敵とのコラボレーションーー賛同できない人、好きではない人信頼できない人と協働する方法ーー(アダム・カヘン)の書評とサクッと要約

敵とのコラボレーション ビジネス
敵とのコラボレーション(アダム・カヘン著)

VUCAの時代と言われますが、この10年ほど私たちをとりまく社会的あるいは文化的な環境はますます複雑になっています。テクノロジーが進歩するにつれ、多種多様な価値観がそれぞれ独立性をもって幅を利かせる世の中と言ってもいいかもしれません。

ややネガティブな言い方になってしまった気がしますが、私は全然それでいいと思うんです。ただ、アダム・カヘン氏もこの本『敵とのコラボレーション』で述べているように、複雑性が増すに伴い、コラボレーションも困難になってきているというのが私たちにとって目下の課題。

例えば最近、社会運動が広がるスピードが圧倒的に早く圧倒的に強い。ティッピングポイントと言ったりしますが、沸点にたどり着くまでがとにかく速い。何か沸点を超えた主張に歯止めが効かなくなるのは、言葉の揚げ足をとり批判する人が少なからず存在し、ある意味で正論でもあるためにどうも極端になりがちで、「これはどうしようもない」と口をつぐんでしまう人も多いのではないでしょうか。

また、個性が尊重されるなかビジネスでも大量生産大量消費される考え方も見直され、こうした環境下において「チーム」が一丸となるために、神経をすり減らしながらメンバーと向き合っている人もたくさんいるでしょう。

敵とのコラボレーションーー賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法ーー』(英治出版)は、アダム・カヘンの著書。敵化症候群に陥る私たちがどんな人とも協働して生きていく方法はあるのか、組織のチームコラボレーションの方法論をまとめた一冊です。

本書はややコラボレーションに対してサバサバしたところがありますが、もうちょっと日本人が好みそうな寄り添うようなアプローチとしては『他者と動く 「わかりあえなさ」から始める組織論』が参考になります。

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本の概要と要約

敵とのコラボレーションの要約
『敵とのコラボレーション』の問題提起
敵とのコラボレーションの要約
『敵とのコラボレーション』の要約

何を?
賛同できない、好きではない、信頼できない人と協働する方法

誰に?
異質な相手と共に物事を成し遂げようとする人

なぜ?
「敵化」があらゆるところで起き、他者とのコラボレーションが困難になっている

内容

●敵化症候群
「私は違う見方をしている、あなたは間違っている、彼女は敵」という考えに陥りがち。これがコラボレーションの難しさの本質。

とはいえ、協働だけが唯一の選択肢ではない。

選択肢は
①強制、②適応、③離脱、④協働 の4つ。

協働するためにはストレッチ・コラボレーションが必要。
ストレッチには3つのアプローチがある。

①関わり方
愛と力を両方使う。
②進め方
ダンローディング、ディベート、ダイアローグ、プレゼンシングの使い分け。
③果たす役割
ゲームフィールドに入り共創者となる。

本の解説と感想

敵化症候群

敵化症候群という言葉が出てくるのですが、うまいワーディングだなと思いました。本書のなかにこんな一節があります。

たいていの人が、問題の原因はあっちにある、と思っている。

敵とのコラボレーション

ありがちですよね。誰もが自分の主張の方がより正しいと思っていますし、「あちら」の背景が見えないので、「なぜこの人は私の意見に異を唱えるのか?」そして「私のことが嫌いだから反対するのでは?」など、どんどん思い込みが強くなっていきます。

「あの人を敵化する」ことは、最も楽な逃げ道です。いま誰かとの間に問題を抱えているあなたにとって魅力的な選択肢だと思いませんか?

この選択はつまり「自分は問題ない!」と、目の前に起きている対立において、その問題となっている事象への責任が自分にはないのだという判断なんです。

もし、そんな状態になっているのだとしたら、とっても損をしています。まず、敵化がもたらす効果はコラボレーションの機会の喪失です。これが意味するところは、既存知と既存知をつなげることがなくなるために、創造的な対話がなくなってしまいます。

なんてもったいない。

協働するだけが道ではない

とはいえ、嫌いな人を好きになれなんてことはアダム・カヘンも言っていません。むしろ協働するだけが道ではないとも言っています。むしろ協働という選択は、他に選択肢がなくなってしまった場合に、やらざるを得ないという状況に多いでしょう。

では、協働以外に他にどのような選択肢があるのでしょうか。

①強制
関係性でもって、一方的に服従させる。ビジネスマンにとってこれは意外な方向性ではないですよね。決してネガティブでなものだけではなく、ルールとかそういう義務的なものも含まれるという解釈です。

②適応
順応と言うよりは我慢の意味合いです。これもビジネスマンにはあるある。上司には逆らわない方で受け入れたほうが結果的に楽に進むこともある。

③離脱
目の前の敵から逃げるという選択、あるいは関わらないことにするというもの。適応が耐えられる限度を超えたとしたら、逃避が最後の手段にもなるでしょうね。


アダム・カヘンが述べている選択肢はこれらに「協働」加えた4つなのですが、個人的には「屈服」とか「競争」のようなアプローチがあるように思います。徹底的に追い落とすという選択です。

NVCの『「わかりあえない」を越える』では、徹底して平和のことばを表現することによって対立を越えていくことが主張されているのですが、やっぱり難しいと思うんですよ。なので、アダム・カヘンのサバサバしたところは、めちゃくちゃ共感ができます。

ストレッチ・コラボレーション

敵とコラボレーションするためにアダム・カヘンが提唱しているのが「ストレッチ・コラボレーション」です。従来型のコラボレーションは、リーダーがいてビジョンを示し、それに向かってみんなでワッショイしていくようなイメージです。ストレッチ・コラボレーションは、文字通りストレッチ。3つの観点から少しずつ敵との協働を試みて、必ずしも一人のリーダーがいるわけではなく、みんなでゴールを探っていくものです。

ストレッチ①関わり方は愛と力のバランス

Love&Power!愛と力!

分かりやすく言えばアメとムチに近いです。孫氏の兵法にもありますが、組織を動かすには褒めるだけでは緩み、厳しいだけでは真に力を発揮しないので、褒賞と罰をバランスよく使い分けようというのです。

ストレッチ②進め方は4種の話し方を駆使

いきなり対話だけでは十分ではない、ということが書かれていて焦ります。どうも私は対話に比重が置いてしまっているなと反省します(^^;

何もコラボレーションだけではなく、人材の育成もそうですよね。対話は創作的な活動に有効ですが、既存知を習得するのには向いていないです。また、アイデアのメリットやデメリットも見えにくいです。というわけで4つのアプローチが語られています。

ダウンローディング
これは言い聞かせるという感じです。スピーカーが一方的にリスナーに情報を落とし込むことです。

ディベート
主張と主張を戦わせることです。重箱の隅をつつくようなこともあるかもしれませんが、アイデアを評価するのに役立ちます。

ダイアローグ
良し悪しなどは自分のなかで内省して言葉に出すものです。リスナーが否定することは御法度で、傾聴と共感を意識します。

プレゼンシング
プレゼンシングとは?と聞かれると私も言葉にしにくい概念なのですが、これはU理論に出てくるもので、源(ソース)につながるということらしいです。問題の真理とか根柢への気付きを共有するという感じでしょうか。

ストレッチ③役割を見つめゲームフィールドに入る

同じゴールを目指すのであれば自ら相手の土俵に立って考え、行動してみるという試みです。敵化したあの人が変わらないように、あの人からはあなたが変わらないように見えているかもしれません。まずあなたから変わってみましょう。

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