つい安いから買ってしまう。そうした消費がめちゃくちゃ多い気がします。「最低でも、品質をこれくらい満たしていれば大丈夫だよね」という感覚でしかないけれど、その安さは何かしらでコスト削減をした結果で、その企業努力と呼べるものには、安い労働力を買う選択をしていたりするわけですね。『サステナブル資本主義』の「考える消費」というのは、例えばフェアトレードで製造している商品を買ったりとか、購入した商品の一部が寄付されるとか、大きな選択肢で言えば、自分が使う電力に再生可能エネルギーを取り入れるとか、高くてもあえて持続可能な社会に近づきそうな消費を選択することです。
「サステナビリティ」というビッグワードが、今年に入って急激にメディアでも取りざたされるようになりました。何がキッカケなんだろう?
グレタさんに代表されるようなZ世代が、大人たちに持続可能な地球にするための行動を怠っているという怒りが、一周まわってファッションのようになっている気もする。
世界ではESG投資という非財務情報をベースにして未来に生き残るであろう銘柄に投資する向きが強くなっているのも事実。それは超長期的な投資判断なのだろうと思います。社会課題を解決するためには、これまでの企業の3ヵ年計画ではとてもじゃないけどリクープできない。普通の経営者はそんな先まで想像してビジネスはできていません。次の月をどう生きるかで頭を抱えている人だって多い。
ですが上場企業になると、こうした超長期目線の圧力は、短期思考の経営者が本気で向き合うかどうかは置いておいて、強制力をもって「せざるを得ない」パワーを持っているので、結果としては歩み寄っていくんだろうなと思います。
ここで取り残され気味なのが、労働者であり消費者である、私たち(投資もしてるけど…)。
企業が短期思考なのは、目先の利益に捉われるからで、国がサステナブルな方針に振り切れないのは持続可能な技術などを選択してついてくる消費者がいるかどうかがわからないということ。そこで掲げられた「サステナブル資本主義」とは、消費者自らが持続可能な社会を実現するための消費を積極的に選択することです。
冒頭の繰り返しになりますが、安い賃金で生産した商品ではなくフェアトレードでもって作られた製品を買う、とかそういうこと。言うは易しですが、考える消費は一人ひとりが貧しくなく豊かな状態でないと選択できないわけです。
日本は最近、賃金が安いなど叫ばれてるけど、諸外国ほどの貧しさを感じる人はそう多くはないはず。だからこそ持続可能な選択を多くの人ができるということでもある…
という感じなのですが、確かに貧しくはないけど豊かではないような気がするし、稼いでも不安しかない気がするのはなんでだろう。バブル崩壊の負のイメージがずっとつきまとっているんだろうか。
本の概要と要約
著者の課題
持続可能な社会の実現が叫ばれているが、資本主義による支配が障害になっている。
解決方法
5%の「考える消費」が社会を変える。お金を中心とした資本主義から人と社会を中心としたサステナブル資本主義に移行する。
内容
・資本主義は㈱地球を借金まみれにしている
・資本によるリターンは実体経済の成長率を上回る
-ピケティの r(リターン)>g(成長率)
-働くより投資すれば稼げる時代に
-でも多くの人にその実感がない
-投資家が企業の株を所有し、M&Aではプレミアムがついて売買される
-企業は労働力を購買する、買いたたきたい
-大量生産大量消費に慣れ。資本主義のなかで経済は成長
-しかし、資本主義は短期思考になる
・㈱地球は債務超過
-見えない地球資産を消費している
-バランスシートに多くの計上漏れ
-地球のターミナルバリューを毀損
-持続可能性に疑問
・考える消費者が求められる
-リターンドリブンからミッションドリブンへ
-社会課題を解決するプロダクトが一定水準のレベルになるには時間と金がかかる
・投資家マインドの消費が未来をつくる
-つまり、消費者→労働者→投資家になる
-資本主義ではその逆(投資家→労働者→消費者)
-サステナブル資本主義は「考える消費者」が起点
-ほんの少しの初期ユーザーが社会を変える
-消費=投資と考える
-個人と社会の「豊かさ」が必要
・国や企業が意思決定できる状況を消費者が生み出す
-アメリカはEV車を買える富裕層がいたからEV推進できた
-本当に持続可能な社会を目指すなら、消費者が自ら再生可能エネルギーを消費すればいい
-5%の考える消費者で社会は変わる
