昨今、社会人がビジネススクールに通い、経営学を学ぶ人が増えています。かくいう私もその一人ですが、おそらく多くの方が、卒業されてもなかなか思うように「爆発」できずに「前までの日常」に戻ってしまうのではないか思います。想い描く活躍イメージ、というよりも頭でっかちになっても結局何もできないじゃないかというジレンマにも陥ることもあるかもしれません。『直感と論理をつなぐ思考法』はある意味でその逃げ口ともいえるような本です。
逃げ口と言いましたが、避難しているわけではなく、固執したフレームワークからの脱却という意味に近いです。
本書は「妄想」とうのがキーワードとなっています。他人の目を気にするようになった私たちは、いつしか自分のやりたいことが埋もれてしまい、隠されてしまってます。その自分を取り戻すための妄想の手段から、妄想では終わらせないためのプロセスがまとめられています。
この本を読んで、さあ明日からVISION DRIVENで仕事に邁進してみよう!というのはなかなかハードルが高いのですが、仕事ではなく日々生きていくなかで自分を取り戻すためのアイデアが散りばめられていて、これやっていたいなと思うことも多いかと思います。妄想のための重要な要素として「余白」が挙げられているのですが、おすすめされている「紙とペン」「何もしない時間をつくる」というのはすっかり習慣化しました。
本の概要と要約
何を?
妄想を掘り起こし、ビジョンに落とし込み、具体化する方法論
誰に?
本当にやりたいことが分からない人へ
なぜ?
妄想を駆動にできる人と組織は強い。他人モードから自分モードに切り替えてほしい
内容は?
・他人モード
-多くの人は他人を気にする時間に多くの時間を費やしている
-他人を気にすると幸せを感じる力が鈍る
・自分モード
-他人を気にしない、自分だけの時間
-VISION DRIVENは自分モードから
-余白とメソッドが大事
・妄想→知覚→組替→表現
-妄想はムーンショット、ゴールから逆算する
-知覚は対象の統合と解釈で、意味づけをする
-組替は分解と再構築
-表現はまずプロトタイピングで手を動かす
・直線的な成長の時代は終了
・妄想を駆動にしてトライ&エラーのサイクルを早く回し長期継続して爆発させる
著者
本書の著者は佐宗邦威氏。BIOTOPEという戦略コンサルティングの代表を務めている方です。
過去にP&Gのマーケティング部に所属されていたそうです。マーケティング戦争の最大にして最前線で戦われていたということですね。ここで徹底的にデータに基づいて仕事をされていたのですが、ゲームチェンジャーと呼ばれる人が論理だけでは動いてないということが見え、いつしか左脳だけの仕事では限界を感じ、それから海外に留学したという経歴をお持ちだそうです。
問題の一つはデータに基づく意思決定がクセになり、新しいチャレンジをするようなモチベーションが薄れていくことでした。さらに仕事をすればするほど「ゲームチェンジャー」と呼ばれるようなずば抜けたマーケターは、数字やデータといった論理だけでは動いていないことがみえてきました
すべてのビジネスパーソンが今“ビジョン思考”を身につけるべき理由
アマナデザイン社の取締役の佐藤さんとの対談のなかでの一文がとても印象的でした。昔からいる戦略コンサルタントは過去のデータを参考に最適したものだがイノベーションはその延長線上にはない、という話がとても印象的でした。このインタビューだけでも大変勉強になりましたので、ぜひリンクからご一読ください!
