係ベース
信頼は食事をしたり、お酒を飲んだり、コーヒーを一緒に飲むことによって築かれる。仕事の関係はゆっくりと長い期間をかけて築かれる。あなたの深いところまでを見てきて、個人的な時間も共有し、あなたの事を信頼している人たちのことも知っているから、私はあなたを信頼する
これはこの軸の説明通りなのですが、タスクベースの文化圏だったとしても、関係ベースのアプローチに時間を費やすことは、世界中から集まってきた人々と働く際に利点があると、推奨されています。というのも、一度感情的信頼が築かれると、どんな文化的失敗を犯しても許してもらいやすくなるからです。
ちょっと話が変わりますが、「信頼」を築くためには、食事に気を払うということが書かれていました。
自分がタスクベースで相手が関係ベースだった場合、時間と労力をかけて食事をアレンジすることが大切で、食事のあいだは相手を個人的に知るための会話にします。感情的信頼の構築に使えれば出張で一番実りのある時間になるのだとか…まあそうかも。中国とかそんな印象ありますね。
一方、自分の文化が関係ベースでタスクベースの人と食事に行く場合、交流と仕事を混ぜないようにすし、ランチの時間はきっちりとして1時間と設定すると喜ばれるそうです。
ちなみに、日本の飲みニケーションについても書かれていました。
飲みの席で社会的なバリアを取り除こうとすればするほど、彼らはあなたを信頼していきます
『異文化理解力』p233
確かに、日本にとっては重要な儀式…か? 上司が部下と関係を築こうとか、取引先と懇ろになろうとか、飲みにケーションの空気はありましたよね。でももう、すっかりそういう価値観も薄れているような気がしますね。だって、新卒の子たちとか誘いにくいもんね。ハラスメントのリスクがある。
わたしは、単純に飲みたい。ただそれだけ。
7.見解の相違
対立型 VS 対立回避型
(対立は健全)←―→(批判は1on1で)
●対立型
見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題ないことであり、関係にネガティブな影響を与えない。
●対立回避型
見解の相違や議論はチームや組織にとってネガティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題で、グループの調和が乱れたり、関係にネガティブな影響を与える
ここでも日本はぶっちぎり。対立回避型です。
日本人はディベート(討論)が苦手です。個人的には江戸時代に根付いた論語文化がそのまま日本人に反映されているんだと思います。為政者が民に夢を見させないシステム…
本に書いてあるものでは、中国のメンツの話も面白かったです。フランスでは議論を行って結論を下すことを教え込まれているのに対し、中国人がフランスに行ってミーティングをして、自分の意見への反対が多くあると「メンツが潰れた」と思うのだとか。日本人にも同じ感覚があるような気がしますね。
それから、「ミーティングは大成功だったと感じるのは?」という問いも文化を表していますね。
A:良いミーティングでは決断が下される
B:良いミーティングでは様々な意見が議論される熟慮される
C:良いミーティングではミーティングの前に行われた決断が正式に承認される
アメリカはA、フランスは B、 中国や日本はC。
「良いミーティングではミーティングの前に行われた決断が正式に承認される」ってのが根回しすり合わせですよね笑
いくつかtipsも得られました。
反論を述べる前に、僕はいつも説明することにしたんだ「悪魔の代弁者の役をするよどちらの面からも検討するためにね」って
『異文化理解力』p266
悪魔の代弁者とは、デビルズアドボケイトと日本では横文字使ったりしますね。これを宣言してから反論するって、かなり実践的。
対立に参加するときは、一刀両断するナイフではなく、縫い合わせる針を持っていけばいい
『異文化理解力』p267(バハマの格言)
異文化を文化を縫い合わせるリーダーってかっこいい。
8.スケジューリング
直線的な時間 VS 柔軟な時間
(アジェンダ通り)←―→(状況によりけり)
●直線的な時間
プロジェクトは連続的なものとして捉えられ、ひとつの作業が終わったら次の作業へ進む。一度にひとつずつ。邪魔は入らない。重要なのは締め切りで、スケジュール通りに進むこと。受難性ではなく組織性や迅速さに価値が置かれる。
●柔軟な時間
プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進める。様々なことが同時に進行し邪魔が入っても受け入れられる。大切なのは順応性であり、組織性よりも柔軟性に価値が置かれる。
スケジューリングの指標に関して最も興味深い点は、指標で正反対の相手のことを非効率的だとみなし、苦痛とストレスに満ちた生活を送っているに違いないと考えてしまう点である
『異文化理解力』p292
「直線的な時間」の文化圏では、行列には1列に並び割り込みはない。アジェンダ通りに進ませるそこから逸脱しない。そうですね、日本です!