著者:村上誠典(むらかみ・たかふみ)とは
1978年、兵庫県生まれ。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。2017年に「未来世代に引き継ぐ産業創出」をテーマにシニフィアンを創業。200億円の独立系グロースキャピタルを通じたスタートアップ投資や経営支援、上場 /未上場の成長企業向けのアドバイザリーを行なう。
村上氏は、JAXAで働くうちに「技術だけではなくお金(資金力)が切り離せない」ものと感じビジネスの世界へ飛び込んだそうです。ゴールドマンサックスでM&Aでさまざまなスタートアップに投資をするように。しかし、東日本大震災を経て日本は再成長目指すなか、世界のGAFAMの勢いを横目に、資本主義の課題が見え、持続可能な未来を生み出していくためにどのようなアップデートが必要かを考えたいと本書の「サステナブル資本主義」を提唱しています。
●インタビュー記事
【村上誠典】サステナブル資本主義の「本丸」は地域だ(NewsPicks 2021.11.13)
●公式
Twitter:村上誠典(@Murakami_Japan)
note:村上誠典 | 「サステナブル資本主義」著者 | 未来投資家
本の解説と感想(レビュー)
資本主義の功罪
富は株式投資によってもたらされている
『サステナブル資本主義』p32
バビロンの大富豪の教えでも、お金はお金そのものに働かせろ、というものがあります。これは働いてお金を貯めることが富をもたらすのではなく、働かなくてもお金が富をもたらしてくれるという教えです。
『資本論』という本が話題になりました。その本でトマ・ピケティが「r>g」という法則について発表しています。「r=資本によるリターン」が「g=実体経済の成長率」を上回るというシンプルな法則です。
働いて稼いだお金を銀行に預けることも、一応利回りがあるので投資といえばそうですが、資本主義が浸透した現在、株式投資が大きな富をもたらしています。例えば、アマゾンやテスラの初期に投資をしていて、今も寝かせていたとしたら…とんでもないことになってます。世界の富の多くは、投資によってもたらされていて、富裕層は実際に働くよりも投資に頭と時間を使っているんです。
「複利」という効果も絶大。複利の考え方だと、企業が稼いだお金はそのまま再投資されるので、さらに成長する。その企業の株式価値は高まり、大きな富を得る。
ところが、この資本主義の構造の一部は、原材料の安さと人件費の安さの恩恵を受けています。資本主義は「大量生産・大量消費」という仕組みで加速していきました。
さきほども述べましたが、資本主義は複利で大きくなっています。その回転が速いほど富が膨らむ構造がありました。大量生産・大量消費です。その仕組みは、企業側にしてみれば「いかに安く作るか」が重要。安い土地の資源を買い取り、安い土地の労働者に作らせる。さらに消費者には何度も買い替えさせるマーケティングも。
こうした状況が(株)地球の資源を削り取っていったのです。
㈱地球は債務超過
今、持続可能性について疑問が生じています。これは㈱地球が永続的に経済活動を行えなくなるということを指します。企業ファイナンスの常識で言うなら、永続的な成長を前提とできず、ターミナルバリュー(永続価値)が毀損している状況になります
『サステナブル資本主義』 p63~64
地球を一つの会社に見立てると、地球はじつは借金まみれだという話。
PLはこんな感じ。
売上=GDPの合計
費用=労働力(人件費)
利益=増加する価値総量
BSはこんな感じ。
現金=これまでの利益総量
純資産=これ窓の利益総量
人類誕生以来、経済活動を通じて(株)地球はGDPを生み出して成長してきた。ところが、持続可能性の視点で2つの問題が浮上しています。
1つは富が一部に集中することで、労働力が買えなくなってきている。コンビニを見ていれば明らかですが、これまでの賃金では働かなくなっている人がいるので、外国人の方がレジに入るようになっています。
もう1つはBSに多くの計上漏れが発生し、不正会計の状態になっているという点。(株)地球がつくり出すモノは、水・鉱物・森林などが使用されているものの、その資産は無視されてきました。計上すべき地球という希少資産を計上していないし、それを買うための借入金も計上していない状態です。
