『ブランディング』の書評とサクッと要約|ビジネスの資産を最大化することを目指す活動

ブランディング 中村正道著 ビジネス
ブランディング 日経文庫(インターブランド中村正道著)

いろいろとブランドに関する本に目を通して、一番自分に合っているかなと思ったのがインターブランドジャパンの中村正道さんの著書『ブランディング』

ブランドに関する本というのは、研究に基づいたブランドそのものの論考や戦略論。ブランディングを現場がすぐ行動できるような実践的なものまで、かなり幅広くあり、どの本を手に取っていいか迷います。ということで、SNSなどでお薦めを聞いたりして、ざっと次の本を読んでみました。

  • 論考・理論・研究
    • 『ブランド戦略論』(ボリューム大)
    • 『コトラーのB2Bブランドマネジメント』(難しい)
  • 戦略
    • 『ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング』(面白い)
  • 実践・ノウハウ
    • 『ブランディング』(今回の本)
    • 『選ばれ続ける必然 誰でもできる「ブランディング」のはじめ方』(分かりやすい)
    • 『ブランディング・ファースト――広告費をかける前に「ブランド」をつくる』
    • 『ブランディングの教科書: ブランド戦略の理論と実践がこれ一冊でわかる』
  • 実例・経験、個人の感性
    • 『デザインノートPremium佐藤可士和特集』(参考として)
    • 『パワーブランドの本質』(ちょっと古い)

という感じ。論理的で読み進めるのがなかなか難しい本から、How to本のように易しいものまである。数も多い。今回読んだ『ブランディング』は、現場により過ぎず、かといって研究をまとめたような本でもなく、非常に明瞭で読みやすい。1年前からブランディングに関わるようになった素人の私が読んでもよく理解できました。

ブランドの本は、複数読んでみると共通項がみえてきて、例えば「ブランドとは何かの認識が人によって違う」「一貫性が必要」「ブランディングは顧客の選択を容易にする」「評価測定が難しい」など、だいたい似たようなことが書いてあります。必ず必要なのはブランドに関わる関係者全員の合意や納得。つまりコーポレートのブランディングともなると一部署ではなく、全社戦略というのがキモになってくるので、もう大変なわけです。トップがどの目線で「ブランド」を認識しているか。そこを教育していかなければならないという難題も、ブランド担当者は抱えているわけです。…私ですけど。

この本で、一番ありがたかったのが、ブランディングの浸透度を測る指標、KPI。
前回まとめた『KPIマネジメント』では、KPIは一つに絞れと書いてあったんを早速ぶち破ってしまいます。10個あるし…

ブランド自体がとても抽象的なものなので、言語化しそれを拠り所に社内と社外に浸透させていく。この活動がブランディングなわけですが、その進捗管理は難しい。まずはゴール設定ですね。

今回、わたしが紙に書いた部分はだいぶ割愛して中間部分がほぼないのですが、各章しっかり読まれたほうがよいかと思います!

Bitly

本の概要と要約

ブランディングの問題提起
ブランディングの問題提起

著者の課題
日本におけるブランディングがCMを発注するかのようにコンサルや代理店に依頼して彼らの業務が終わるような、つくりっぱなしで放置されている家のようなものがまかり通っている

解決方法
この本で、担当者が行き先を見失わないよう、軌道修正するためのベンチマークを示し、本質的なブランディングへの招待を手引する

ブランディングの要約
ブランディングとは?
ブランディングのKPI
ブランディングのKPI

内容
・ブランディングとは?
 -広告宣伝活動ではない
 -常に変化するビジネスの資産を最大化することを目指す活動
 -同じ量、同じ味のコーヒーがあったとき、ブランドとノンブランドどちらに高いお金を払うか
 -ブランドによる価格プレミアムこそがブランドの価値

・ブラディングは全社戦略
 -ブランド=ステークホルダーと交わす約束
 -社内において行動や意思決定の軸になるのがブランド
 -ブランディングするのが目的ではなくビジネスを成長させるもの
 -ステークホルダーとのあらゆる接点で一貫
 -今は顧客とともにつくる共創時代

