『世界でいちばん素敵なギリシア神話の教室』という本。まとめ方も興味そそそるラインを絶妙につきつつ、ビジュアルも多く、テキスト量も適度で読みやすく、ギリシア神話に軽く触れるにはちょうどいい本でした!サクッと読めます。
実際にギリシア神話の数は、この一冊だけでは語りつくせていないことばかりだとは思うのですが、おおよその流れとか関係性みたいなものは掴めるような気がします。
小学校の頃、『ぼのぼの』と同じアニメ枠で『ビット・ザ・キューピッド』っていう松下進(週刊ファミ通の表紙とかが有名?)がキャラデザをしていたアニメがあり、なんとなくそれを思い出しながら読んでました。
古事記もそうですが、神話って意味不明なところがありつつ、人間味もあるところが人々の関心を引いてやまないところなのかもしれません(まあ、常軌は逸してますが…)
例えば、ゼウスの浮気性なところとか。ヘラの目を盗んで女神やニンフ、女性のところに行くために雲とか動物に化けていこうとする執念たるや。で、妻のヘラはめちゃくちゃ怒る。怒りはゼウスに向くかというとそうでもなく、浮気相手とその子どもに向くという。
英雄伝説なんかでは、試練を与えられるような人物がいて、感情移入ができるようなっている。こうしたエピソードが生きるすべにもなり、教養になっていくんでしょうね。
日本にしても、ギリシアにしても、どの神話もおそらく、「天地創造」→「神々の世界」→「人間世界」という流れで、いつのまにか現実の歴史と交わっていく。ギリシア神話では、トロイア戦争がそれみたいです。(ただ、ギリシア神話そのものは、古事記のように歴史書として書かれているわけではないので、直接的な繋がりは薄いようです。)
あと、惑星とか星座が神話になぞらえているものだというのは、もちろん知ってはいましたが、例えば木星(ゼウス)の衛生がすべてゼウス愛人たちとは…そんなちょっとした豆知識も得られる楽しい一冊です!
本の概要と要約
内容
・世界のはじまり
ーまず3柱から
①タルタロス(奈落)
②ガイア(大地)
③エロス(愛)
ーガイアとウラノス
ー母と子の関係だが、エロスが二人を結んだ
ーウラノスが世界の最初の支配者
ーウラノスは子どもたち(ティタン神族ら)を奈落へ落とす
ーガイア、怒って子どもの一人クロノスにウラノスの男性器を切り落とさせる
ー傷口からギガスやアフロディテが生まれる
ークロノス
ーウラノスの次の最高神
ー子どもにその座を奪われるという予言を恐れ、子どもが生まれると飲み込む
ー末子のゼウスは難を逃れ、クロノスに毒を与え兄姉を吐き出させる
ー2つの戦争が起きる
①ティタノマキア
クロノス軍VSゼウスたちオリュンポス
②ギガントマキア
ガイア・ギガス連合VSオリュンポス・人間連合
・オリュンポスの神々
ーゼウス
ークロノスの次の最高神
ー全知全能だが女性にだらしない
ーヘラ
ーゼウスの妻
ーゼウスの浮気にひたすら怒る
ー1年に1次期だけ怒りを洗い流し仲直り
ーアポロン(ギリシア神話最大のスター)
ーアルテミシア(超わがまま)
ーデュオニソス(アル中の神?)
