今年に入って、「KPIだ!」と急に会社が盛り上がって研修も設定され、「いまさらなんだ…」と思いながらも、やっぱり大切だねと、学ぶところも多かったKPIについての一連の学習。『最高の結果を出す KPIマネジメント』もその流れで気になっていたところ、友人からキッカケをもらい購入。
適切なKPI設定の方法に加え、豊富な事例が本書の特徴。
序盤で触れていますが、「KPIとは何か?」という質問にどう答えるかで、自分がKPIについてどう考えているかが、あるいは不確かなものだというのがよくわかります。
KPI(key performance indicator)というのは、事業を分解した数字という頭でいたけど、そうではなく未来志向で「達成すべき数字」と置き換えると、形骸化しない生きたものとして運用できるんですね。本書でいうところの、ビジネスのゴールに向けて構成されるプロセスのどの部分が一番重要で、それがどのくらいの数値になると、ゴール(最終的な目標)を達成できるのか、です。
でも外からやんや言われるとすぐに崩れてしまう。KPIとは何かが関係者で合意できていないと散らかるだけになってしまう。本書では「コンセンサスをとる」とありますが、組織の構成によってはかなりハードルが高いです。事業の責任者が一番成功の鍵を分かっているはずなのに、さら上層では自分の理論で構成してしまう。私も言われたものを管理してみましたが、ただの数字管理になっていて、もはや生きてない。
この本、すごくいいなと思ったのは2つあって、1つは、KGI(key goal indicator)、CSF(critical success indicator)、KPIというものが、それぞれ何で、それがどう関係しているのかをとても分かりやすくまとめている点。
2つ目は事例がたくさんのっていること。実際にKPIマネジメントを導入しようとしても、ゴールが非常に不確かなプロジェクトもあったりします。やれて当たり前の業務、例えば総務や経理も難しいですね。営業という身近なものからコストセンターの話まで、豊富にまとめられています。
難しいと感じたのは、CSFとKPIを一つに絞るということ。「最も重要なの要因」は重要だけど、それだけを追っていて本当に成功できるのだろうか…
本の概要と要約
著者の課題
そろそろ単に数値を見ながら事業を運営する、なんちゃって KPI から脱却しませんか?
解決方法
リクルートの数字で判断する土台をになっている KPI マネジメント手法を共有する
内容
・KPIとは?
-key performance indicator
-事業成功の鍵を、指標・数値目標で表したもの
-CSFを特定したらKGIから逆算して求める
・ダメダメなKPI
-たくさんの数値を設定している
-現場でコントロールできない
-先行指標ではなく遅行指標になっている
・KGI
-key goal indicator
-最終的な数値目標
-ゴールを数値化したものがKGI
・CSF
-critical success indicator
-重要成功要因
-ゴール到達までのプロセス
-CSFを数値化したものがKPI
・KPIマネジメントのステップ
①KGIの確認
-到達点となる目標数値
②ギャップの確認
-現在の状況での予測とKGIの差を見る
-もし差がなければKPIマネジメントは不要かも
③プロセスの確認
-ゴール到達までのビジネスプロセスをモデル化する
-例えば売上=販売数量×単価
④絞り込み
-プロセスのなかで何が一番重要か
-現場でコントロール可能な変数化
⑤目標設定
-CSFを数値化(=KPI化)する
⑥運用性の確認
-整合性:ロジックは正しいか
-安定性:数値は手に入りやすいか
-単純性:シンプルか、分かりやすいか
⑦対策の事前検討
-悪化してからでは遅い
-いつ、どのくらい悪くなったら、どうするか、誰が意思決定するかを事前に決めておく
⑧コンセンサス⑨運用⑩継続的な改善
-一連の内容を関係者で合意を取り、運用に回していく
著者:中尾隆一郎とは
株式会社中尾マネジメント研究所の代表取締役社長。2017年から株式会社旅工房 社外取締役、2018年から株式会社FIXER執行役員副社長、2019年から株式会社LIFULL 社外取締役、2020年からLiNKX株式会社 社外監査役などの要職に就く。