「柔軟な時間」の文化圏では、アジェンダは事前に配布されるものの、それは木の幹でしかなく、会議が直線的に進むべきという考えはなく、議論は新しい方向に枝葉を伸ばしていくという価値観です。
日本やドイツは電車や飛行機が時間通りに運航されるけど、インドなどでは場合によっては早く出発するとかもあると…ほんとに?
日本は順番を守らないと注意されるし、電車がちょっとでも送れるとイライラする。そんな生活を「柔軟な時間」の文化のひとたちからすれば窮屈にはみえるんでしょうね。
この文化の違いは、日常生活が固定化されて安定しているか、産業化がなされていて政府が計画的であるかという環境が影響しているそうです。つまり、日々の生活の変化が激しい途上国になるほど「柔軟な時間」ということになり、変化を柔軟に切り抜けることが優秀なリーダーなんですね。
この文化の違いもチームで一緒に行動する場合は、リーダーがルールを決めることが大切になります。
リーダーがはっきりとした明確なチーム文化を築けば、時間に関しては誰もが見事に適用することができる
『異文化理解力』p291
そう、結局のところ、ローコンテクストよりに「こういう理由だから、こういうルールでやろうね」と最初に決めてしまえさえすれば、異文化組織でのミスコミュニケーションはかなり発生しにくくなるということですね。
本の目次
- 第1章 空気に耳を澄ます ― 異文化間のコミュニケーション
- 言語と歴史の相互作用
- 良いコミュニケーターとは何か?
- すべては相対的
- 自分よりハイコンテクストな文化出身の人々と働く際の戦略
- 自分よりローコンテクストな文化出身の人々と働く際の戦略
- 多文化間の共同作業における戦略
- 明文化するべき場面とは?
- 第2章 様々な礼節のかたち ― 勤務評価とネガティブ・フィードバック
- 率直に話す…贈り物か無職か
- アップグレードする言葉、ダウングレードする言葉、使い分ける技術
- ハイコンテクストかつ、直接的なネガティブ・フィードバック
- ローコンテクストかつ間接的なネガティブ・フィードバック
- ハイコンテクストかつ間接的なネガティブ・フィードバック
- 礼節があるとはどういうことか?
- 第3章「なぜ」 VS 「どうやって」 ― 多文化世界における説得の技術
- ニ種類の思考法…原理優先か応用優先か
- 説得の市場における各国の位置づけ
- 哲学がビジネスと出会うとき
- 文化をまたいで説得する戦略
- 包括的思考…アジア的な説得のアプローチ
- 効率を高めて働くには
- 落とし穴を回避し、利益を得る
- 第4章 敬意はどれくらい必要? ― リーダーシップ、階層、パワー
- ヘールト・ホフステードと「権力格差」という概念
- リードの指標に作用する歴史的・文化的要素
- 階層主義的文化でマネジメントする方法を学ぶ
- 序列を飛び越える…飛ぶ前に見ろ
- 他国のスタッフたちが敬意を示しすぎるとき、あるいは全然示さないとき
- 第5章 大文字の決断か小文字の決断か ― 誰が、どうやって決断する?
- 「合意」は禁句
- 合意かトップダウンか…どちらが好き?
- 日本の稟議システム…階層主義かつ超合理主義
- 決断時の文化の衝突を避ける
- 第6章 頭か心か ― ニ種類の信頼とその構築方法
- 頭で信頼する、心で信頼する
- タスクベースか関係ベースか
- 「桃」VS「ココナッツ」…有効的であることと関係ベースの違い
- 文化を越えて信頼を築くための戦略
- 本当の自分を見せる…信頼とは契約である
- 食事に気を払おう…ランチは入り口になり得る
- コミュニケーションの手段を選ぶ…電話、メール、あるいはwasta
- 第7章 ナイフではなく針を ― 生産的に見解の相違を伝える
- 対立…メンツを失うか、人格を切り離した議論か
- 対立と感情表現
- グローバルチームで適切に反論を行う
- 「悪魔の代弁者役になりましょう」
- 第8章 遅いってどれくらい?―スケジューリングと各文化の時間に対する認識
- 牛が戻ってくるころ
- 関係性…スケジューリングの指標を理解する鍵
- 行列は直線ではない…ストックホルムの行列とインドールの行列
- ミーティングは行列と同じ
- 月からサインを待つ…スケジューリングに対する柔軟な対応
- 異文化間のリーダーが使える「言語化」の戦略
- 「あなたのやり方は非効率的だ俺」