本の解説と感想
4つの思考サイクル
佐宗さんは本書の中で、人の思考法を4つに分解しています。それが「カイゼン思考」「戦略思考」「デザイン思考」そして「ビジョン思考」です。
カイゼン思考は、PDCAの世界です。何か設定されたゴールがあり、検証とリプランニングを繰り返します。この世界はすでに存在している目標の中で生産性を高めようと動きます。それは否定するものではないものの、非常に内向的でその世界から外に出ることができない呪縛に憑りつかれています。
戦略思考は、すなわち戦いです。シェア争い。未開拓の荒れ地がないかを探しすかさず奪いに行く。3Cであり、MECEであり、自分の持ちうる資源をもって戦いに勝つことに焦点が当てられています。その根源は「一番になりたい」とか「モテたい」とかそういった妄想にありますが、競争原理を探りながら論理的に展開されるのです。
デザイン思考は…なかなか説明が難しいですが、最近よく聞きますね。本書から以下、引用します。
デザイナーのツールキットによって人々のニーズ、テクノロジーの可能性、そしてビジネスの成功という3つを統合する人間中心のイノベーションに対するアプローチ
『直感と論理をつなぐ思考法』p43
なんと難しいことでしょう。
まとめると、手を動かしながら考え、右脳と左脳、五感を総動員して無意識化にある生活者の本当の課題を解決しようというもの。例えばアップルストアは、機能的にはiPhoneを売る小売店ですが、ただ売るだけだったらあのような空間にはなっていません。空間もセットでユーザーに価値を提供しています。カイゼン思考や戦略思考に比べ、ぐっと人間味が出てきた気がします。(最近はアート思考もよく聞きますね。『13歳からのアート思考』を参照のこと)
そしてビジョン思考。こちらについては後述しますね。
他人モードと自分モード
「他人モード」とは、どうすれば他人が満足するかということに執着するモードです。例えばSNSで自分の投稿の反応を気にしてしまうとか。あるいは、何かアクションするときも誰かの目を気にしながら組み立てていくとかです。「自分モード」とは、他人の目を気にしない、いわば自分らしい思考。自分が本当にやりたいことなんだっけって、たまに思うことありますよね。大切な自分モードを取り戻すヒントがこの本にはたくさん書かれています。
さて、自分モードを取り戻すために大事になるのが「余白」づくりです。では、余白がないというのは一体どういう状態でしょうか。
いま、あなたがこの記事を読んでいるのはスマホですか?PCですか?
もう一つ聞いてみます。この記事にアクセスする途中で、寄り道しませんでしたか?例えば、広告をついクリックしてしまったとか、ふとLINEの通知が来て確認してしまったとか。それすでに他人モードにハイジャックされています。
難しいですよね。これらの余分な情報、邪念は、どこか心地いいので。なので意識することが大事と佐宗さんは語っています。エリートがマインドフルネスやフィットネスに集中するのは全て自分の時間を作っているのかもしれませんね。
妄想・知覚・組立・表現
目次にあることでとても印象に残ったのが「本当に価値のあるものは「絵空事」からしか生まれない」という言葉。
確かにそうかも。例としても挙げられていましたが、「月に行く」という当時として絵空事ともとれるビジョンがあったからこそ、宇宙技術の発展があり現実に月に降り立つことができたのだと思います。
ビジネスもきっとそう。「そんなことできるわけがない」と言われるアイデアこそがイノベーションを起こすのでしょう。例えばソフトバンクの孫さんが語るビジョンは大きすぎて理解ができませんでした。携帯キャリアとして進むときとかなんで?と思いましたし。楽天の三木谷さんもキャリアに参入しますが、「絶対失敗する」という意見たくさんありますもんね。
さて、そんな壮大な妄想も、妄想のままで終わらせるだけではダメです。形にするために、「知覚」→「組替」→「表現」というプロセスが必要だと述べられています。
「知覚」とは、どう見るか、感じるか。物事に対して意味づけを行うということですね。例えばSNSをやるときハッシュタグをつけること。
「組替」は、シュンペーターの新結合に似てますかね。イノベーションは既存知と既存知の組み合わせ。でもまず、「当たり前を分解しよう」と言っています。その当たり前の違和感、つまりツッコミどころを探すことで客観性が伴います。そして再構築。再構築は類推してみたり比喩で表現してみたり、あるいは何か制限をかけて構築してみることです。
最後が「表現」。表現と言うと私たちは専門家(クリエイター)に任せがちです。そうではなく、まず自分でプロトタイプを作ってみろというのです。なるほど納得。このプロセスを疎かにすると全く違うものができる可能性がある…経験あり。とにかく手をごかし、クリエイターが仲間にいれば、一緒になって試行錯誤していくことが大事ですね。
なぜ自分モードが大切なのか?