・ブランディングの効果測定とKPI
社内指標
①概念明瞭度
 -ブランドの中核概念は明らかになっているか
②関与浸透度
 -ブランドが行動や意思決定に反映されているか
③統治管理度
 -ガバナンスが明確で能力と仕組みがあるか
④変化対応度
 -ブランドが市場の変化に柔軟に対応できているか
社外指標
⑤信頼確実度
 -顧客がブランドの中核概念を信じているか
⑥要求充足度
 -顧客の欲求をブランドが満たせているか
⑦差別特有度
 -競合との差別化が認識されているか
⑧体験一環度
 -すべてんぼせっ店で一貫したストーリーを感じているか
⑨存在影響度
 -好意的に語られ、際立った存在と認められているか
⑩共感共創度
 -顧客がブランドに共感し価値創造に参加しているか

著者:中村正道とは

外資系広告会社でブランド/マーケティング・コミュニケーション領域において多岐にわたるプロジェクトに携わり、2005年よりインターブランドに参画。クライアントサービス&ソリューション部門のディレクターとして、幅広い業種のクライアントとのリレーションシップ構築を推進し、クライアントのビジネス課題解決に向け、戦略構築からクリエイティブ開発までシームレスにブランド戦略プロジェクトをリードする。

●講演記事
PR TIMESカレッジ vol.2(PR TIMES 2018.7.10)「ブランド価値を高めるコーポレートコミュニケーション」をテーマにした講演。

本の解説と感想

ブランディングとは?

「ブランディング」は、あらゆるビジネス活動をマネジメントすることで、常に変化するビジネスの資産であるブランド価値を最大することを目指す活動

『ブランディング』p34

「ブランディング」という言葉から何を想像しますか。「~ing」なので、ブランドを進行することというイメージ。ブランドを形作る活動でしょうか。ブランドやブランドの定義も、何か定まったものはないというのがこの手の本の決まり文句です。この本では、ブランディングは最終的には、会社や商品、サービスに付加価値を付け、高収益を生み出すものというニュアンスで語られます。

というのも、今の社会では本当に必要な機能を満たせないものが少なくなっていることから、人々が何をもってその商品やサービスを選択するのかが重要になっているからです。本の例にあるように「もはや世の中に欠陥車など存在しない」。だとしたら何で選ぶのか。

身の回りにもなぜそれを選ぶのか、言葉にはしがたいものはたくさんあります。コーヒーも「味」「香り」が同じだとしたら「価格」が安い物を選ぶでしょうか。たぶん違いますよね。スターバックスコーヒーを高くても買ってしまうのは、スターバックスというブランドが私たちのあらゆる接点で好意的に感じるブランディングをしているからにほかなりません。スターバックスはこうして価格勝負ではなくユーザーに選ばれるコーヒーになっているわけですね。

ブランディングの設計プロセス

ブランディングの前にブランドを明確にしなければなりません。ブランドとは何でしょうか。以下のように表現しています。

ブランドとは、企業が顧客や従業員などのステークホルダーと交わす「約束」

『ブランディング』p51

「約束」なので破ってはいけません。例えば顧客からみたときに、ロゴデザインやTVCMなどの広告、WEBサイトの印象、SNSでの展開、そして接する従業員も含め、あらゆる接点で一貫したメッセージを受ける状態でなければなりません。

となると、ブランディングの最初は、対象となるブランドの正確な認識です。それは常に変化する社会のなかで、自社のブランドが置かれる状況であったり、そもそもどういう性質のブランドなのかの理解です。

そして、なぜブランディングに取り組むのかも整理しておきます。例えば、既存事業とブランドが完全に今の時代に合致し、ブランディングの強化によってさらに進化させるものなのか、もしくは狙う顧客を変え新たな市場で戦おうとするのか、この2つだけでもブランド戦略の方向性は全く異なります。

対象となるブランドがどのような体系に属するかの把握も、自社ブランドの理解につながります。コーポレートブランドが全ての商品と結びつくもの(マスターブランド体系)、企業は同じだけど商品が独立しているもの(フリースタンディングブランド体系)、商品やサービスがコーポレートブランドに保証されるもの(エンドースドブランド体系)。それぞれ付加価値を高めていく仕組みが違ってきます。