では(株)地球が倒産してしまうと、どうなるのでしょう。その不利益は一部の富裕層にではなく、全人類に分配されます。なぜなら、実際に価値が毀損してしまっているのは、地球という資産だからです。本来であれば、不正会計による経営責任訴訟を起こすような状況です。
このままの経営が続けば、債務超過で破綻し、そのしっぺ返しが人類に降りかかってしまいます。
考える消費
投資家ではなく消費者が世界を変える
『サステナブル資本主義』 p127
既得権益など従来の産業構造が障壁となって、持続可能な社会の実現にはハードルがあります。これまでも各国が表向きには「二酸化炭素排出が~」と言いながら、遅々として進まなかったのは、資本主義がもたらす富の構造によるんでしょう。
ところが、昨今は消費者から社会を変えていくという事例も生まれています。
例えばメルカリ。メルカリの基本構造は、自分の手元にあるけど不要なものを、買いたいと思う人が買う、CtoCです。安易な言葉で言えば、中古品販売、フリーマーケット。しかし、中古の動きを苦々しくメーカーがいるのも分かります。
出版業界の場合、あずかり知らないところで回し読みされたら、出版業界は儲からないわけです。なのでブックオフが流行したころには産業が大きな声を上げていました。しかし、多くの人たちにとってはブックオフもメルカリも支持されています。そうなるともう産業構造に入れるしかありません。
米国テスラはEV車。めちゃくちゃ高かったし、電気のインフラも整ってない状況下でも買うユーザーがそれなりにいたので、米国は持続可能性のためにEV推進に振り切ります。もちろん日本の自動車産業を脅かす意味もあったと思いますが、こうした需要が産業構造を変えていったのです。
考える消費とは、「短期的な利益創出」ではなく「持続可能な社会を目指す」という選択をするということです。今後は消費者1人1人が自分の中でどのように稼ぎ、使っていくかを考える必要があり、その行動が大きなうねりをもって社会を変えていくことができるはず。
今後「通勤はしたくない」「食べ物は地産地消で有機野菜を食べたい」「休暇は海外旅行や遠出ではなく、近くの自然や観光資源をゆっくり楽しみたい」などの選択をする消費者が5%でもいれば、その需要に基づいた企業や国の意思決定が行えるはず…というのが、著者の持論で、サステナブル資本主義は、考える消費者が起点となって持続可能性を促す資本主義ということです。
サステナブル資本主義と日本
消費者が投資家マインドを持つ、サステナブル資本主義へと移行するとしたら、世界はどうなるのでしょうか。筆者は日本には大きなチャンスがあるとしています。
持続可能な社会、省エネ、ステークホルダー主義など、海外では新しい考え方かもしれませんが、日本では昔からこうした考え方が存在しました。企業は消費者に求められなくても安全で最高品質を求め、省エネの技術も作り上げ、地域社会に根差したシステムや終身雇用など。
また、日本人は海外よりも貧富の差を感じない社会ではないでしょうか。例えば、日本は高額なiPhoneの普及率が世界で最も高い国だそうです。機能だけで言えばiPhoneではなくほかの端末を買えばいいだけなのですが、iPhoneの示す未来デザインに投資をできるからこその選択です。何よりもGDPはまだ世界第3位。この豊かさがサステナブル資本主義において日本に大きなアドバンテージになるのです。
教育水準、インフラも高いです。大学以上の教育にはなかなか予算が取られず、『シン・ニホン』で危惧される投資はできていないのですが…とはいえここも一定水準に達しているわけです。足りないのは「ファイナンス」や「投資」「世界のトレンド」「社会課題」についてで、これらについて学ぶ機会があれば、さらに大きな武器になりそうです。
社会課題の解決は超長期的です。投資家マインドの例で挙げたような「テスラ」などは、社会課題に対するミッションに消費者が共感して消費が生み出され、新たな経済を生み出そうとしています。日本はこの長期的な行動がとれていないというところです。
日本が世界に先行してもう突入してしまっている超高齢化社会や人口減少という社会課題は、まさに長期課題。間違いなくいずれの先進国も迎えるこの課題にいち早く立ち向かえるということは、将来、日本が世界をリードする社会を試行錯誤できるということです。これまでも日本は、世界に先駆けて通信技術や半導体などのテクノロジーを育ててきた過去がありました。それらを忍耐強く持ち続け、来るべき社会で応用していくことができるポテンシャルを日本は持っているのかもしれません。