自分モードというのは、自分の力で思考することだとすれば、まさに今のテクノロジーの進化スピードや社会環境の不確実性が高まっている状況下においてとても重要なことです。
おそらく、このような状況のなかで多くの失敗や挫折を経験することになります。でもあなたの好きや関心だったら、そこであきらめることはきっとないはず。改善策を必死で考え乗り越えていくことができるはずです。きっと長い時間かかるかもしれませんが、どこかで爆発させることができます。
妄想を駆動にするという考え方は大事にしていきたいですね。
本の目次
- はじめに
- 序章
- 第1章 最も人間らしく考える ――Think Humanly
- 変わるための″まわり道″――トランジション理論
- 穴に落ちること。すべてはそこから
- 人が「自分らしい思考」を喪失する4つ の原因
- ビジョン思考を身につける2つの条件
- 「余白づくり」がすべての起点になる
- 現代人はむしろ「右脳」を育てやすい
- 「頭」で考えていては淘汰される。「手」で考えるには?
- 第2章 すべては「妄想」からはじまる ――Drive Your Vision
- 本当に価値あるものは「絵空事」からしか生まれない
- 根拠なき大風呂敷を嫌う「前年比至上主義」――イシューとビジョン
- 「実現しようがない目標」はナンセンスなのか?
- 「10%成長」よりも「10倍成長」を考える――ムーンショット
- ビジョン・ドリブン化する組織マネジメント
- 第3章 世界を複雑なまま「知覚」せよ ――Input As It Is
- 「シンプルでわかりやすい世界」の何が問題なのか
- 知覚力を磨くには?――頭を「タコツボ化」させない方法
- 「手さぐり上手」が生き残る――センス・メイキング理論
- センス・メイキングの3プロセス
- 言語モードをオフにして、ありのままによく見る――①感知
- 「箇条書き」ではなく、「絵」にして考える――②解釈
- 2つのモードを往復し、「意味」をつくる――③意味づけ
- 第4章 凡庸さを克服する「組替」の技法――Jump Over Yourself!
- 最初は「つまらない妄想」からはじめたほうがいい
- 「箇条書き」はアイデアを固定してしまう――分解のステップ①
- 違和感に正直になる――分解のステップ②
- 「あたりまえ」を裏返す――分解のステップ③
- 発想に「ゆらぎ」を与えるアナロジー思考――再構築のステップ①
- 「アナロジー的な認知」を促す3つのチェックポイント――再構築のステップ②
- 「制限」があるほうがまとまる――再構築のステップ③
- 第5章 「表現」しなきや思考じゃない――Output First
- 「私の仕事は『表現』じゃない」それは本当ですか?
- イタレーション(反復)が「手で考える」のカギ
- 早めの失敗は儲けもの――「鳥の目」と「虫の目」
- 「速さ」こそが「質」を高める
- 「手で考える」を邪魔するもの――表現の余白づくり①
- 意見をもらうための「伝わりやすさ」――表現の余白づくり②
- 「人を動かす表現」には「ストーリー」がある――表現の余白づくり③
- 終章 「妄想」が世界を変える?――Think,Beauty,and Goodness
- 改めて問う、なぜ「自分モード」から始めるのか?
- アーティストの成長に見る「妄想を具体化する技術」の磨き方
- 妄想を「社会の文脈」から問い直してみる――真・善・美
- おわりに
- 夢が無形資産を動かす時代