『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の書評とサクッと要約|人間と動物の違いは悩むこと

人間をお休みしてヤギになってみた結果 Amazonほしい物リスト2020
人間をお休みしてヤギになってみた結果(トーマス・トウェイツ著)

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』。こいつは、そのふざけたタイトルは言わずもがなですが、タイトルによってそのすごさが覆い隠されている、ヤバい本だった。ヤバい事実として、研究自体はユーモアかつユニークな研究に贈られるイグノーベル賞を受賞しています。

訳者あとがきを見るに、翻訳された方も腹を抱えながら訳していたように思えます。本文もユーモアを交えた言葉が並びます。本に挿入されている写真のキャプションも。でも研究(?)の各プロセスはちゃんとしているのが、読めばわかります。

著者で主人公のトーマスは、自分が定職に着いていない境遇に悩んでいました。そこで悩みのない人間なんていないことに気が付く。姪っ子の犬・ノギンの散歩をしながら、「エリザベス女王でも悩むのにノギンときたら悩んでいるようにはみえない」と人間と動物の違いに考えをめぐらせます。

その結果、「悩む」という人間特有の現象から解放されるために、「人間をお休みしちゃうってどうだろう?」と考えます。

最初、人間をお休みして「象」になろうとしていた著者トーマス。
いきなり、

「象になりたいプロジェクト」の本当に基本的な部分で問題が発生してしまったんだよ。つまり象になりたくなくなっちゃったんだ」

p26

シャーマンからは、

「あんたはヤギになりなさい」
「お、おう」

p41

別のシャーマニズムの体験では、ヤギの魂に会えるのかと思いきや

こっ、これは、これはまさに……。ウサギだ。

p66

ヤギになって暮らすということを

異種間の「イチャイチャ」を正当化するための策略

p89

という妄想も膨らませる

途中で出会う専門家たちを巻き込み、前に進みます。

最初、資金提供を受けた団体からは、
「申請書に記されたゾウのことというよりは、ヤギの話をしているように思いますが…このメールを受信したことを確認していただき、現状を支給明らかにご説明ください」
と指摘される始末。

紆余曲折ありながらも、なんとかトーマスは専門家たちと製作したヤギのコスチュームでアルプスを越えるのだった…

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サマライズ(本の概要と要約)

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の問題提起
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の問題提起

●著者の課題
人間は悩む生き物。未来を心配するのは想像ができるから。これは人間特有な悩み。

●解決方法
世界中のややこしいことから少しだけ距離を置いて、人間をお休みしちゃったらどう?

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の全体像
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の全体像
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の要約
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の要約

●内容
・著者はトーマス
ーフリーのデザイナーだが、定職がなく不安。
ー動物になれたら自由になれる、すごくない?と思う
ー医学研究を支援する団体に企画を申請し通過
ー最初は「象の視点から人生を体験する」という内容だった

・プロジェクトの全体像
ーあっさりと「象」になりたくなくなる
ーシャーマンに相談したら「ヤギになれ」と言われ、なんか納得する
ーヤギの思考・体・内臓などを研究
ーヤギ農場を拠点にアルプス越えを目指す

・魂
ー「象じゃない、ヤギになれ」
ー旧石器時代から人間は動物と人間の違いを考えてきた
ーヤギになろうと考えないほうが異常じゃない?

・思考
ー「気に病むことができるのは人間だけ」
ー動物が何を考えているか確信をもって「わかる」には、身をもって示してもらうしかない
ー家畜は人間の意に反する個体を避けて繁殖されてきた
ー人間も自分たちを家畜と同じように凶暴性などを社会的に排除しようとする
ー人間と動物の違いは「気に病むこと」だけでは

・体
ー「ギャロップ?それは無理」
ーヤギは肩甲骨を外すことができるから高いところから飛べる
ー人間を含む動物の構造には歴史があり、類型化されている
ー例えば人間は首が短い。ヤギとなるには頭を上げ続けられるかどうか。

・内臓
ー「ヤギの腸内から微生物を移植して…」「ダメ」
ーヤギは草を食べ、微生物草を分解して、ヤギは微生物の生産物を消化する
ー第一胃にあるルーメン液は人体に有害な要素も持つことがわかった

・暮らし
ーヤギ農場でヤギのコスチュームを着て数週間暮らす
ー農夫にヤギに受け入れられた、と言わしめる
ーヤギのコスチュームでアルプスを越える

著者トーマス・トウェイツとは

著者のトーマスは、当時33歳でフリーのデザイナー。定職はなく、恋人が仕事に行くのを送ったり、姪っ子の犬を世話する毎日。銀行から口座開設すら断られ、そして父親と同居し、親の脛をかじっている状況。

