USJ復活の立役者として名を轟かせ、そのロジカルで整然としつつも情熱的なインタビューが印象的な森岡毅さんの本。これまで著書を読んだことがなかったのですが、手始めに『苦しかったときの話をしようか』を読んでみました。
TBSの『初耳学』で林修先生が著名人にインタビュアーをされているコーナーでは、他の著書の内容も含めて語られているので、森岡さんの回をご覧いただくとよくわかるかと思います…っていうと要約の必要性とは何ぞやとなるんですが、しっかりと読んで要約させてもらいました!
森岡さんのキャリア戦略は、端的に言うと「強みで勝負しろ」「弱みの克服に時間を使うな」っていう感じでしょうか。
残念ながら世の中は不平等で、強みも弱みもみんな違う。なので強みを磨き上げること、それが活かせる職能でキャリアを築こうっていうアドバイス。好きなことのなかに強みがあるので、それであれば好きだからどんどん磨き上げられると。
タイトルでもある「苦しかった時の話をしようか」の部分は、本の後半に差し掛かるところで書かれています。森岡さんレベルでも苦悩を抱えていたんだ…という共感ができないくらい次元が高すぎるレベルでの苦しかったときですが(笑)、その苦しみを乗り越えるのに必要なのは「成果」でしかないと結論を出しています。そう陥らないために、強みを把握したうえで自分が戦う市場で自分をマーケティングしていくことをアドバイスしています。
その自分をマーケティングするための「ブランド・エクイティ・ピラミッド」というフレームワークはすごく有効だなと思いました。自分というブランドで勝負していくための戦略が整理できそう。まだ使ってみてないけど…
本の概要と要約
著者の課題
キャリアは神様のサイコロで決まった「生まれ持ったもの」により偏りのある残酷な世界だ。
解決方法
最大の希望は、「それでも選べる」ということ。実務家の視点からキャリアの考え方の虎の巻をつくる。
内容
・「やりたいこと」がなぜ分からないのか
ーそもそも自分のことをわかってない
・自分を知ることが大切
ー人間はみんな違って極めて不平等
ー先天的特徴、後天的環境は言ってみれば運と確率
ー成功は必ず強みから生まれる
・自分でコントロールできるのは3つだけ
ー己の特徴の理解
ーそれを磨く努力
ー環境の選択
・不正解以外は全部正解
ー間違っても不正解だけは選ばない
ー会社ではなく、職能で選ぶ
ーサラリーマンではなく資本家を見据えたパースペクティブを持つ
・MY BRANDを設計する
ー強みは必ず「好き」のなかにある
ー強みのおおまかな3区分
①Thinking:考える、戦略
②Communication:つながり、伝える
③Leadership:変化を起こす
・キャリアは自分をマーケティングする旅だ
ー攻略する市場を仮説で良いのでたてる
ーそうすると戦略と戦術が立てられる
ー「WHO」「WHAT」「HOW」のブランドエクイティピラミッドを描く
ー自分の名前で勝負できるビジネスパーソンになる
ー最重要は問答無用の実績
・苦しかった時の話をしようか
ー劣等感に襲われる時
ー上司の仕事スタイルで成果が出ない
ー最初から最後尾でスタートする自分をイメージする
ー自分が信じられないものを人に信じさせるとき
ー誰が見ても失敗するものをチームに信じ込ませないといけない
ーサラリーマンである限り避けられない、結果を出さないとチームを守れない
ー無価値だと追い詰められるとき
ー職場で嫌われ、海外生活で苦戦
ー不安がなくなることはない。弱みの克服する努力は無駄
ー結局、自分の強みで戦うしかない
・この世界は残酷だ
ーしかしそれでも君は自分で選ぶことができる!
森岡毅とは
森岡毅(もりおか・つよし)は、日本の戦略家・マーケター。かつて低迷していた大阪のテーマパークUSJを数字とマーケティングを用いてV字回復に導いたことで一躍有名になった。USJは、森岡が入社する以前はハリウッド映画のアトラクションが中心であったが、日本のアニメなどを取り入れる大胆な戦略転換をとり、現在では東京ディズニーシーを上回る集客を実現させた。その他、株式会社刀の案件として、丸亀製麺、西武遊園地など数々の日本企業を再生させている。日本を代表する最強マーケターとして名が挙がる。
●公式
公式サイト:株式会社刀
●インタビュー記事
森岡毅流「自分の強みを見つける」方法とは?(DIAMOND online 2022.6.12)
USJ再生の森岡氏「失敗恐れず経営資源の3割注げ」(日経ビジネス 2022.1.5)
●動画
【大好評につき再配信!】この人の話を聞け!最強の戦略家!森岡毅
「苦しかったときの話をしようか」とは?