89年同大学大学院修士課程修了後、株式会社リクルート入社。主に住宅、人材、IT領域を歩み、住宅領域の新規事業であるスーモカウンター推進室で室長を務めていた時は、同事業を6年間で売上を30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍に拡大させた。その後リクルートグループでは、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルートホールディングスHR研究機構企画統括室長、リクルートワークス研究所副所長などを務めた。リクルート時代は、約11年間、リクルートグループの社内勉強会において「KPI」「数字の読み方」の講師を担当、人気講座となる。
●公式
会社WEBサイト:株式会社中尾マネジメント研究所
facebook:中尾 隆一郎
●連載など
BisZine:執筆者 中尾 隆一郎
東洋経済:執筆者 中尾隆一郎
本の解説と感想
KPI とは何か
KPI とは「事業成功」の「鍵」を「数値目標」で表したもの
『KPIマネジメント』p20
「KPIとは何か?」この質問に対する回答は芳しくないという。例えば事業を数字で見ること、たくさんの数字を管理すること、売上や利益のこと。これらはKPIによるマネジメントではなく、単なるインジケーターマネジメントになっています。ただ数字を集めてみている…という感じですね。KPIのうち「I」だけになっていて、「KP(key performance)」がなくなっているということです。事業の成功(ゴール)に必要な要素が分かっていないといけません。
売上であったり利益が重要なのは間違いないのですが、それはあくまでもゴールの数値目標で、KPIはそこに到達するために重要なプロセスの目標数値です。
ちょっとわかりにくいので、KPIを作るために以下の3つの違いを整理しておきます。
KGI: Key GOAL indicator 最終的な目標数値
CSF: Critical success Factor 最重要プロセス
KPI: Key Performance indicator 最重要プロセスの目標数値
KGIは最終的なゴールを数値で表したもの、CSFはゴールに向かうビジネスをプロセスのなかでも最も重要なプロセス、KPIはそのもっとも重要なプロセスを数値で表したものです。
さらに言うと、KPIはKGIの先行指標となるもので、KPIを扱う現場のメンバーがコントロール可能な変数であることが重要です。もし「KPIはGDPだ」なんてしても、GDP自体は遅行指標で実際と数か月遅れて算出されますし、あまりにもマクロ過ぎて自分たちではどうがんばっても数字を変えることができません。例えば、営業なら「訪問数」など、なんとかなる数字にしていれば、KGIと現状の予測とが乖離していたとしても、訪問数を増やすというアクションができるわけです。
ダメダメ KPI 設定
間違った指標や数値を見ながら、マネジメントしていては、事業運営がうまくいくわけがありません。いわば、スピードメーターが間違った自動車で運転しているようなものです
『KPIマネジメント』p37
KPIでありがちなことが、関係者間で合意が取れておらず、あとからこの「KPIはおかしいんじゃないか?」と指摘されることです。ゴールがずれていると当然KPIもズレます。
ゴールがずれてしまう要因は2つあり、1つはゴールそのものの認識がずれていること。つまり、目指しているものが売上なのか利益なのか、それによって当然、重きを置くべき行動は変わってきます。この問題が発生してしまうのは、関係者間で確認、コンセンサスがとれていないことが要因です。
もう一つは、数値が複数あるケース。たとえば、「最低限目指したい目標数値」と「可能であれば目指したい数値」があった場合に、どちらを追っているのかわからなくなってしまうことがあります。私も事業計画を提出するとき、A予算(アグレッシブ)、B予算(コンサバ)など提出させられたことがありますが、C予算(ミドル)かD予算(超アグレッシブ)。到底達成できないとわかった時は、昨年との比較にまで変わってきます。何の意味があるんですかね…
解決策としては、やはり最終目標を明確に関係者で合意を取ることしかないのですが、D予算とかだとモチベーション低下が著しいんですよね。。なので、現場が納得できることというのが重要です。
さらに、ダメダメ KPI 設定でありがちなことはいくらでもあります。
・すぐに出せるデータを集めるだけで満足するケース
・KGIを確認せず、関係者でコンセンサスを得ず、CSFも確認せず、KPI だけが決まってしまうケース
・たくさんの数値目標を設定しているケース
・現場でコントロールできない指標を KPI として設定しているケース
・先行指標ではなく遅行指標を選択しているケース
