『イギリスを泳ぎまくる』というタイトルに釣られて買ってみたら環境問題を考えさせられる本だった|サクッと書評

イギリスを泳ぎまくる(ロジャー・ディーキンス) ノンフィクション

日頃Amazonという大規模書店を利用している私。

この日は、両親と久々の食事に行くため、実家のある横浜の最寄り駅で待ち合わせていたが、少し時間が空いたため、リアルの書店に立ち寄りました。思えば本を書店で買うことがなくなっていたなと気が付きました。とても新鮮。

何が新鮮かと言うと、平積みにされている本であったり、書店員のセレクションであろう一角のラインナップが、「そんな本あったのか!」という好奇心があふれ出します。

Amazon書店に依存している私のレコメンドは、やたらとビジネス書と自己啓発本が並んでいます。たまに『キングダム』とか漫画も新刊が出るころに表示されるのですが、それにしても代り映えがしない。アルゴリズムが「はいこれ好きでしょ?」という状態では、見識が狭くるなという危険を感じた瞬間です。

新鮮さを味わおうと書店を眺めていて思わず釘付けになってしまった本が『イギリスを泳ぎまくる』です。

著者

著者はロジャー・ディーキンというイギリス人作家。2006年に亡くなっています。環境問題にも強い関心があったようで、環境団体も創設しているそうです。ロジャーが出版した『イギリスを泳ぎまくる(原題:”watetlog”)』はイギリスでベストセラーとなり、自然での水泳を楽しむ運動につながったのだとか。

冒頭の章では、ロジャーがイギリス中の池やプール、川を泳ごうと決意するシーンが描かれています。ある大雨の日、水と自分が一体化した感覚を覚えたのでしょう。読み進めると気が付くのですが、自然や環境に強い関心がある人物で、ところどころイギリスの環境庁への批判と、現在の川が置かれている状況を悲しむような描き方をしています。泳ぎまくるという行動と環境問題の対比は、子どものころ自由に夜でもフェンスを越えて公共のプールで泳いだ思い出からくるセンチメンタルなもののように思えます。

英文ですが、彼に関するこんな記事がありました。もはや野生のスイマーと呼称されているんですね…

Roger Deakin: writer and wild swimmer(ロジャー・ディーキン:作家で野生のスイマー)

本当にイギリスを泳ぎまくっている

ロジャーが泳ぎまくる姿は、非常にユーモアたっぷりです。

ある釣りの聖地である川に入るときには以下のように描かれます。

意外なことに釣り人の気配がないので迷わず中に入った

『イギリスを泳ぎまくる』p27

まじか。迷わず入るんだ。結構序盤なのですが全く迷いがありません。

このような描写は数々あり、たまに発見されると迷惑がられたり驚かれたり、目撃者の様々な反応と、ロジャーとのかけあい(?)も面白いです。

例えばこんなやりとり。

「おい、ここは私有地だぞ。わかっているのか?」
馬たちが一瞬、首を上げたが、すぐまた草を食み始めた。僕も、柵の向こうの遊歩道からにらんでいる二人を無視することに決め、水泳用トランクス一枚で精一杯の威厳を保ちながら暇のあるイラクサの繁みへ急いだ。

『イギリスを泳ぎまくる』p40

おい、多少なりとも申し訳なく思えそうツッコミたくなります。管理者もあきれ顔です。「柵はあんたとっては意味もないのかね?」と。

しかし、これこそ実はロジャーにとって大切な問いなのかもしれません。「なぜ柵が必要なのか?」と。

ほかにも沿岸警備隊に発見されたときの言い訳がこれ。

でももう半分まで渡ってしまいましたよ。反対側まで泳いでもいいでしょ。

『イギリスを泳ぎまくる』p190

もう手が付けられません。この湾岸警備隊の目をくぐり抜け再び遊泳して再度発見されたときは「また、あんたか!」と言われる始末。

環境への関心

ユーモアに語られる面だけ切り取れば、変人の記録でしかないのですが、ロジャー・ディーキンス氏は、その土地の歴史と背景も調べていたりします。

イギリスでは、川が私有地を流れる場合は川岸の所有者が川も所有するルールとなっているそうです。川辺へのアクセス権については民間の地主と環境庁とが交渉し決められるため、パブリックなものにならずに利益のために使われたり、問題を起こさないように柵を作って入れないようにされてしまいます。

一方で、フランスでは川から22ヤードはパブリックアクセスを認めているらしいです。イギリスはそれができないことに悲哀の念を持っています。かつての自然は誰でも利用できたのに、私的な権利によっ公共の利益が排除されてしまったためです。

また、別のシーンではある鉱山会社による川の汚染とそれに対する政府への怒りを滲ませています。

大混乱の末、環境庁が決めたことは、環境庁による浄化事業に1400万ポンドを助成して事態の改善をはかることだった。言い換えれば、私企業に対しては、深刻で持続的な環境汚染という負の遺産を社会に残すことを認め、そのツケを国民に回したのである。

『イギリスを泳ぎまくる』p169

まとめ

ジャケ買い的に買ってしまった『イギリスを泳ぎまくる』。私の不断の思考では到底たどり着けないリアルな書店ならではの出会いでした。

どんな本なんだ?という純粋な好奇心から手に取りましたが、一見して突飛な行動にも動機があり、行動によってどんなものが得られたのかを知ることは、私とは違う価値観に触れるよい機会だなと思いました。またこうしたエッセイのようなノンフィクションを手に取って読みたいと思います。

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