一見、うだつの上がらない、だらしない男のように思えますが、トーマスは学生時代の卒業制作で様々なメディアで脚光を浴びました。その卒業制作は「トースター・プロジェクト」。

TEDでも”How I built a toaster — from scratch”(トースターを1から作る方法)という内容でプレゼンしているほどです。

トースター「1」から作るというよりは、「0」からと言ったほうが正しいかもしれません。鉄を作るために鉄鉱石を採取しようと鉱山に侵入したりして、原材料からスタートというプロジェクトです。このプロジェクトで完成させたトースターは、今ではイギリスにあるヴィクトリア&アルバート博物館が購入し、パーマネント・コレクションにも加えられています。

そんなトーマスが新たに企画したのが本書『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の”GoatMan Project”でした。

ちなみにトーマスの2冊の本は、試し読みができるので、興味があればのぞいてみてください。

●トーマス・トウェイツ著作
人間をお休みしてヤギになってみた結果』(2017年/新潮社/訳・村井理子)
ゼロからトースターを作ってみた結果』(2015年/新潮社/訳・村井理子)

本の解説と感想

問題提起

人間の仕事は悩むこと。

通勤する人々と恋人、いい年なのに父と同居する自分とを比較して、悩みだすトーマスは、姪っ子の犬・ノギンには悩みがないように思えることから、人間特有の悩みというものを、数週間だけ消しちゃったらどうか?と思いつきます。

トーマスがここに至る思考は、ちょっと哲学的。悩むためには何が必要なのか、という問いについて、トーマスは、こう考えます。

未来について心配するためには想像しなければならない

p18

人間が、この世界にはとても危惧するべきことがたくさんあると考えるのは、それが起きるのか起きないのか「想像」することだと考えました。人間特有の悩みはどんな人間だってある、エリザベス女王だとしてもあるのに、それに比べて犬のノギンは悩まない。そんなところから、トーマスは、「世界中のややこしいことから少し距離を置いて、仕事から、暮らしから、そして自分自身から、お休みをとっちゃはない?人間をお休みしちゃうってどうだろう?」と考えました。

トーマスの行動は早い。

医学研究を支援する公益信託団体であるウエルコムトラストに、「経頭蓋磁気刺激を使って、脳内の将来計画と言語中枢のスイッチを切って、象の視点から人生を体験する」というプロジェクトを提出し、採用され、活動資金を得ることができました。

シャーマニズム

このプロジェクト、さっそく大問題が発生。少し時間が空き、ちょっと生活に充実さが出たトーマスは、象になりたくなくなっていた

というと、またやる気がないよういに思えてしまうが、しっかりと目的と現実を摂られての判断。まとめると、象が首が短いまま進化したわりに、手足が長すぎて、象人間になるためにはエンジンを積むとかいう話になってきてしまうからだ。もともとのゴールは人間であることの痛み(悩むこと)から解放されることだったので、象になりたくなくなったのは賢明な判断。

そんなとき、友人からシャーマン(人間と動物の関係の専門家だという)に会うことを勧められ、アネットというシャーマンを訪問。自分にぴったりの動物に出会う精神世界へ連れて行ってもらいたいと依頼します。アネットは連れていくことは断るものの、ヤギになれと言います。象になりたいというトーマスは関係性がないため、そこはすぐに否定。

トーマスはアネットから多くを学びます。アネットは言います。

人間は動物と人間の間の違いを埋めようとずっと努力してきたのよ。いつの時代もね。

p46

後期旧石器時代にも、半分が人間で半分がバイソンの買いがあったり、鳥の頭を付けた男性が描かれたりした。こうした人間と動物が融合するというか考え方は大昔からあったことがわかります。また、シャーマンという存在が動物に変身しようとするのは、動物と人間は単なる捕食関係ではなく、継続的な関係を望んでいるから、動物の魂を奪うことに対して許しを請う契約を結ぼうとしているのだそうです。

そしてトーマスは悟ります。

歴史になぞらえて言わせてもらうと、ヤギになろうと思わないなんてほとんど異常ってことだね

p53

さすがトーマス。

思考体験

トーマスが素晴らしい点は、フィールドワークを欠かさないことと、専門家を訪ねることです。そしてたいがいプロジェクトを聞いた人たちは呆れます。(このころにはすでにヤギになることが前提になって話が進んでいます)

ヤギの知覚に科学的にアプローチしていくために、ヤギの専門家を訪ねます。トーマスの家のイン所にバターカップという虐待されたヤギのための保護施設があり、動物行動学者に「ヤギになる」プロジェクトの話を展開。ヤギの思考になるための一番のハードルは、何を考えているのかがわからないという点だという。「動物が何を考えているのか確信を持って語るためには動物に何を考えているのかどうにかして身をもって示してもらうこと」。別の神経科学者の話によれば、50年先になればヤギの思考が分かるようになっているかもしれないとのこと。