・定期的に見ている指標の中に CSF 候補がないケース
間違った指標を見てマネジメントしていると、数値が悪化した場合に対策を検討しようとしても、「そもそもこの数値目標がおかしい」「目標が高すぎる」などと言われてしまい、こちらも反論できないなんてことが往々にしてあります。
KPIマネジメントのステップ
KGIの確認
ゴールは何なのか、それを数値目標で表すと何なのか(KGI)、を関係者で確認をしておく。ゴールの認識が誤っていれば、そもそもの行動が全て無駄になるので、確認が必要です。また定性的なゴールを数値化することで、KPIを設定するまでのモデル化に役立ちます。
ギャップの確認
ゴールとKGIが定まっていれば、その最終的な数値目標と、現状の延長で進んだ場合にどのような数値になるの予測数値とのギャップを把握します。その差分をどのように埋めるかが次以降のステップになっていきます。ここでもし目標と予測との間にギャップがなければ KPI マネジメントは不要かもしれません。
プロセスの確認
KGIを因数分解、モデル化します。例えばゴールが利益で、その数値が1億円だとしましょう。利益を単純に分解すれば「売上ーコスト」です。さらに売上を「販売数×単価」などに分解することによって、KGIを構成するプロセスを明らかにします。
絞り込み
プロセスを分解したら、そのなかでも最も重要な要素(CSF)を特定します。モデルのなかの要素は、たくさんありますが、まずは定数(固定的な要素)と変数(変動が大きく調整可能な数値)に分けます。定数と言いながらも数値が全く変化しないものに限らず、現場がコントロールできる範囲が小さいもの要素も定数とします。
例えば、売上(KGI)=販売量×歩留り率×単価というモデルだったとき、「歩留り率」をCSFとします。ただこれではどうアクションすれば「歩留り率」を高められるかがまだわからないため、さらにプロセスを因数分解します。「認知→問い合わせ→提案」みたいな流れだとして、提案数を増やすことが重要なのであればそれをCSFとしてみます。もう一歩踏み込んでいくと、複数の商品の提案が歩留り率を高める要素であることが分かった場合は「複数商品の提案」が研ぎ澄まされたCSFになります。
目標設定
KPI とは「事業成功」の「鍵」であるCSFを「数値目標」で表したものだと説明しました。「事業成功」の「鍵」だから1つです
『KPIマネジメント』p69
例えば「今期の KPI は紹介件数2万です」と言えるような目標設定を組み立てます。CSF が定まれば CSF がどのくらいの数値になればいいのかを考えればいいので、これが KPIです。
運用性の確認
次に、KPI マネジメントをきちんと運用できるのかを確認します。ここでは3つのポイント、「整合性」「安定性」「単純性」が重要です。
整合性:ロジックが正しいか
安定性:KPIの数値が安定して手に入るか
単純性:現場のメンバー全員が理解できるほどシンプルかどうか
結局のところ、KPIをコントロールするメンバーが納得できるかがとても重要です。そしていつでも観察できるように、KPIの数値を簡単に取得できるという要素も必要です。
対策の事前検討
KPIは、KGIの先行指標です。この数値が悪化したら目標が達成できません。なので、数値が悪化した場合に行う対策を事前に決めておくことで、すぐに次のアクションに動けます。対策の大きな方向は、①さらに資金を投入する ②さらに人を投入する ③両方やる ④現有戦力のままやる です。
これらの判断をするにために、①いつ ②KPIがどれくらい悪くなったら ③どうするのか ④最終判断は誰がするのか、を事前に決めておきます。
コンセンサス
これまでのステップで確定した「KGI」「KPI」「KPI が悪化した場合の事前対策」について、関係者と合意形成しておきます。
運用
一連の情報が整備できたらKPIマネジメントの運用が開始できます。
継続的な改善
KPIマネジメントの運用を始めたら、KPIの進捗確認と対策はもちろん、このマネジメントの内容の改善もしていきます。最初からクリティカルなKPI設定ができるとは限りません。定期的にな見直しを図っていくことが求められるでしょう。
KPIマネジメントのTips
・KPIマネジメントを従業員みんなで共有する時の大事なポイント
CSF がわかりやすいこと、覚えやすい数字であること
・KPI は分数ではなく実数にする
例えば KPI を提案率80%にした場合、すでに50組を接客して40組に提案できたAさんは80%の目標を達成している。そのため閉店間際に一組のお客様が来店したとき、接客を断りたくなってしまう。
