この数年で能動的な参加をする研修やワークショップの重要性を強く感じるようになりました。学びを得ようと意欲的に参加しても、一方的なインプットになってしまうと「それ」以外何も得られないし、あとは自分の中でだけの戦いになってしまいます。人間の認知は有限でしかも狭い。なので、人と会話をしたり、手を動かしたりしてアウトプットしていかないと、新しい何かが生まれにくいし、せっかく学んだこともあっという間に頭から抜けてしまいます。
そこで大切なのが「問い」。
本書『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』は、目標に向かって進もうとする私たちにとって、「認識の固定化」と「関係性の固定化」が阻害要因であると問題提起し、その解決策として【問いのデザインの技法】をまとめた1冊です。
この本、私にとっては手元に置いておきたいワークショップの教科書の1つになりました!
初回はアクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)という読書法で10数名で一緒に読み、参加者とともに対話を進め、終了後に一人でじっくり読み返しました。そういえば、このところオンラインのABDはamazonのkindleで購入する方も増えたのですが、この本は電子版がない!皆さん慌ててamazonで書籍を購入されていました(^^;
本書のように、「問い」の重要性を説き、問いの起こし方からワークショップとそのファシリテーションについては体系化した本は他にないと思います。ボグ・パイク氏と中村文子氏の『講師・インストラクターハンドブック』くらいではないしょうか。『問いのデザイン』はホントおすすめ。
さっそく要約を試みましたので読み進める際にぜひご活用ください。ただ、1枚でペライチ要約しようとするとほんとに概要にしかならないので、ぜひ本を手元において、同じ読者とともに読書会などで深めていくとよいと思います。後半に書き出していますが、目次だけでも勉強になります。
※追記(2020/2/17)
『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』は、ビジネスパーソンが「読むべき本」を選出するコンテスト「読者が選ぶビジネス書グランプリ」で総合7位を受賞していました!
『問いのデザイン』とは?サクッと要約
何を?
人々の認識と関係性の病を解決するための問いのデザインの技法
誰に?
企業・学校・地域で対話を作り出すファシリテーター
なぜ?
認識と関係性が固定化する病が、変わりたくても変われない本質的な問題を生み出しているから
内容は?
「問い」とは、人々が創造的対話を通して認識と関係性を編み直す「媒体」である。「問い」によって、認識の固定化(AならBという思い込み)をゆさぶり、関係性の固定化(上司と部下、売り手と買い手、先輩後輩など)を編み直す。
この「問い」をデザインする技法は、「課題のデザイン」と「プロセスのデザイン」との2つに分解される。「課題のデザイン」では、達成したい目標に対し、現状はどうなのかを把握し、その乖離の要因を説くべき課題と定義する。そして「プロセスのデザイン」は自分なりの答えや新しい問いを生み出すために①導入②知る活動③作る活動④まとめ、というプロセスを構築する。
著者
著者はお二人。安斎勇樹氏と塩瀬隆之氏。
安藤氏はミミクリデザインという会社の代表の方。以前からお名前と会社は私も知っていました。ミミクリさんはワークショップデザインと最大成果を目指すファシリテーションを事業とされてます。
日頃、ワークショップを学びたいと思っているので、ネットでいろいろ検索しているとミミクリさんのWORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)にだいたいあたります。青山学院のワークショップデザイナー育成プログラムも有名ですが、気になります!