この思考の章では、人間と家畜(動物)の違いについての下りについては考えさせられました。

家畜は、人間がコントロールしやすいよう凶暴性を排除するために、次世代に問題のある特徴を残さないように配合されてきました。実はこのシステムは人間社会にも当てはまるわけです。人間もトラブルメーカーがいると、その異端性を排除しようと結託します。人間の自己家畜化です。この成果として、人間の体は細身になり、脳は縮小し行動がより幼くなったがために成長しても好奇心を持ち、新しいことが学べ、地下鉄の混雑にも寛容になれるというのです。ちょっとだけ、『サピエンス全史』の人類は統一に向かっているという話を思い出しました。

道具を使うかどうか、というのも人間と動物の違いを説明する一つの論点になります。しかし、ジェーン・グドールが野生のチンパンジーが枝を使ってシロアリを食べることを発見している。もうひとつは言語だが、プレイリードッグは捕食動物の、大きさ・速度・色といった特徴を仲間に伝えるために、声を変化さえることが分かっています。

つまるところ人間と他の動物を隔てるものは何かというと、

複雑な物事を想像する能力と、それをペチャクチャと話したくなる傾向

p108

という、結論を導きました。わかりやすい。

最高にヤギの気分
最高にヤギの気分だって?
最高にヤギの気分
ふざけてんのか

体と内臓の構造

ヤギになるということは、四足歩行で歩くということ。そしてトーマスの夢はギャロップすること。体づくりに関しては複数の専門家の協力を得ます。

構造と運動の研究者ハッチンソン教授
義肢装具師のグリーン・ヒース医師
補綴の専門家ジェフ

ハッチンソン教授は、動物の様々なカテゴリーを類型化して人間の進化の歴史を両生類や魚類にまで遡り、共通の特徴と違いを説明。つまり、人間は大きな脳と短い二足歩行の生き物として大きな進化を遂げていたため、ヤギとは違う…と説得にかかろうという流れです。

残りの二人も同様にトーマスのチャレンジには無理があると主張します。

彼らは僕が知らないことをたくさん知ってはいるけれど、僕を落胆させようとしている

p164

専門家は、彼らの当たり前のなかで生活しています。なので専門家は素人の突拍子もないことを優しく否定してしまいがちです。落胆するトーマスですが、それでもヤギになるという謎の情熱をもって、専門家たちを押し切り、協力を得ることに成功します。

体に関する学びは…
・人間がヤギになるためには、背中を平行にする必要がある
・ヤギが高い場所から飛べるのは肩甲骨を外すことができるから
・四足歩行で頭を上げ続けなければ血流に影響を与えてしまう

さらにヤギになる研究は消化器官にまで及びます。

ヤギの保護施設バターカップの協力を得て、1頭の死亡したヤギを譲り受け、ハッチンソン教授と解剖します。目的はヤギのように草で生活することができるか。

ヤギが食べた草は、第1胃でバクテリア・真菌・原虫など多くの微生物が草を分解し、その微生物が生産するものを消化して栄養としています。本の中では、この流れを解剖しながら解説しています。トーマスはヤギとして草を食べていくために、ヤギの腸内から微生物を移植したらどうか…と考えますが、キングストン・スミス博士に止められます…

移植できないのであればと、研究者向けに販売されている、セルロースを消化するセルラーゼ酵素という工業製品を買うことに…

ところが、ここで思いもよらない出来事が。

申請書に記されたゾウのことというよりは、ヤギの話をしているように思いますが…このメールを受信したことを確認していただき、現状を支給明らかにご説明ください

p207

というメールが資金提供元であるウエルコムトラストから届く。

トーマス、焦る。これまで十分に時間があったにもかかわらず、かなり初期から象ではなくヤギに対象が変わっていたことを全く伝えていませんでした。しかし、なんとか説明して事なきを得ます。

トーマスは、体と消化機能を手に入れ、いよいよアルプスに向かうのでした。

ちなみにコスチュームの一部は母親が作ってくれた!

ヤギとしての暮らし

人間をお休みしてヤギになってみた結果
トーマスうしろ、うしろ

さて、いよいよ、ヤギとしての暮らしを始めます。

ここから先は本書の集大成でもあります。はたしてトーマスはヤギになることができたのか、ヤギになれたとしたら何を思考したのか、何をもってヤギになれたといえるのか…

アルプスに向かう道から、拠点とするヤギ農場での出来事など最後までユーモアが続きます。気になる方は手に取ってみてください。

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