「なぜ人と組織は変われないのか」きっと私もあなたも、自分の会社やチーム、人を想像したのではないでしょうか。本書を書いたロバート・キーガン氏は、人と組織を心理の面から考察し、教育に活かしていく方法を研究しています。
本の中で示されている、変われないメカニズムとも言える『免疫マップ』。これは誰しも、つまり自分にも当てはまることだな~と反省してしまうやつです。
改善目標を掲げているものの、目に見える「阻害行動」のみならず、実行する人に内在する「裏の目標」と「強力な固定観念」がその実現を阻むというのです。それらをどう克服していくのかを本書は示唆を与えてくれます。
本の概要と要約
問題提起と解決方法
何を?
人を支配する裏の目標を理解したうえでの本当の能力開発を。
誰に?
組織学習に関心のある人へ
なぜ?
人は本心からやりたいと思っていることと実際に実行できることに大きな溝があるから
内容
自分を理解するための免疫マップ(改善目標・阻害行動・裏の目標・強力な固定観念)を書き出し、克服行動によって自分を支配しているものから解き放たれよう。
【免疫マップの例(コンサルティング会社のジュニアパートナー)】
◆改善目標
もっと自分の情熱に従って行動し、自分の持ち味を信じることにより、もっと仕事に胸躍らせ、やる気を高めたい。
◆阻害行動
あまり興味のない課題に取り組んでしまう(それをやらなくてはならないと思うから)。決まりきった手順で仕事をしてしまう(そうすることを期待されていると思うから)。
◆裏の目標
評価担当者に好印象を与えたい。
評判、対人関係、収入の面でリスクを伴う行動をとりたくない。
成功してないと思われたくない。
未知のルートや、成功や安全が約束されていない道に踏み出したくない。
◆強力な固定観念
成功を手にするための最も手堅い道は、すでに確立されている方法にのっとり、まわりに期待されているやり方に沿って行動し、その枠内で傑出した成果をあげること。
本の解説と感想
人間の知性は大人になっても成長する
「どうせこの人は変わらない…」と思うことってありますよね。
ロバート・キーガン教授は、「大人になったら人の知性は変われない」という考え方が誤りであり、大人になっても人間の知性は成長すると述べています。30年前までは20代でほぼ成長は止まると考えられていたものが、今では人間には次の3つの発達段階を経て成長すると考えられているそうです。これらは私たちの身近なところでは「仕事」に従事する人たちを想像してみると分かりやすいです。
①環境順応型知性
チームプレイヤーです。情報の影響を受け自己形成していく段階で、受け身型とも言えます。まだ自己が確立していない段階なので、帰属する組織の価値観や上司の期待などによって徐々に自己が形成されていきます。
物事の考え方や資料のつくり方、これらすべて新人のころは受け入れるしかなかったですよね。
②自己主導型知性
自分なりの羅針盤と視点を持つリーダーです。視野が広がり、視座が高まると、今まで点でしか見れてこなかったころと比べると、自分なりの課題設定と問題解決の判断基準が確立されていきます。言われたことだけではなく、自分の価値観や行動規範を設定することで、自我を形成しています。
リーダー的な立場になると否が応でも自分なりの判断基準が必要になりますし、リーダーになるような人は少なからずその判断基準があるから任せられるんですよね。
③自己変容型知性
学習することで場面に応じて変容できるリーダーです。自分の価値基準は持っていつつも、それだけではすべてが解決できないことを悟り、自分に対する反対意見などを受け入れながら自我を形成していきます。
優れたリーダーは、自己の価値観が明確なのと同時に、他者の価値観を認め、受け入れていますよね。
そして昨今、ビジネスの世界で求められるのは「大量生産大量消費」の時代のような順応型知性ではなく、複雑な環境変化に対応できるような人が求められています。これを実現するために、部下は自己主導型へ、リーダーは自己変容型へ知性レベルを向上させる必要があります。なぜなら、現在の業績好調のCEOの知性を測定したところ、知性レベルと仕事の能力には相関関係があるという研究結果がでたというのです。