もうお一人の塩瀬氏は、京都大学総合博物館准教授だそうです。私の見識が浅く存じ上げなかったのですが、NHKでやっていた『カガクノミカタ』の制作にも携わっていたんですね~
本の解説と感想
固定化する「認識」と「関係性」
著者が問題提起しているのが、「認識の固定化」と「関係性の固定化」です。
ワークショップに限ることではないのですが、僕らは普段からあらゆることが固定化してしまってます。AといえばB。あの人は冷たいものが嫌いだから暖かいお茶をお出ししようとか、あの人はエンジニアだからお客さんとの交渉はできないよね、とか。これが認識の固定化。
それから、もうず~っと終わらないこととあきらめているのですが、先輩後輩の関係。以前、ベンチャー(というより外資の日本進出)に勤めていたのですが、この会社が1年で日本を撤退。その当時、私は一番年下で気を遣うことも多かったのです。お気づきでしょうか。その当時一番年下って、永遠に年下なのです。今でも年に一回くらい集まるのですが、だいたいお店や参加者の管理は私ですからね(^^; まあ別に嫌ではないのでいいのですが、不思議と後輩なので~みたいになる。ってことでこれが関係性の固定化。
固定化っていうのは、人間の性質なんだと思います。人間の認識には限界があるので、極力省エネするために固定化して考えたほうがショートカットできて楽なんだと思います。効率化が図られているわけです。
ここが問題。この固定化によって可能性を狭めていたり、何も言えない環境になっていたりしないでしょうか。固定化された認識と関係性を、揺さぶり、編みなおすのが「問い」なんです。
問いのデザインの技法
「問い」ってなんでしょうか。本書のなかに整理されているので印象的だったのは、質問・発問・問いという枠組みで語られていたこと。
質問と言うのは、ファシリテーターが知らない答えを参加者から情報を引き出すもの。
発問と言うのは、ファシリテーターは答えを知っていて、参加者に考えさせるもの。
そして問いとは、誰も答えを知らないもので、創造的対話を促すトリガーだというのです。
※安斎さんのnoteに解説がありますのでご確認ください。
この「問い」を「デザイン」することこそが、キモ。
達成したい目標があったとき、現状とのギャップとの乖離を埋めることが課題になりますが、この乖離をしっかりと把握することで課題を特定したときに初めて「問い」が生まれます。
ただ「問い」の立て方を間違えるとあらぬ方向に行ってしまう可能性があります。本書には問いの立て方のヒントも掲載されています。
なかでも僕が色々と考えるところが多かったのが「制約」を設けるということです。ゲームやワークショップが面白いのってたぶん制約とかルールがあるからですよね。その制約下で考えることが工夫につながるんだと思います。自由なほど不自由。「今日のお昼どこ行きたい」って質問して「なんでも」って回答されるこの感覚…。「〇○エリアでならどこ?」とか「パスタならどこ?」と聞いたほうがいい。ちょっと違うか。
課題のデザイン
まず、ワークショップだとかファシリテーションだとかを考える前に、「解決すべき課題」をしっかりと定義しましょうと述べられています。
「問いかけ」の工夫以前にそもそも何のために対話を実施するのかどのような問題を解決するために対話を実施するのか、誰のどんな学びを促すためなのか、その目標設定がずれてしまっていては、成果が期待できない
『問いのデザイン』p48
そもそも適切な課題設定がなされていないと、後の工程が無意味に帰することもあります。みなさん、思い浮かべてみてください。昨日会社で会った会議のことを。今この場で何の結論を出せばいいのか分からない会議、なんとなく出た結論を後から振り返るとなんかちょっと違う…そんな状況になっていないですか?ゴール設定を間違えたら答えが違ってしまうのは当然です。
さて、本書では「課題」を設定するために、「問題」と「課題」という言葉を使い分けています。
問題とは、目標に対して道筋が分からなかったり上手くいかない状況。
課題とは、関係者の間で解決すべきだと前向きに合意された問題のこと。
とされています。なんだかわかるような分からないような…
例えばビジネスの場面において、「チームが上手くいってない、どうしたらよいか」というのも問題なのですが答えが一つではないものを難定義問題というそうです。難定義問題の場合、当事者たちそれぞれの認識によって解釈が変化するというのです。そうしているうちに問題の本質と離れいきます。
