『もしも人食いワニに噛まれたら!最前線の研究者が語る、動物界最強のハンターの秘密』の書評とサクッと要約

もしも人食いワニに噛まれたら!(福田雄介 著) Amazonほしい物リスト2021
もしも人食いワニに噛まれたら!(福田雄介 著)

今度はワニ博士の本でした!『もしも人食いワニに噛まれたら!』というタイトルはキャッチーですが、中身は「噛まれたらどうしたらいいの?」ってことにフォーカスしているわけではなく、ワニの生態とか魅力を分かりやすくまとめた本という感じです。

タイトルの問いを最初に回収しておきますと、もしもワニに噛まれたら同行者がバットくらいの太さの棒で鼻っ面をたたく、ってのが答えです笑 噛まれたら水中に引き込まれてしまう前に、本人ではなく同行者が助けに入らないとほぼ助からないのだそうです。

のちほど説明しますが、そもそも「人食いワニ」というのが存在するのか、というところも説明されています。

こうした研究者の書籍は、『恐竜学者は止まらない』や『バッタを倒しにアフリカへ』なんかのように、その道の研究者になるまでの過程から、実際の研究を実録のようにまとめた体験記になっているものも多いですが、本書はQ&Aというか「ワニ」の生態についてまとめられていて、物語のようにはなっていないので、サクッと読めますよ。

ほぼQ&A的な章もあるため、今回私が2枚の紙にまとめてはいるものの、実際はもっと情報数が多いです。結構ワニについて詳しくなった気がします!著者の福田さんは20年もワニ研究をしている大ベテラン。オーストラリアでワニの研究をしながら得た知識と経験をもとに疑問に答えてくてれいます。

たとえば、日本では「ワニ」とひとくくりにされるものの、海外では「アリゲーター」「クロコダイル」「ガビアル」で区別されるとか。その見分け方とか。

ワニはフェンスをよじ登る身体能力があったりとか。

乱獲の話もあります。ワニ革って好きな方も多いですよね。その需要によって乱獲が行われたためワニの個体数は激減。あとで書きますけど、結構エグい数字の規模です。そしてそもそも長生きしている個体が少なくなったため、かつていた巨大ワニがほとんど見られなくなったという歴史も知りました。サピエンス、ほんとやばいですね。

また研究者の方が書いた本が読みたくなりました!

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本の概要と要約

『もしも人食いワニに噛まれたら!』の問題提起
『もしも人食いワニに噛まれたら!』の問題提起

著者の課題
ワニと言えば、獰猛な生き物と思われている。実際に襲われたらどんな方法でなら助かる?

解決方法
20年のワニ研究で得た知識と経験で疑問に答える。ワニの魅力に迫る。

『もしも人食いワニに噛まれたら!』の要約
人食いワニはいるの?
『もしも人食いワニに噛まれたら!』の要約
ワニの生態に迫る

内容
・人食いワニは本当にいるのか?
 ー人間が「食べられた」事例は少ない
 ー人間を襲っても捕食が目的ではない
 ー食べられる前に回収される
 ー実際に襲われたら50%の確率で亡くなる
・襲われたときの死因
 ーサ事故が失血死なのに比べでワニ事故はほとんど溺死
 ー川に引きずり込まれる
 ー同行者が助けようとすれば、ほぼ死を免れることができる
 ー逆に何もできなければ助からない
・もしも嚙まれたら?
 ー死因は溺死なので水中に引きずりこまれなければいい
 ーワニとの綱引きに勝つ
 ー太っていたら助かるという噂は、体重が重い方が助かるから
 ーバットで鼻っ面を強くたたくのが一番効果的
 ー背中や尾は固いのでダメ
・ワニの種類
 ①アリゲーター
  ー口吻が広い
  ー上顎の歯しか見えない
 ②クロコダイル
  ー口吻が狭い
  ー上下の歯が交互に露出
 ③ガビアル
  ー口吻が細長い
・デスロールはするのか?
 ー通常は首を振って獲物をちぎる
 ー獲物が大きいときにデスロール
・巨大ワニの秘密
 ー昔は6mを超えるワニが確認されている
 ー乱獲によって長生きしているワニが少ないため小さい
 ーロロン
  ー6m超
  ー人を襲っても生きたまま飼育された稀有な個体
 ーギュスターヴ
  ー8mという噂
  ー300人の命を奪った?
  ー内戦により虐殺された遺体と混同されたか
・ワニには帰巣本能がある
 ー400km離れたところから戻った例も
・ワニは感染症にならない
 ー免疫力が強い
 ー人の感染症治療に役立つかも
・ワニの多くは異父兄弟
 ーメスは体内に精子を保持する
 ー遺伝的多様性が生まれる
 ー恐竜もそうだったかもしれない
・ワニは一匹狼
 ーよくTVで並んでいる光景が映るがただそこに集まっただけ