ーアテナ(フル装備でゼウスの頭から生まれる)
ーヘルメス(ゼウスの忠実な伝令)
・英雄
ーヘラクレス
ーゼウスと浮気相手とのこども
ー死の神タナトスを倒し、アポロンとは引き分け
ーヘラに狂わされ妻子を殺害、償うため12の試練
ーペルセウス
ーイアソン
・トロイア戦争
ー「美しい女神は?」という争いから発展
ートロイア王子パリスが選定することになりアフロディテが選ばれる
ーアフロディテは褒美に「世界一の美女を与える」と約束しており、それがスパルタ王妃ヘレネだった
ーパリスは構わずヘレネを奪い、攻め込まれた
・ギリシア神話のその他のエピソード
ー軍神アレスはよく負ける
ーアテナには一度も勝てず
ー人間であるヘラクレスにも敗れてる
ーメデューサはポセイドンの元恋人
ーメデューサはもとから怪物ではない
ーポセイドンと神殿で交わったためアテナの怒りを買い怪物に
ーハーデスは女性に奥手
ー好きになった女神ペルセポネのアプローチ方法が分からず誘拐
ー泣くペルセポネにおろおろするばかり
ーヘラの怒りはとんでもない
ーゼウスの浮気相手の出産場所を地上からなくす
ーゼウスの浮気相手を百目の巨人に見張らせる
ーゼウスの浮気相手との子どもヘラクレスを狂気にさせ妻子を殺害させる
ー人間に火を与えたのはプロメテウス
ープロメテウスはゼウスに味方したティタン神族
ー凍える人間を憐れんで火を与えた
ートロイア戦争の英雄アキレウスはかかとが弱点
ーギリシア神話は8世紀ころにうまれた
ーギリシア神話は、ホメロスがまとめたとされている
著者:蔵持不三也とは
1946年、栃木県生まれ。早稲田大学第一文学部仏文専修卒業後、パリ第4大学(ソルボンヌ校)修士課程(比較文化専攻)、パリ高等社会科学研究院博士課程(文化人類学専攻)修了。博士(人間科学)。早稲田大学人間科学学術院教授・モンペリエ大学客員教授。
Amazonでも検索結果ででてくる書籍がとても多く、年間で何冊も訳書をだされていたりされているようです。ジャック・アタリの本の訳もやっているあたり、信頼ある方なんですね。
本の解説と感想
世界の始まり
ここの流れが一番、ギリシア神話について吸収した気がします。なんでも成り立ちは興味深いし、その後の話のベースになります。最初はカオスから始まったらしいのですが、最初の3柱が誕生します。
それが、ガイア(大地)、タルタロス(奈落)、エロス(愛)。
それぞれのエピソードもあるのでしょうが、その後の流れの元となるのはガイアです。名前から男神なのかと勘違いしていたのですが、女神であり、こどものウラノスとの間に多くの子を産みます。古事記も似たようなところありますよね
ガイアとウラノス
3柱の1柱であるエロスによって、ガイアとウラノスは母子ではあるものの結ばれて多くの子を産んで世界を築いていきます。ガイア=大地ということで、母なる大地という言葉には、ガイアのそういういみもあるんですかね
2人から多くの神々(ティタン神族)生まれるのですが、1つ目の巨人・キュクロプスや、百腕を持つ怪物・ヘカトンケイルも産み落とします。ウラノスはユクロプスとヘカトンケイルをタルタロス(奈落)に落とすらしい。
これに怒ったガイアが、ティタン神族の1柱・クロノスに命じて、ウラノスの男性器を切り落とすという…浮気がどうとい話でもないのに、なんで性器を切り落とすのかは不明ですが、これによってウラノスは最高神から落とされることになり、クロノスが最高神となります。
ちなみにウラノスの去勢された血や傷口などから、ギガスという巨人たちや女神アフロディテが生まれます。
古事記で言えば、まず最初のほうにイザナミとイザナギのような神産みがあった。
そして、カグヅチを生んで死んでしまったイザナミを連れ戻そうとしたイザナギが腐ったイザマミを見て慌てふためいて黄泉から戻って川で目を注いだら、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲが生まれたみたいな、そんな展開と似てますかねー。
クロノス
世界の最初の支配者はウラノスでしたが、次に世界を支配したのはガイアに命じられ父であるウラノスを去勢したクロノスでした。クロノスもゲームや漫画のファンタジ―で登場しがちですね。ゼウスの父親でゼウスと戦って敗れてるので、裏ボス的な感じです。
最高神となったクロノスは、「我が子に王座を奪われる」という予言を恐れ、自分の子どもを喰いまくります。そんな状況を母ガイアも妻のレアは、末子であるゼウスが生まれるとクロノスの魔の手から逃れます。