では、どうやったら知性レベルが上がるのかというと、「学習方法を見直すこと」だそうです。
わたしたちが直面する課題のなかには、「技術的な課題」と「適応を要する課題」の2つがあり、このうち「適応を要する課題」には、知性レベルを上げなければなりません。ちなみに技術的な課題とは、例えば不具合で前輪が出ない旅客機を無事に着陸させたりできる技能的な課題のことを指します。「適応を要する課題」とは、いままでの思考のままただ新しい技術を習得するだけでは対応できない課題です。
人も組織も清廉潔白じゃない
人と組織とが変容するプロセスを説明したものに、「レヴィンの3段階の変革プロセス」があります。さらに分解したものが「コッターの8段階の変革プロセス」です。
①危機意識の醸成、②チーム編成、③ビジョン策定、④周知、⑤自発性の促進、⑥短期での成果の実現、⑦さらなる推進、⑧文化定着、といった流れなわけですが、言うは易し。すっきりしていてなんだか納得感もありますが、泥臭くもありに人間味ある心理的なハードルがこの過程のなかに存在します。
本音と建前という2つの言葉が、よく対比されます。ありますよね?みなさんがやっているビジネスにも本音と建前が。世の中はそんなに清廉潔白じゃない。
清廉潔白じゃないことは恥ずかしいことではなく、人ってそういうものだと心を構えると途端に楽になります。問題は自分だけが分かったところで組織は変われないということです。
人を支配する「裏の目標」と「強力な固定観念」
なぜ変われないのか。本音の部分(本人は気が付いていないこともある)である「裏の目標」と、さらに自分だけの常識になってしまっている「強力な固定観念」が呪縛のようにまとわりつきます。
ありがちだなあ…と思います。
「新規事業を創出する!」なんて言いつつ「足元の利益が大事」だったりして、投資が不十分…どころか1円も予算が下りず既存のなかで生み出せということになっている。無念。
これらの裏側にある固定観念は定かではありませんが、「新規事業は成功しない」なんていう固定観念があったら目も当てられません…
自分とチームの免疫マップを知ることが大事
さも悟ってますと言わんばかりに書き連ねてしまってますが、わたし自身も然り。本の中にもありましたが、「権限委譲」ができない。私の免疫マップを書き出すと以下のような感じでしょうか。
改善目標
権限委譲をして人材を育てたいとする。
阻害行動
やり方に口を出す
裏の目標
自分が優位に立っていたい。
強力な固定観念
自分がやったほうが早い。
これでは変わらないです…心持ちが変わらないと。
でもここまで書き出せれば、どうすればいいか改善策は出せそう!
では、チーム・組織の場合はどうでしょう。
ワークショップなどによって、できるだけ書き出した方がよさそうです。組織としての改善目標に対しての阻害行動・裏の目標・固定観念は、人によって違うことがあります。それだけ多様な論点が生まれる可能性がありますよね。
チームでの共有で大事なのはオープンにしてもリスクフリーであることでしょうか。言いにくいことが裏の目標である可能性が高く、なるべくそれを言いやすい環境づくりを心がけましょう!
本の目次
- 序章 個人や組織は本当に変われないのか
- 人が変われない3つの要因
- 「学習する組織」を実践する
- 本書の構成
- 第1部 ”変われない”本当の理由
- 第1章 人の知性に関する新事実
- 「大人になると脳の成長は止まる」の嘘
- 大人の知性には3つの段階がある
- 成功する人の知性とは
- リーダーと部下に求められる役割の変化
- 学習方法を見直す
- 第2章 問題をあぶり出す免疫マップ
- X線のように本当の原因を映し出す
- 変革のアプローチを再考する
- 雑でも矛盾を抱えている
- 問題は同じでも、免疫マップは人それぞれ
- 人は「不安」を避けるようにできている
- 「変化」は「不安」の原因か?