大学生になって社会人になる時期が近づいたら、自分の進むべき道は自然に見えるようになると思っていたのに、全くそうはならなかった(中略) 今、君はそんな状況ではないだろうか?
『苦しかったときの話をしようか』p20-21
『苦しかったときの話をしようか』は、USJ復活の立役者である森岡毅氏が、大学の卒業を控えた長女に就活や大学院など進む道を聞いたときに、答えられず気まずくなってしまったのをきっかけに、子どもたちにキャリアの判断に迷ったときの虎の巻をまとめようとしていたものがベースとなっている。編集者の目にとまり、広くビジネスマン向けに編集されたという。
本の解説と感想
強みで戦え
会社に依存するのではなく、自分自身のスキル(職能)に依存するキャリアの作り方を、君には強く勧めたい
『苦しかったときの話をしようか』p36
「やりたいことが、わからない」
悩んでいる人は多いのではないでしょうか。かくいう私も本当にやりたいことは何なのか、実は分かっていない…
森岡さんは、その根本理由を自分自身を知らないからだと断じます。もしも世の中に存在するすべての職業を知り、全てのオリエンテーションを経験したとしても、やりたいことは見つからないのだと。やりたいことを見つけるには、まず自分のなかで基準となる「軸」が必要で、それがなければやりたいことが生まれるはずも選べるはずもないと。
軸と言うのは、「生涯年収」「車」「女性でも勤めやすい」とか、そういったもので、一つではなく複数のクロスになるので千差万別になる。その軸を決めるのは自分自身。
次に「強み」。自分の今を相対的な特徴「すぐ人と仲良くなる」とか「コツコツ努力できる」とか。自分の目的達成のために、自分の特徴を理解し、その特徴が強みなのか弱みなのか分別しつつ、強みが強化されていく道を選んでいく。
ただ、同じような特徴を持つ人と比べて相対的に優れていなくては勝負できない。なので、強みはめちゃくちゃ頑張って磨いていかないといけない。そうでないと市場からは「選ばれない」ということだ。したがって、自分の人生の時間を強みを磨くことが大切になってくる。
だから就職するときは、会社で選ぶのではなく、自分のスキル・職能を磨くことができる会社を選ぶようにすること。これこそまずキャリア戦略の第一歩。ほとんどの場合、会社は消滅したり買収されたりするので維持することは困難。
会社を離れても自分のスキルで会社を選べるようになるほうがキャリアには圧倒的に有利ですよね。交渉上、複数の選択肢がある人物のほうが有利な条件を引き出せますし。
残酷な真実
人間は、みんな違って、極めて不平等
『苦しかったときの話をしようか』p52
平等な社会、とは言うけれど、現実問題として人間は平等ではないし、平等であるわけがない…
残念ながらそれは明らかなことで、先天的にも後天的にもみんな違い過ぎる。例えば容姿の違いは明らかだし、ハンディキャップをもって生まれる人もいる。生まれた環境の貧富の差もあるだろうし、育つ場所によって触れる情報も違う。言ってみれば運や確率。身もふたもない…
森岡さんは人間が不平等であるということを、逆にワクワクするのだそうです。一人ひとりがユニークということなので、一人ひとりが別の価値を生み出す可能性を持っているからだと。
神様のサイコロで決まってしまう私たちの特徴ですが、コントロールできる変数が3つあるそうです。
- 己の特徴の理解
- それを磨く努力
- 環境の選択
自分の特徴の理解以外は、自分自身の選択にかかっているということですよね。『嫌われる勇気』ともリンクする部分がありますね。アドラー心理学は目的から考えるので、今の環境は自分自身が選んだ結果なので「人間は変わることができる」、すなわち森岡さんが言う「選択はできる!」というところに繋がります。
この残酷な世界のなかで森岡さんが伝えたいのは、「それでも選択はできる」ということと「資本家の世界を見据えたパースペクティブを持つこと」。
資本社会である以上、不平等や格差は当然あるので、例えば「会社に雇われる」という感覚ではなく雇う側の立場や、自分が選ばれる世界もあるという、視座や視点を変える認識を持つことが大切になってくるということです。
自分の強みの見つけ方
気がついたのならば何歳になっても遅すぎることはないが、気がつくのは早い方が良いに決まっている
『苦しかったときの話をしようか』p148
強みは必ず好きなことの中にある、のだそうです。解釈をすると、好きなことだったらどんな苦労をしてでもやり遂げたいと思うし、どんどん知識も吸収できるということでしょうか。反対に嫌いなことだったらそんな時間を過ごしたくないし、そもそも興味がないので吸収率も悪いですよね。
で、強みとは「自分の特徴」と「特徴を活かす文脈」がセットなもの。社会とのかかわりの中で自分が気持ちよかったことは何なのかを挙げていくことで見つけられるはずなのだそうです。
森岡さんは、世の中の人の強みをを大きく3つに区分しています。まずはこの3区分のどれが中心になりそうかを探っていきます。みなさんが、心地よかった文脈に当てはまりそうな強みはどれでしょうか?