著者:福田雄介とは

福田雄介(ふくだゆうすけ)さんは、1980年生まれ。ワニ研究者。オーストラリア・ノーザンテリトリー在住。10代の頃にテレビで見たワニ研究の第一人者グラハム・ウェブ教授に感銘を受けて渡豪。オーストラリアのノーザンテリトリーにあるチャールズ・ダーウィン大学を卒業後、環境研究職員としてノーザンテリトリー政府に就職。

現在は博士課程社会人学生として、オーストラリア国立大学に籍を置く傍ら、ノーザンテリトリー政府でワニ専門の野生動物研究職員として研究を続けている。国際自然保護連合(IUCN)ワニ専門家グループ(CSG)会員。

自身のツイッターでは、日本では決して見ることができない野生のワニの美しくも、かわいらしい姿を発信しており、ワニ愛好家を中心に人気を得ている。本書が初の著作となる。

●公式
Twitter:福田雄介(ワニ研究者)@GingaCrocodylus

●インタビュー記事
ワニ研究者・福田雄介さん、ワニへの思い強く ノーザンテリトリー政府でワニ研究(SBS日本語ラジオ 2022.6.21)

本の解説と感想

人食いワニはいるのか?

人を好んで食べるワニというのはいない、というのが大前提になるようです。ワニは普段、魚とかを食べているので、人間を捕食目的で襲うことは少なく、襲って死に至らしめることがあっても、すぐには食べないのだそうです。

また、食べられてしまう前に、どの場にいた人や後からの捜索によって遺体が回収されるため、ワニが人間を食べる事例が少ない理由になっています。

なので結論としては、人間を襲うことはあるものの、人間を食べる動機がそこまでないため、人食いワニは結果的にそういうこともなくはない、ということなのでしょう。

もしも人食いワニに噛まれたら!

ワニに襲われると約50%の確率で亡くなります。ワニ事故の死因は溺死で、同じく人を襲うイメージで恐れられているサメ事故が失血死なのに対して、大きな違いです。

人間はワニにとってそれなりに大きな獲物なので、噛みついても引きちぎるのが難しく、水中に引きずり込むのだそうです。これはこれで恐ろしい。。

このことが何を示しているかというと、水中に引き込まれなければ亡くなる可能性が低いということです。ただし一人ではどうしようもないので、ワニと遭遇しそうな環境に行かなければならないときは、一人では行かないことです。

そして噛まれてしまった人が水中に引き込まれる前に、鉄パイプやバットでもってワニの鼻っ面に打撃をくらわせます。背中や尾は硬いため、あくまで鼻です。

もし何もすることができなければ…ほとんど助からないそうなので、なんとか同行者が助けようとワニが想定しない攻撃をくらわせます。

ということで、もしも人食いワニに噛まれたら、ワニとの綱引きに勝ちましょう笑

巨大ワニの秘密

みなさん、この動画のワニをぜひ見てください。というか動画見る前にサムネだけで大きそうって思いますよね(そしてこのサムネイルを見るだけで、この子がアリゲーターだということが分かりますね!)