- もっと広い視野で「知る」ために
- ジレンマの価値
- ”変革をはばむ免疫機能”の3つの側面
- 第3章 組織の「不安」に向き合う
- 一人ひとりの「一つの大きなこと」は?
- 深い理解から本当の変化へ
- 問題を隠したままでは、本当に変わることはできない
- 個人と組織の成長をつなぐ
- 組織学習を推進するリーダーシップ
- 第1章 人の知性に関する新事実
- 第2部 変革に成功した人たち
- 第4章 さまざまな組織が抱える悩み――集団レベルの変革物語
- ある大学教授の場合――「優秀な若手が逃げていく!」
- 米森林局のある部署の場合――「同僚が死んでいるのに、なにもできないんだ!」
- ある教育委員会の場合――「私たちは、子どもたちに十分な期待をいだいていない」
- あるコンサルティング会社の場合――「経営陣がチームとして結束できていない!」
- ある大学病院の外来病棟の場合――「私たちは、麻薬目当ての患者に甘すぎるんです!」
- ある医学校の教授陣の場合――「解決策はわかっているのに、実践していない!」
- 第5章 なぜ部下に任せられないのか?――個人レベルの変革物語①
- 権限移譲できない原因を探る
- 変革後――部下の能力を引き出すリーダーへ
- 変革を導いた2つの手法
- 自分の考え方の限界を知る
- 新しいリーダーシップへ
- 変革を推進するために――自分の行動を振り返る
- 第6章 自分をおさえることができるか?――個人レベルの変革物語②
- 感情をコントロールできない原因を探る
- 変革後――同僚が認めた進歩
- 変革を導いた「事件」
- 変革を継続させる新しい行動パターン
- 世界認識の方法が変わる
- 第7章 うまくコミュニケーションが取れないチーム――集団を変革するために、個人レベルで自己変革に取り組む物語
- 現状の「自画像」を描き出す
- 改善目標を設定する――第1回ワークショップ
- 個人レベルの進歩を確認する――ワークショップ後の作業
- 新たに浮上した問題に対処する――第2回ワークショップ
- 進歩の度合いをチェックする――第3回ワークショップ
- 変化し続ける組織へ――事後の個別面談
- どうして成功したのか?――学ぶべき教訓
- 第4章 さまざまな組織が抱える悩み――集団レベルの変革物語
- 第3部 変革を実践するプロセス
- 第8章 変わるために必要な3つの要素
- 要素1 心の底――変革を起こすためのやる気の源
- 要素2 頭脳とハート――思考と感情の両方にはたらきかける
- 要素3 手――思考と行動を同時に変える
- 変革に成功する人の共通点
- 第9章 診断――「変われない原因」を突き止める
- 免疫マップの作成を開始する
- 第1枠 改善目標
- 第2枠 阻害行動
- 第3枠 裏の目標
- 第4枠 強力な固定観念
- 第10章 克服――新しい知性を手に入れる
- 強力な固定観念を検証する――実験の設計、実施、結果分析
- 学習の成果を定着させる――落とし穴と脱出ルートを発見する
- さらなる進歩を目指す
- 第11章 組織を変える
- STEP1 改善目標を決める
- STEP2 阻害行動を徹底的に洗い出す
- STEP3 裏の目標をあぶり出す
- STEP4 強力な固定観念を掘り起こす
- STEP5 実験の準備をする
- 終章 成長を促すリーダーシップ
- リーダーはどのように道を示すべきか
- 大人になっても成長できるという前提に立つ
- 適切な学習方法を採用する
- 誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ
- 本当の変革には時間がかかることを覚悟する
- 感情が重要な役割を担っていることを認識する
- 考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する
- メンバーにとって安全な場を用意する
- リーダーはどのように道を示すべきか
- 第8章 変わるために必要な3つの要素