- Thinking(シンキング)
- Communication(コミュニケーション)
- Leadership(リーダーシップ)
Thinking(シンキング)は、考える力。戦略性が強みになる人。知的好奇心が満たされるものが趣味になっていることが多いそうです。 若干、理屈っぽいと思われるかもしれないとも…
Communication(コミュニケーション)は、伝える力。人と繋がる力が強みになる人。友達や知り合いが増えることが好きな人で、社交性が高い。ということはこれは私ではない…
Leadership(リーダーシップ)は、変化を起こす力。人を動かす力が強みになる人。何かを達成することが好きだったり、挑戦するのが好きで精神的にタフ。言い方はあれですが、お山の大将になるのが好きなのだそうです。
こうして自分の強みを知れば、キャリア戦略は随分楽になっていきそうです。なぜならたくさんの正解の中から排除すべきは少ない不正解。就職するなら身につけたい職能で配属してくれる会社をできるだけ選べばいいんです。
ブランド・エクイティ・ピラミッド
キャリアとは、自分をマーケティングする旅である
『苦しかったときの話をしようか』p189
いよいよ、自分のキャリア戦略を実行するためのフレームワークの登場です。
一言でいうと、「マイブランド」を設定するということ。これまでの森岡さんのメッセージにもありましたが、キャリアで成功するためには自分自身の職能で勝負できるビジネスパーソンになろうとすることを推奨しています。
その確率を上げるために、自分が選ばれるブランディングをしていこうという試みの設計図となるのが、「ブランド・エクイティ・ピラミッド」です。
詳細を描くのはなかなかつらいのでぜひ、本を読んで欲しいです。
ざっとまとめると、攻略する市場があり、ターゲットは誰か、そのターゲットにどんな便益を提供できるのか、なぜ自分なら提供できるのかという根拠(RTB)は何か、どうやって買ってもらうのか…といった感じ。
まとめあげたブランド・エクイティ・ピラミッドに書かれた自分に則った行動を、24時間365日、一貫してとると、おのずと築き上げられ、評判は部内→社内→業界へと広がっていくはずです。
ちなみに、職能はただやみくもに増やさず、シナジーを意識するとよいとも書かれています。例えば、経理としてキャリアスターとを切ると、その道のエキスパートになることも選択肢ですが、財務戦略・企業戦略の判断もできるようなスキルを持つとユニークな人材になれます。
キャリア形成で職能や転職というのは重要、というか全て。とはいえ今までと違い過ぎるとできないので、軸足からピボットしていくようなイメージ。このあたりは以前読んだ『ライフピボット』という本がお薦めです。
苦しかったときの話をしようか
最重要なのは”問答無用”な実績
『苦しかったときの話をしようか』p197
森岡毅氏が挙げる「苦しかった時」は以下の3つです。
- 劣等感に襲われるとき
- 自分が信じられないものを人に信じさせるとき
- 無価値だと追い詰められるとき
1.劣等感に襲われるとき
潰れないためには、最初から肩の力を抜いて、最後尾からスタートする自分を予めイメージして受け入れておくべきだ
『苦しかったときの話をしようか』p226
理想の上司、あるいは自分の理想像の通りに、成果を出そうと思っても、上手くいかないのが常。
森岡さんの当時の上司は、土日だろうがおかまいなく仕事について考えるタイプで、しっかりと成果を出していたそうです。その通りにやることで自分も成果が出ると思ったら身体が追い付かなかったそうです。
その後、上司とも話して自分のペースで仕事も普段の生活もするようになると、それまでの不調が嘘のような活動ができるようになったのだとか。
いつでも最後尾からスタートしているという感覚を持っていると、めちゃくちゃ余裕をもって過ごせるんじゃないかなと思いました。
2.自分が信じられないものを人に信じさせるとき
無力なサラリーマンである以上は「後ろ向きな仕事」は避けられないという悲しい結論
『苦しかったときの話をしようか』p240
森岡毅さんがP&Gでブランドマネージャーとなって初めて担当になったのが「フィジーク」というヘアケアブランド(ちなみにP&Gのブランドマネージャーなったのは27歳だそうです…すごい)
フィジークは、「科学があなたのスタイルを解放する」というコンセプトのもと、1,980円という高価格帯でドラッグストアに置こうという戦略を会社のトップが打ち出したものらしい。森岡さんはおろか上司を含む誰もが失敗を想像するくらいのものだったそうです。
そんなブランドでもリーダーとなったからには、「こんなプランを押し付けやがって」などと口に出せない。なので、メンバー一人一人に、そして自分自身にも嘘をついてる苦しい時間となったと…