そしてゼウスは、飲み込まれていた兄や姉を吐き薬で吐き出させ、クロノスから救い出したそうです。生きてるのかい、と突っ込みたくなりますが、神は基本的に不死なので突っ込んでも仕方がないのです…
2つの戦争
クロノスから兄と姉を救ったはいいものの、今度は世界の支配権を巡り、ゼウス率いるオリュンポス十二神とクロノス率いるティタン神族が戦うことになります。これがティタノマキアです。
簡単に言えば、クロノス世代とゼウス世代の戦争。ウラノスとガイアの子どもであるキュクロプスたちの力を借りて勝利します。もともとガイアがウラノスに対して、キュクロプスを奈落に落としたことを怒ってウラノスを最高神から落としたのに、クロノスが最高神になっても、彼らはずっと封印されたままだったんですかね。
次にギガントマキアが始まります。ウラノスの傷口から流れた力生まれたギガスたちとゼウス率いるオリュンポス十二神との戦争です。ティタノマキアでクロノスやティタン神族をタルタロスに封印したゼウスを「やり過ぎ」と考えたガイアがギガスを率いていました。
ギガスはなぜか人間にしか倒せないということで、ゼウスは人間の力を借りて勝利します。本書に詳細は書かれていないのですが、調べてみるとヘラクレスが文字通り超人的な活躍でギガスたちを倒していったようです。
戦争のあと
ティタノマキア後、クロノスを含むティタン神族は捕らえられ、タルタロスに封印されてしまいます。ギリシア神話では封印するといえば、冥界ではなく奈落なんですね。冥界はあくまで魂が管理されるところみたいな感じだからなのでしょうか。
このあと、ポセイドンが海を、ハデスが冥界を、そしてゼウスが天界を収めるようになったそうです。アマテラス、スサノヲ、ツクヨミみたいな展開になってきました。古事記ではツクヨミの存在感がなさすぎですが…
オリュンポスの神々
ゼウス
2つの戦争で勝利したゼウスは最高神となります。ゼウスはかなり女性にだらしなかった様子で、浮気相手に多くの子どもを産ませています。とはいえ全知全能の神。そして神は試練を与えたがるものなのか、人間や他の神にいろいろと罰を与えています。
例えば、人間の増長に危惧を持ったのか、ゼウスは人間から火を取り上げます。人間は寒さに凍えるのですが、それを見かねて火を与えてしまったのがプロメテウス。プロメテウスはティタノマキアでゼウスに味方したティタン神族です。
これにに怒ったゼウスはプロメテウスに、内臓を鷲についばまれ続ける罰を与えられるという…臓器は再生され、永遠に続く…。
これをきっかけとしてなのか、ゼウスは人間に災いをもたらす動きをし始めます。詳しくは逸話をちゃんと読みたいなと思うのですが、パンドラの箱もこれがきっかけのようです。さらに大洪水を起こして人類をほぼ壊滅させます。
ほぼ人類がいなくなったのに、人間界はこの語も王国ができてるんですよね。年月がかなり立っているということなのか…難しいことは考えなくてもいいのか。
ヘラ
ゼウスの妻がヘラです。ヘラはゼウスの浮気に怒ってばかりですが、決して三行半は突きつけなかったという。本書を読むと、ずっと怒り狂っている気がするのですが…
復讐の仕方がなかなかで、ゼウスの浮気相手が妊娠したら地上のどこでも埋めないようにしたり、浮気相手の子どもであるヘラクレスを妻子を手にかけるように狂わせたり。浮気相手への監視も百目の巨人を使っていたりします。ゼウスに対して罰を与えてもいい気はするんですけどね。。
それでも、1年に1回一定期間だけ仲直りをするらしいです。一年間の苛立ちをすべて洗い流すとヘラは美しい女神になり、この時ばかりはゼウスも他の女性に目もくれなかったのだとか。
その他の十二神
十二神ごとに特徴ある話が記載されているのですが、全部書いてしまうと大変なのでちょっとだけピックアップ。
アポロン
アポロンと言えば太陽神。若くて美しい神様。理知的で明るい。ギリシアの精神の象徴と言える存在です。ゼウスの浮気相手である女神レトとの子供です(ちなみにヘラから出産場所を地上から無くされた人)。アポロンの逸話としては、ダフネとの話がよく知られているそうです。エロスの怒りを買ったアポロンは、エロスから愛の矢を射られ、ニンフ・ダフネに夢中になりますが、ダフネは愛情を拒絶させる鉛の矢をエロスから射られ、アポロンの愛情から逃げ回るという…
アテナ