本書の事例とも似ていますが、「新規事業が立ち上がらない」という難定義問題を抱えていたとしたら、経営層は問題を「若手が受け身が多く新しい企画が出てこない」と考えているかもしれないし、若手は問題を「通常業務が大変で新しいことを考える余裕がない」と捉えているかもしれません。それぞれが問題を解決しようとする「問い」に違いが出てきそうですよね。その結果、経営層は研修とかビジネスプランコンテストをやったりするのですが、余計に苦しめることになるという…
ということでステークホルダー同士が納得して解決すべきだと合意された問題こそが、解決すべき課題だということになります。
ワークショップのデザイン
本書のなかでプロセスのデザインは、「ワークショップ」とそのなかで対話を促進する「ファシリテーション」に分けてまとめられています。
ワークショップはその基本構造(導入・知る活動・創る活動・まとめ)についてはここではサラッと書いてあり、ワークショップの問いをデザインするという点に重点が置かれています。
個人的に、問いのポイントは「制約」と「足場の問い」と解釈しました。
制約に関して分かりやすい例として以下のように記載されています。
「居心地が良いカフェとは?」と問いかけるのと、「危険だけど、居心地が良いカフェとは?」と問いかけるのでは、参加者の対話のプロセスに大きな違いを生み出します
完全にフリーディスカッションです、と言われても何を話していいか分からなくなってしまいますよね。自由だと確かになんでも話せるのですが、制約があると結構アイデアが湧いてくる。あえて制約を書けることも問いのデザインの技法なんですね。
ファシリテーターが目指すこと
ワークショップファシリテーターの成果って難しい。果たしていったい何を目標にすればいいのでしょう。
ワークショップって普段と違う頭の使い方をするので、なんか楽しい。でも楽しいで終わりがち。何かを得られたような気がする。確かにその時には思っていたこともあるかもしれないですが、すぐ忘れる。ファシリテーターも「やった」ことで満足してはダメ。
最初に戻ると、「問い」を通して目標を阻害する課題を解決する手段になっていないと意味がありません。ファシリテーターの目標は、質のいい問いと、質のいいワークショップを通して、問いの答えを出せたり、あるいは新しい問いを生み出すことこそが成果地点。そう設定したら、あとは問いのデザインの技法を使いこなすのみです。
本の目次
目次を読むだけで整理されている感じがものすごくしませんか?メチャクチャ良書だと思います!
- 序論 なぜ今、問いのデザインなのか
- はじめに
- 「認識」と「関係性」の固定化の病
- 企業、学校、地域を揺さぶる問いの技法
- 本書の構成:課題とプロセスのデザイン
- PartⅠ問いのデザインの全体像
- 第1章 問いのデザインとは何か
- 1.1問いとは何か
- 1.2創造的対話とは何か
- 1.3基本サイクルとデザイン手順
- 第1章 問いのデザインとは何か
- PartⅡ課題のデザイン 問題の本質を捉え、解くべき課題を定める
- 第2章 問題を捉え直す考え方
- 2.1問題と課題の違い
- 2.2課題設定の罠
- 2.3問題を捉える思考法
- 第3章 課題を定義する手順
- 3.1目標を整理する
- 3.2目標のリフレーミング
- 3.3課題を定義する
- 第2章 問題を捉え直す考え方
- PartⅢプロセスのデザイン 問いを投げかけ、創造的対話を促進する
- 第4章 ワークショップのデザイン
- 4.1ワークショップデザインとは何か
- 4.2ワークショップの問いをデザインする
- 4.3問いの評価方法
- 第5章 ファシリテーションの技法
- 5.1ファシリテーションの定義と実態
- 5.2ファシリテーターのコアスキル
- 5.3ファシリテーターの芸風
- 5.4対話を深めるファシリテーションの技術
- 5.5ファシリテーションの効果を高める工夫
- 第4章 ワークショップのデザイン
- PartⅣ問いのデザインの事例
- 第6章 企業、地域、学校の課題を解決する
- ケース1 組織ビジョンの社員への浸透:資生堂
- ケース2 オフィス家具のイノベーション:インスメタル
- ケース3 三浦半島の観光コンセプトの再定義:京浜急行電鉄
- ケース4 生徒と先生で考える理想の授業づくり:関西の中高生とナレッジキャピタル
- ケース5 ノーベル平和賞受賞者と高校生の対話の場づくり:京都の公立高校生とインパクトハブ京都
- ケース6 博物館での問いの展示:京都大学総合博物館
- 第6章 企業、地域、学校の課題を解決する