結果は、大失敗。戦後処理も大変だったとか。自分だけではなく部下のキャリアにも影響が及んでしまいます。
残念ながら、サラリーマンである以上は、この問題の解決策はない…というのは実感のあることなのではないでしょうか。
森岡さんがここで学んだのは「結局、結果がすべて」ということ。結果を出さなければ誰も守れない。
3.無価値だと追い詰められるとき
大切なことは自分の強みで戦うしかないことと、自分の強みを知っておくことの2つ
『苦しかったときの話をしようか』p257
フィジークの敗戦で成果を出すことが全てという学びを得て、結果を出し、評価を覆した森岡さん。「パンテーン」というP&Gのなかでもメジャーブランドでしかも北米というエリアでのブランドマネージャーになりました。
しかしここで待っていたのは、いわゆる「いじめ」。ネイティブのようには話せない日本人が、北米でブランドマネージャーをやることに、競争意識や嫉妬もあったのだろうとのことですが、かなりしんどいものだったと想像します。会議の予定や重要な情報が回ってこない、あることないことを吹聴される…
同僚に「お前は無価値だ、お荷物だ、顧客との会議に出るな」と罵声を浴びせられ、会社に行きたくないという気持ちになったそうです。
ここからの挽回の詳細は『確率思考の戦略論』で語られているらしいとのことで、そっちも読まないとか…
森岡さんがこの経験から学んだことは、「自分の強みで戦うこと」なのだそうです。英語力が弱いのならそこをしゃべれるようにするというよりは、時間内に伝えたいことを伝えるということに焦点を絞って、繰り返し反復して暗誦できるようにするなどして、おそらくは強みであるマーケティング・数字で勝負するという方向性で行ったのだと思います。
弱さとの向き合い方
不安であればあるほど、君の知性が真摯に機能しているのだ
『苦しかったときの話をしようか』p267
これは自分にそう言い聞かせていくしかないですね。不安はなくならないので、そう意識することで段々と慣れるようになる。
不安なのは君が挑戦している証拠だとも言っています。不安になるのは、なんとか成果を出したいと思っているからですもんね。
さらに、自分の強みと全く関係のない弱点を克服しようとするのは時間の無駄と切り捨てています。
せめて強みの周辺で苦手なことだけにとどめると。どうしても弱点のスキルが必要なら、それを強みとしている人の助けを乞えばいいのだと。
「苦しかったときの話をしようか」まとめ
この世界は残酷だ。しかし、それでも君は確かに、自分で選ぶことができる!
『苦しかったときの話をしようか』p304
「みんなちがって、みんないい」という個性を認め合うことは素晴らしいです。しかし、個性というのはつまり他人と差があるということ。身長、体重、性別、家柄、興味関心。これらは平等ではありません。
なので、どうしてもある分野では秀でていて、ある分野では劣後するという事態が発生します。
だからこそ強みを最大に活かし育て、弱みは他人の力を借りる。嫌われようがどうしようが、結果が全て。
そういてば『嫌われる勇気』では、今の自分があるのは、自分が選択した結果ということが書かれてました。
まさに自分自身の選択によって、苦しい時を乗り越えることも、なるべく苦しまない方向に進むことも可能ということですね。
本の目次
- はじめに 残酷な世界の”希望”とは何か?
- 第1章やりたい事がわからなくて悩む君へ
- やりたいことがわからないのはなぜか?
- 「経験がないのに考えても仕方ない」は間違い!
- 君の宝物は何だろう?
- 会社と結婚するな、職能と結婚せよ
- 大丈夫、不正解以外はみんな正解!
- 第2章 学校では教えてくれない世界の秘密
- そもそも人間は平等ではない
- 資本主義の本質とは何か?
- 君の年収を決める法則
- 持たない人が、持てるようになるには?
- 会社の将来性を見極めるコツ
- 第3章自分の強みをどうするか
- まずは「目的」を立てよう
- 君の強みをどうやって見つけるのか?
- ナスビは立派なナスビになろう!
- 第4章自分をマーケティングせよ!
- 面接で緊張しなくなる魔法
- 「My Brand」を設計する4つのポイント
- キャリアとは、自分をマーケティングする旅である
- 第5章苦しかったときの話をしようか
- 劣等感に襲われるとき
- 自分が信じられないものを、人に信じさせるとき
- 無価値だと追い詰められるとき
- 第6章自分の”弱さ”とどう向き合うのか?
- 「不安」と向き合うには?
- 「弱点」と向き合うには?
- 行動を変えたいときのコツ
- 未来の君へ
- おわりに あなたはもっと高く飛べる!