アテナと言えば、聖闘士星矢で有名ですね。聖闘士星矢ってそういえば神様ってあまり出てきませんね。ポセイドン、ハデスくらいしか思い出せません。ゼウス登場してるんですかね。ちなみにZガンダムに「パラス・アテネ」っていうモビルスーツがいるのですが、この由来は、アテナが親友であるパラスを殺害してしまったことを悔いて自らを「パラス・アテナ」と名乗った名称のようです。
アフロディテ
オリュンポス十二神は多いのですが、アフロディテはウラノスの傷口の泡から生まれたという、一味違った背景を持っています。どこから生まれてなぜそんなお美しくなられたのか…と思わざるを得ません。ヘパイストスという夫がいたものの、たくさんの愛人を作っていたそうです。トロイア戦争の発端の一部を担っていて、「最も美しい女神は誰か?」という美人コンテストの審査員にトロイア王子・パリスに決めさせ、見事アフロディテが一番になります。その褒美に世界一の美女を与えると約束してしまっていて、それがスパルタ王妃ヘレネで、スパルタ王はヘレネを取り戻すためにトロイアへ攻め入ったという…
英雄伝説
ギリシア神話には、神々の話だけではなく、人間の英雄物語もあったりします。純粋な人間というよりは半神半人だとは思うのですが。ヘラクレスなんかもそうです。一部有名どころをピックアップしましょう。
ペルセウス
メデューサを倒した話が有名です。それだけではなく、メデューサを退治した帰り道に海岸で岩に縛り付けられて生贄にされようとしているエチオピアの王女アンドロメダを怪物から救うなどのエピソードがあります。
オイディプス
なかなかエグいエピソードをもっているのがオイディプス。全く知らずに実の父を殺害し、全く知らずに実の母親と結婚するという人物です。道を譲れと言われ従わなかったために自分の馬を殺され、怒ったオイディプスは、その従者と主人ライオスを殺害。その後スフィンクスを退治したオイディプスはテーバイ王となるが、娶ったのがかつて自分が道で殺害したライオスだったことを知るという…
ヘラクレス
ただただハチャメチャに強い。死の神・タナトスを倒し、アポロンとも引き分け。ヘラに与えられた12の試練をクリア。ギガントマキアでは大活躍。なおジブラルタル海峡は12の試練のクリアを急ぐヘラクレスが近道を作るために山を二つに割いてできたという伝説があるようです。
まとめ
一通り、ギリシア神話の根幹のエピソードであったり基礎知識は得られたのかも…と思っています。ここからもう少し個別の逸話を読んでみたいなと思いました。
エピソードを知るにもいいですが、なぜそれぞれの神話が伝承され、そこから何を意識させようとしたのか、そういったところまで自分なりに解釈できると身になっていくんでしょうね。
本の目次
- はじめに
- ギリシア神話の登場人物相関図
- ギリシア神話の舞台
- ギリシア神話が成立したのはいつ頃?
- 1章 世界の始まり
- ギリシア神話の始まりを教えて!
- 最初に世界を支配した神様は誰?
- 父を失ったクロノスはどうなったの?
- 兄姉を助けたゼウスは、すんなり王になったの?
- ギガントマキアは何で始まったの?
- ティタン神族は、みんなオリュンポス十二神の敵だったの?
- パンドラってどんな女性?
- なぜゼウスは大洪水を起こしたの?
- 2章 オリュンポスの神々
- ゼウスってどんな神様?
- ゼウスの奥さんは最終的に三行半を突きつけなかったの?
- ギリシア神話で最大のスターといえば?
- ギリシア神話で最も愛された女神は誰?
- ギリシア神話の美の女神といえば?
- アレスが不人気だったのはなぜ?
- 怒らせてはいけない神様といえば?
- ポセイドンは海だけを支配していたの?
- ヘルメスは何でゼウスに忠実なの?
- ギリシア神話に職人気質の神様っている?
- デメテルは、どんな性格だったの?
- ギリシア神話にも地獄はあるの?
- ヘスティアはオリュンポス十二神に入ってるの?
- アルコール中毒の神様がいるってホント?
- ギリシア神話の太陽神は?
- 特集 ギリシア神話で楽しむ惑星・衛星・星座
- 3章 英雄たちの物語
- ペルセウスの功績を教えて!
- ギリシア神話で不幸な生涯を送った人教えて!
- ギリシア神話の冒険譚を教えて!
- 怪物を倒した英雄をもっと教えて!
- ギリシア神話でいちばんの英雄は誰?
- 美しいニンフも神様なの?
- キマイラってどんな怪物?
- 神々の武器・防具で有名なのは?
- 4章 英雄たちの一大戦記
- ギリシア神話でいちばんの美人は誰?
- ギリシア連合はどんな戦術でトロイを陥落させたの?
- トロイア戦争終結後のエピソードを教えて!