電気自動車のテスラは「Model 3」とか「Model X」などの記号ですべて「テスラ」というブランドに紐づいてます。トヨタの場合は、「プリウス」「クラウン」「カローラ」など、別のブランドとして認識されていながらトヨタがその裏にちらつきます。P&Gのような消費財は、「レノア」「ジレット」「ジョイ」といったものは、P&G社の商品とは認識されにくい独立したものです。

ブランド体系を明確にすることで、顧客とのコミュニケーションやマネジメントの最適化が図れます。

ここまでは大前提の話で、つぎは対象となるブランドの中核概念を明らかにします

さきほどブランドとは「ステークホルダーとの約束」と書きました。この本ではブランドプロミスという言葉が使われています。これこそが他社ブランドとの差別化のコアとなり、ブランドの明確化からブランディングにいたる橋渡しのような存在になります。なお、ブランドプロミスという言葉自体はあくまで記号として捉えたほうがよく、他の本ではブランドコンセプトなどと呼称されたりします。

ブランドプロミスを導くためには、従業員や顧客の声、あるいはブランドの歴史などの情報を収集し、そのブランドの存在理由、提供している価値、優位性をあぶり出し、ブランドプロミス(ブランドが持つべき顧客にとって最も魅力的な考え方)を策定していきます。

ブランディングの推進

ブランドプロミスが策定できれば次に実行フェーズへ移行します。

何度も書いていますが、ブランディングは顧客のすべての接点で一貫していることが必要です。そのため、ブランドプロミスの社内浸透が大事になってきます。ブランディングというものだけが切り離されていては、おそらく広報活動にしかならないでしょう。しかもそれが従業員にも知れ渡っていないので、ブランドプロミスを起点とした意思決定や言動が現れないので、チグハグな状態が生まれてしまいます。

コーポレートブランディングであれば、単に商品だけではなく、営業、人事、広告・PR、イベント…すべての従業員が共通の認識を抱くことでブランドが顧客に届いていきます。

ブランディングのKPI

ブランディングの担当者が頭を悩ますのが、その効果測定。なんとなくやった感だけは出せますが、本当に狙い通りにできているのかは謎…。はたまた「ブランディングなんて意味あるの?」って言われたときに定性的なことしか言えない…なんてことはいろいろな企業で起こっていることでしょう。

この本(というよりもインターブランド)のよいところは、ブランディングの進捗を計測するためのヒントが豊富な点です。ブランディングのゴールが定まってしまえば、それが社内や顧客にどの程度認識されているのか、愛着が得られているのかを測れば、ブランディング担当者の効果測定も可能になります。

すでにKPIについては前述していますので、そちらをご確認ください。

まとめ

本にも書いてあるのですが、ブランドというのステークホルダー全員がオーナーだなと思います。つまり商品やサービスの提供者が一方的に「こういうもの、いいでしょ」というのではなく、受け止めた人が「○○はこうだよね」というものがあいまって共創されていく。消費者にとっては、大量生産大量消費の時代のように安さだけを求めず、自分を表現して豊かに暮らすためのツールになっている。

これからは、SDGsのような持続可能社会の実現に向かうという共感が得られるブランドが好まれていくんだろうなとも思う。おそらくブランドもこの変動に対応していかないと取り残されてしまう。という意味でも「 常に変化するビジネスの資産」なんだなと、感じます。