このワニ、3.6mらしいです。3.6mでこの存在感。しかし、3.6mでも巨大とは言えないかもしれません。

少し、巨大ワニについて語りましょう。

有名な巨大ワニ

「ロロン」という実在のイリエワニは6.17mもありました。フィリピンで捕獲されたこのワニは多くの人を襲ったそうですが、生け捕りにされ、飼育されたことで有名です。(通常、人を襲ったワニは駆除される)

さらに伝説の巨大ワニ「ギュスターヴ」というナイルワニがいるとされています。著者の藤田さんはギュスターヴの実在性には懐疑的な立場で、名付けられた個体はいるかもしれないけど、各地で目撃されたという情報が異なる固体の情報が混ざっていたり、何百人襲ったなどという話には当時の内戦で起こった悲惨な事態によって積まれた遺体を野生生物が食したというところから尾ひれがついたのではないかと考えていました。

いずれにしろ、ロロンですら動画のワニの+2.5mですからね。6mや8m級のワニとかやばいですね!

最近の個体は小さい?

ロロンは6m以上全長がありましたが、このサイズのワニはほとんど目撃されていないようです。

その一番の理由が乱獲。著者が研究の拠点としているノーザンテリトリーでは、乱獲前に22万のワニがいたものの、狩猟禁止となる71年頃にはわずか4000頭前後にまで減っていたとされています。25年間で97%が姿を消したのです。

狩猟が禁止されて以降、ノーザンテリトリーでは85年には71年の10倍に当たる4万頭前後にまで回復。2015年以降は10万頭に達していると考えられています。
個体数が戻る一方、大きさは回復途中。これはまだ乱獲終了後に生まれた個体が若いから。ワニは他の動物と比べて成長が止まるのが遅いらしく、これから大きな個体が出てくるようになるんでしょうね。

ワニの生態

ここからは『もしも人食いワニに噛まれたら!』というタイトルから脱して、ワニの生態についてQ&Aのような形でいくつかワニの魅力が紹介されています。ここでは一部を抜粋して紹介します。もっとたくさんあるので、ぜひ書籍で!

ワニは感染症にならない

これはすごい。ワニは感染症にならない驚異的な免疫を持っているそうです。

その証拠…といっていいのかわかりませんが、人間がワニに噛みちぎられても、その傷によって感染症になることが少ないのだそうです。野生のワニ自身も、たまに手や足が根元からなくなっているイリエワニの大型個体を見かけても、傷口がどこにあるかわからないほど綺麗に塞がっているそうです。

ミシシッピワニの免疫研究で、白血球細胞から取り出した2種のアミノ酸やたんぱく質が多くの病原菌を死滅させたという実験結果があるなど、近い将来人間にも効く新たな薬の開発につながるとして盛んに研究されているそうです。

ワニの多くは異父兄弟

ワニの多くは異父兄弟…というのも、一頭のメスが複数のオスと交尾していて、かつメスは蛇や亀と同じく体内で精子を生きたまま保管することができ、同じメスから生まれた卵が複数のオスの精子から由来していることがしばしばあるそうです。これにより子孫の遺伝的多様性が高まり、生存率が上がるという利点があります。

進化場古い特徴であるため、ワニは恐竜研究でも比較されることもあるためか、恐竜のような古代生物にもこの特徴があったのではないかと考える研究者もいるようです。

『もしも人食いワニに噛まれたら』まとめ

本を読みながら、なんで「もしも人食いワニに噛まれたら?」なんて発想になるんだろうと考えていて、このブログを書いてるときにようやく気が付きました。

個人的なイメージかもしれないのですが、昔『インディ・ジョーンズ』で、敵の司教みたいな人がインディたちを追いかけていき、橋の端から追い詰めていたんですが、その結末で橋が崩れて、下に流れていた川にいたワニの大群に食べられてしまうというシーンを思い出しました。

人間の思い込みって、ああした映像が目に焼き付いて、記憶のどこかに残って作用しているのかもしれませんね。

話は変わりますが、本書のような研究者が出版する本って、もっと学生とかに読んで欲しいかなって思います。大人になってしまった私が読んでも、ほとんど豆知識としてしか意味をなさないのですが、子どもや中学生くらいの子であれば、自分の進む道の可能性を広げてくれんじゃないかなと。