まとめ
『サステナブル資本主義』、とても考えさせられる本でした。自分一人の一つ一つの消費について考えてみることが重要で、それが塵も積もれば、持続可能な社会に近づくものになっていく…と信じるしかないですね。「考える消費」をすることはできるけど、最初にも書いた通り、なぜか将来が心配になって、なるべく安い方向でと考えてしまう。でもそれは大量生産大量消費のもとで成り立っているという。
私の場合、本はまだ紙で買っていますが、メルカリで取引することも多くなってきました。新聞なんて一人暮らしをして以来、買っていません。紙の場合、森林資源の現象には寄与しているかもしれないけど、電子デバイスが増え続けていて、それを作るにも廃液や廃水が大量に…うーん、持続可能な選択を考えるにも知識が必要ですね。何が自分にとってできる最適な消費選択なのか、考えておかないと。
本の目次
- 序章 持続可能な社会が簡単ではない理由
- 宇宙の研究から外資系の投資銀行へ
- お金にまつわる話が苦手な日本人
- 大量生産、大量消費に違和感を感じるように
- 持続可能な社会への責任が問われる時代
- カネ余りが世界の投資家の課題になっている
- 第1章 世界的なカネ余りを生む資本主義の限界
- 富は株式投資によってもたらされている
- M & A を通じてお金が投資家に集まる
- 企業が稼いだお金は投資家に還元される
- 投資によりお金が人よりも稼ぐ時代に
- 新たな価値創造へ舵を切るのが難しい理由
- 資本主義はどのように生まれたか?
- 大きな資金を扱う投資家が生まれた背景
- 流動性と第三者の売買で、資本市場が発展する
- 原材料費、人件費の安さに恩恵を受けている
- 大量生産、大量消費を加速させた資本主義
- 第2章 借金まみれの㈱地球。資本主義を再定義する
- 地球を一つの株式会社と考える
- 一部の人に支配されている㈱地球
- 借金まみれの㈱地球
- ゴルフ場開発に見る、資本主義の矛盾
- 人的資本経営が注目される理由
- 長期的な視点で資本主義を再定義する
- サステナブル資本主義に必要な三つの視点
- 不完全なサービスから始まった YouTube
- メルカリ、LINE…シンプルさがユーザーの熱量を捉える
- Netflix が拡大した背景
- 環境問題、格差問題、裏にある社会的コスト
- ディーゼル車とEVから考える社会的コスト
- 持続可能な社会を実現するのはお金より人
- 「なぜ?」を企業価値と結びつけるソニー
- リターンドリブンからミッションドリブンへ
- ユーザーとオーナーの共感ビジネスの例Airbnb
- スタートアップが数%しか生き残れない理由
- クラウド、物流……ユーザーが拡大させるサービス
- 第3章 投資家マインドの消費が未来をつくる
- 消費者労働者投資家
- 投資家ではなく消費者が世界を変える
- メルカリとTeslaに見る、消費者の力
- 消費者が共感により大型資金が調達できたで
- コロナ禍で業績を伸ばした業界株価の変動でわかること
- 投資家マインドを育む三つの方法
- 投資家マインドで消費する
- 考える消費、良い消費と悪い消費
- 貴重な人生の大半を費やす労働
- 会社は、企業は誰のためにある?
- 求められるリスクテイクとコミュニケーション
- 投資家マインドで働く場所を選ぶ
- インセンティブ構造を打破するには
- 給与が上がらない構造を可視化する
- スタートアップに必要な四つの価値創造
- 商品の価格はどのように決まるか
- 創業者が果たす役割
- 適切な分配とは何か、資本主義が抱える命題
- 第4章 資本主義が抱える7つの課題
- 人口の減少、高齢化社会でどうなる?
- 国際紛争の背景に資本主義
- 環境問題、エネルギー戦略
- 資本主義が生んだ食糧、貧困問題
- 第5章 日本は世界のリーダーになれる
- 世界のリーダーになるために
- iPhone が最も普及した裕福で豊かな国
- 社会課題、様々な価値に気づくための教育
- 外国人が働きたい国になる
- 労働賃金を引き上げる方法
- 時間をかけ粘ることも必要
- 株主至上主義的な考え方で手放されたもの
- 国や企業が意思決定できる状況を生み出す
- 国が主導して市場を生み出す
- サステナブル資本主義における国家の役割
- 日本はサステナブル資本主義のリーダーになれる