本の目次

ブランディングの表紙
ブランディングの表紙
  • はじめに
  • 序章ブランディングの必要性
    • 1 今、ブランディングが求められる背景
      • ますます必要性が高まる「ブランディング」
      • 人口減少社会が要請するビジネスの高付加価値化
      • ビジネスの生産性向上と高付加価値化
    • 2 そもそも「ブランディング」とは何か
      • 共通認識が曖昧な「ブランディング」という概念
      • 「ブランド」「ブランディング」
    • 3 ボトムアップで取り組むブランディング
      • ブランディングへの関与が低い日本の経営者
      • ボトムアップで起動するブランディング
  • 第1章ブランディングの理解
    • 1 ブランディング理解のための多面的な視点
    • 2 歴史的な変遷を経て進化するブランディング
      • 識別記号からブランドへ
      • ブランディングの進化の変遷
    • 3 企業の視点
      • ステークホルダーと交わす「約束」
      • 常に変化する事業資産
    • 4 顧客の視点
    • 5 合理性の感性への転換
      • 情緒的なつながりを作ることの重要性
      • 合理的な意思決定と情緒的な意思決定
    • 6 ブランディングの対象と共通認識の重要性
      • 本質的なブランディングの対象
      • 対象とする「ブランド」の共通認識の重要性
  • 第2章ブランディングの設計
    • 1 対象とするブランディングの目的と役割
      • プロジェクトの成否を分けるビジネス課題の明確化
      • 対象とするブランディングの目的と役割
      • 「ブランドへの挑戦」四つのパターン
    • 2 対象とするブランドの体系
      • 対象ブランドの体系の明確化
      • ステークホルダーに意図した知覚を形成する「ブランド体系」
      • 基本的なブランド体系の類型
      • ブランド体系を明確化する五つのメリット
  • 第3章ブランディングの核となる「中核概念」
    • 1 ブランディングの核となる「中核概念」
      • 全ての活動の起点となる「中核概念」の策定
      • 機能性と情緒性を合わせ持つブランドプロミスの策定
    • 2 ブランドプロミスと表現指針の策定
      • ブランドプロミスを導くブランド・ディフィニションモデル
      • インプット情報の整理と集約
      • すべての活動の拠り所となるブランドプロミスの策定
      • 企業理念とブランドプロミスの関係
      • ブランドプロミスに求められる要件
      • ブランドの表現指針の策定
  • 第4章ビジネスとブランドの成長と理念体系
    • 1 ビジネスとブランドが成長するグローバルブランド
      • 成長するグローバルブランドの理念体系の考察
      • インターブランドのブランド価値評価モデルとブランドランキング
    • 2 リーディングブランドの理念体系
      • 持続的な成長を遂げるブランドの理念体系
    • 3 ビジネスとブランドの成長と理念体系
      • 理念体系の類型
      • 全てのステークホルダーに伝わるシンプルかつ明瞭な理念の重要性
  • 第5章ブランディングの推進
    • 1 ブランドプロミスを起点とした顧客体験の構築
      • ブランドプロミスがすべての活動の起点
      • ブランドプロミスの社内浸透が体験づくりの必須要件
      • ブランド体験の開発
      • スターバックスのブランド体験開発
    • 2 ブランドの表現指針に基づいたクリエイティブ開発
      • ブランドの「らしさ」の表現開発
      • 顧客のタッチポイントにおけるブランド体験の把握
      • 視覚的な表現基盤の開発
      • 言語的な表現基盤の開発
      • バーバルアイデンティティ要素の開発と規定化
      • ブランドのメッセージシステム
      • プルーフの整理とキーメッセージの開発
      • ブランドの表現要素のルール化
    • 3 ブランドプロミスの社内浸透
      • ブランドの社内浸透の重要性
      • ブランドの社内浸透活動の実践
      • ケーススタディ スターバックス
      • 「スターバックスリザーブロースタリー東京」の開業
      • 事業活動における課題
      • 「第2章の幕開け」の社外浸透を目的としたブランディング
      • ブランドの表現指針に基づくガイドラインの作成
      • タッチポイントごとのブランド体験開発
      • クワドラントモデルによるブランド体験の考察
      • 活動の成果
  • 第6章ブランディングの効果測定
    • 1 ブランディングの効果測定の対象
    • 2 全社活動としてのブランディングの KPI
      • 全社活動の効果を測定するブランド強化スコア
      • ブランドの強さを測定する10指標
    • 3 ブランド強度スコアをKPI化したブランドマネジメント
  • 第7章ブランディングの共創
    • 1 今、求められる「顧客中心主義」
      • カスタマーセントリシティ(顧客中心主義)
      • カスタマーセントリシティの企業経営
      • カスタマーセントリシティの鍵となるヒューマントゥルース(Human Truth)
    • 2 ブランディングの共創
      • 「一時的優位性」の時代
      • 顧客と常時接続によるブランディング
      • 顧客の期待を超えるアクションの必要性
      • 真の顧客との対話
      • ケーススタディ スノーピーク
      • スノーピークのミッションステートメント「The Snow Peak Way」
  • おわりに
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