我々の生活は研究者の成果によって成り立ってますからね。尊敬でしかないです。

本の目次

  • はじめに
  • ワニの世界 まずは種類と特徴を押さえよう!
  • 第1章「人食いワニ」は本当にいるのか? 古今東西に伝わるうわさの真相に迫る!
    • 「ワニに食われる」は本当か?
    • 襲われたらジグザグに走って逃げろ!?
    • ワニの人身事故、死亡原因は溺死?
    • ワニ対策、銃より役立つある武器とは?
    • ワニの口を手で押さえれば噛まれない、は本当か?
    • 高い所に逃げる、は有効か?
    • 尾は武器としては使わない
    • ワニに襲われても太っていれば助かる説
    • リアルな事故件数は把握するのが困難
    • 気性の荒いワニだけが人を襲うわけではない
    • どんな時、人はワニに襲われるのか?
    • Column1データで見るワニの人身事故
  • 第2章 ワニの体は特別製 スゴイ!特徴を Q & A 形式で明らかに
    • なぜ水中で口を開けても平気なんですか?
    • ワニの歯は何本あるの?
    • ワニの歯はどんなふうに生えているの
    • ウミガメの甲羅を食べて、歯が欠けたりしませんか?
    • 噛む力がめちゃくちゃ強いって聞いたけど…
    • 指は何本あるんですか?
    • ワニの手足には爪がないって本当?
    • ワニの目はどのくらい見えるんですか?
    • ワニもやっぱり、鼻で呼吸してるんですよね?
    • 耳に水が入ったりしないの?
    • ワニはどんな声で鳴きますか?
    • うろこの上にある黒い点々は何ですか?
    • ワニにも味覚があるのでしょうか?
    • ワニはなぜ感染症にならないのですか?
    • ワニは骨もめちゃくちゃ硬いんですよね?
    • ワニはどのくらい速く泳げるんですか?
    • 長時間、水に潜れるのはどうしてですか
    • 水面に見える頭のサイズから、全長の予想はできますか?
    • ワニって長生きなんですか?
    • ワニは死ぬまで成長し続けるって本当ですか?
  • 第3章 知られざるワニの生態 ワニの多くは異父兄弟、宿敵サメとの対決
    • 必殺の大技、デスロール
    • 塩水に適用した「海ワニ」
    • 宿命の対決?ワニ vs オオメジロザメ
    • サメの王者、ホホジロザメとワニ
    • ワニも人を襲う、恐怖のタイガーシャーク
    • ワニは雑食か?
    • ワニの好物は犬、というのは本当か?
    • ワニの巣作り、子育て事情
    • ワニの多くは異父兄弟
    • 好奇心旺盛なワニはかじって遊ぶ
    • 簡単にワニを見つける方法
    • ワニは夜行性?
    • ワニは集団で狩りをする?
    • 「飛行機ブーン」何をしているのか?
    • ワニには帰巣本能がある
  • 第4章 巨大ワニの魅力 その姿は龍か恐竜か…ワニ愛好者のロマン!
    • ギネスに載った世界最大のワニ「ロロン」
    • 伝説のナイルワニ「ギュスターヴ」の正体
    • 巨大ワニはなぜ守られるべきなのか?
    • 戻りつつあるノーザンテリトリーの巨大ワニ
    • ナイルワニの巨大個体は存在しないのか?
    • シンガポールの倉庫に眠っていた巨大頭蓋骨
    • Column2世界の巨大ワニランキング
  • 第5章 ワニ研究の最前線 研究者からレンジャーまで…ワニを取り巻く人間模様
    • ノーザンテリトリーという町と人、そしてワニ
    • 野生のワニのモニタリング調査
    • 休日にも観察に行くほどワニが好き
    • 全て種を知る研究者は、意外に少ない
    • 乱獲の悲しい過去と奇跡的な回復
    • ワニにとっても、人にとってもよい未来
    • Column3レッドリストの内訳
  • あとがきにかえて〜どうやってワニの研究者になったのか
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