・バカの壁と不安の壁
シンプルで分かりやすいCSFを特定すると「そんなことはわかっている」と言われることがあります。人からそういった馬鹿にされる言葉をかけられると、こちらにもプライドがあるので、ちょっと言いにくくなってしまいます。それを覚悟して臨むことを肝に銘じておくことです。また、CSFはひとつだけなので当然不安になります。自分だけではなく、関係者の多くがそう思います。これを際限なくしてしまうとただの数字管理に陥ってしまうので、KPIマネジメントの本質に立ち返り一つに絞る必要性を説明していきます。
・KPI マネジメントを実践する前に会社の方向性を構造と水準でつかむ
会社が目指している方向性は所与の情報である。経営者の年頭所感や、事業戦略をまとめた資料に存在しているはずなので、まずは会社の方向性を把握しておきましょう。
・ゴーイングコンサーンを実現させるKGI
会社全体のKGIは利益であることを念頭に置いておきます。利益が出なければ企業は存続することができません。
まとめ
KPIを設定するためにKGIを…とは言いますし、数値管理にならないよう絞り込みを大切というのは分かってはいるんです。それがやりきれない自分はまだまだ未熟の証ですね。KPIマネジメントというのはとても有効な手法だと思いますし、うまく回るところではかなり効くものだと思います。
CSFやKPIを適切に設定し、運営するのもある程度、そのビジネスで蓄積された経験と数値実績とがあってこそな感じです。いま、新規で立ち上げた部門の中でなにが最重要なプロセスはまだ見いだせていません。今の所は仮説でKPIを設定していって、とにかくレコードをためて改善をしていく感じかな。
じゃあ、どうやって改善するのかと言うと、CSFが絞り込まれていなかったら、問題の要因を特定しにくい。絞り込みをすることで、うまくいかなかった要因も特定しやすくなるから、やはりKPIは一つに絞り込むことが大事なのか。なるほど。
本の目次
- 第1章KPI の基礎知識
- KPI って何ですか?
- ダメダメ KPI の作り方でありがちなこと
- どうやってイケてる KPI を作ればよいのか?ーKPI のステップ①・②
- プロセスの確認・モデル化ーKPI のステップ③
- 絞り込み (CSFの設定)ーKPIのステップ④
- 目標の設定 ーKPI のステップ⑤
- 運用性の確認 ーKPI のステップ⑥
- 対策の事前検討とコンセンサス KPI のステップ⑦・⑧
- コラム 前からやるか、後ろから考えるか
- 第2章KPI マネジメントを実践するコツ
- ダメダメな KPI ってどこで分かるの?
- KPI は「信号」だから「1つ」
- KPI は誰のものか?
- 分母が変数の場合は要注意!
- 越えなければいけない2つの壁
- キーワードはPDDS
- PDDSサイクルが1周する期間を把握していますか?
- PDDSは組織を強くする
- コラム リクルートのお家芸「TTPとTTPS」
- 第3章KPI マネジメントを実践する前に知っておいてほしい3つのこと
- 会社の方向性を「構造」と「水準」でつかむ
- ゴーイングコンサーンを実現させるKGI
- 利益を最大化させるための基本的な考え方
- 第4章さまざまなケースから学ぶ KPI 事例集
- 事例1特定の営業活動を強化することで業績向上を目指す
- 事例2エリアにフォーカスすることで業績を拡大する
- 事例3商品特性から特定ユーザ数を KPI に設定する
- 事例4時代の変化を先取りして特定の商品にシフトする
- 事例5従量課金モデルでは歩留まり向上から始める
- 事例6採用活動における KPI の考え方
- 事例7社外広報は目的を明確にして KPI を設定する
- 事例8社内スタッフ部門は従業員満足度を KPI にするのが基本
- 事例9集客担当には集客単価を決めて自由に動いてもらう
- 事例10仕事ができるようになるための KPI
- 事例11人生100年時代を健康に過ごすための KPI
- 第5章KPI を作ってみよう
- KPI ステップの復習
- KPI マネジメントを始めるための事前準備
- KGIを確認する
- ギャップを確認する
- プロセスを確認する
- 絞り込み(CSF)の設定と KPI
- 運用性を確認する
- 対策を事前に検討しておく
- コンセンサスを得て運用していく
- 継続的に改善を繰り返す
- 究極の KPI マネジメントとはーすべての判断を KPI に紐づける
- コラム 最強の振り返りは「リアルタイム」
- おわりに