「東大読書」とあったので、東大生の読書法なのかなと思ったら、全然違いました。
読書について書かれてはいますが、主なテーマは「地頭力」を鍛えるにはどうすればよいかというもの。地頭力を鍛えるためには、5つの力(読解力・論理的思考力・要約力・客観的思考力・応用力)が必要で、それを身に付ける手段として著者が「東大読書」と呼んでいる本との向き合い方が書かれています。
ということなので、本著『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』は、決して速読法の類ではなく、あくまでも情報を知識として使えるようになることを目的とした本です。
最大の学びは、本は読まずに対話と議論をするということ。
読みはするんですが、読むという行為自体は受け身で、情報をインプットしているだけ。対話するというのは、この本から何が得られるのかという仮説を立てて検証していく、読みながら質問をぶつけていく、疑問があったら別の参照元の情報にもあたってみるということです。
そうすることで情報が多面的になって、知識として使える情報になっていきます。なんとなく、頭いいなと思う人に独り言が多い気がするのは、「もしかして問い続けているからか?」と思いました。
著者の西岡壱誠さんは、東大への合格を目指したそうですが、結果は二浪。そこから「東大に受かる人は何が違うのか」という問いを立てて、問題を分析していきます。そこで気がついたのが、知っているだけでは解けない、考えることを問うものだったということ。
2回落ちて、あきらめずに冷静に分析したというところがすごい。
先に紹介した5つの力を鍛えるための、「地頭力を身に付ける読書法」を実践していった結果、模試でも結果が出て自身ができて、最終的に東大に合格したということが大きな原体験になっているんでしょう。
まとめられている内容には、目から鱗だ!というものは実はありませんでした。本から得られる情報を身に付けるという目的に限らず、学びを血肉化させるまでのプロセスはだいたいこの『東大読書』に書かれていることが大切だと思います。ですが、とても整理されていています。
例えば…
・本のタイトルと帯からどんなことが得られそうかという仮説を立ててから読み始める
・最初と最後、否定の後の文章などに注目する
・同じテーマの本を複数読んで検証する
・本は魚の骨で、主張は最初から最後まで一本であとは身
・読んだだけで終わらずアウトプットする
など。それをふまえると、本書『東大読書』もよくまとめられて分かりやすいと納得ですし、格段に内容が記憶に残ります。
ただ結局、この本の読み方を愚直に繰り返せるかできないかが「差」になってくるんでしょうね。
この本では、付箋を多用し、問いと仮説を立て続けていくので、確かに地頭はつくのかと思います。ただし時間はかかりそうです。時間がかかるので選書がとても重要になってくるので後半のパートでは本の選び方もしっかり書かれているのだと思います。
繰り返しも多い印象ですが、簡単に読める本なので自分の学習スタイルと比較して確認をするだけでも読む価値があるんじゃないかと思います。
サマライズ(本の概要と要約)
著者の課題
地頭力は鍛えられないのか?知識を得るだけではなく、うまく活用できる力をつけるには?
解決方法
本の読み方を変えるだけで地頭力は身につく。能動的に本を読めばいい。
内容
1.読解力を身に付ける
ー仮説づくりで鍛える
ータイトルやカバーからヒントを得る
ーそこから何を学ぶのかをはっきりさせる
ー読む前に大雑把な地図を作り、全体像と自分の現在地を明確にする
ー目標、道筋、スタート地点を組み立てる
ー軌道修正もOK
2.論理的思考力を身に付ける
ー取材読みで鍛える
ー本は読まない。記者のように相槌を打ち、質問を考えながら、メモを取りながら耳を傾ける
ー情報を鵜呑みにせず、何に立脚した情報で何の意味があるのかを吟味して考える
ー疑問を持ち、本の内容を飛び越えて、自分で調べる
3.要約力を身に付ける
ー整理読みで鍛える。
ー本当に理解しているかどうかは要約できるかどうか。
ー本は魚。最初から最後まで骨になる主張が通っている
ー「最初と最後」「否定の後」「問いかけの文」「装丁読みの付箋」に着目すれば要約が簡単になる
4.客観的思考力を身に付ける
ー検証読みで鍛える
ー本を一冊ずつ読んではいけない
ー意見の偏りを避けるために同時並行で複数の本を読む
ー似ているけどちょっと違う本、共通点と相違点を見つける
5.応用力を身に付ける
ー議論読みで鍛える
ー人は会話するほうがその内容を覚えている
ー知識を得るためには相互性。speakされるのではなく、talkする
ーインプットからアウトプットの過程の中で理解が深まる
ー仮説の答え合わせ、アウトプット要約、自分なりの結論で議論する
・本の選び方
ーベストセラー
いいも悪いも話題になる本は今の世の空気を知れる
ー信頼できる人のレコメンデーション
本選びを他人に任せる。信頼できる人を探す
ー古典
時代を超えた古典は様々な考え方の土台になる
ーテーマを決める
同じテーマの本をいっぺんに読む方が得られるものは多い
ー読まず嫌いを避ける
読んだことのない本の方が得られる知識は多い
本の解説と感想
本を読み始める前の準備
本の内容は、タイトルやカバーにヒントが多く語られているそうです。確かに、帯にはキャッチコピーであったり、著名人が着目した点と一言の感想が載せられています。
本のタイトルなんかは、大ヒントというかもはや結論です。例えば、『1分で話せ』という本がありますが、もうタイトルだけで完結していて、1分どころか1秒で終わってます…
著者の西岡さんは、東大に入ってから東大生の本の読み方を確認したところ、ご自身と同じような読み方をしている人が多かったのだとか。東大生は外側からヒントを探す力があって、読む前の事前準備がしっかりしているというのです。東大読書では、外側の情報から得られたヒントを付箋に書き残しておき、後から見返せるようにします。読んでいる途中で忘れてしまうからです。
そうしたら、大雑把な地図を作るように、この本から何が得られたらよいかという目標を設定し、その道筋、自分の現在地を設定します。この地図は読み進めることで埋まっていきますが、道筋やゴールはどんどん変えていっても構わないそうです。
「何が得られるのか?」はこの時点では仮説でしかないので、それを検証するために情報を読み解いていくので、仮説が間違ったら修正するという、ビジネスにも通じるプロセスです。仮説づくりによって読解力が強化されていきます。
本は読まない!
繰り返しになりますが、本を読むという行為自体は受け身です。先生の話を相槌も打たずにメモも取らないで一方的に講義を受けているだけの状態です。情報の背景を知ることなく、その真偽も確かめることなく、ただただ受け止めているだけです。
そうではなく、能動的に本を読むことが「地頭力」を鍛えるのに有効だと述べられ、本著では、さきほどの「取材読み」という言葉を使って、能動的な読み方の実践についてまとめられています。
取材を想像してみてください。取材対象にはあらかじめ仮説づくりから想定質問を用意しておきますし、取材が始まったら、その場でメモを取りながら新しい質問を投げかけます。発せられた言葉の真偽を確かめるために、追加検証するために別の情報源に当たったり、専門家に確認したりします。
与えられるがままの情報を鵜呑みにせず、何に立脚した情報で何の意味があるのかを吟味する過程があってこそ初めて使える知識になります。こうした取材読みによって論理的思考力が養われます。
ひと言で言えてこそ理解している
本を読むと分かった気になる…
そう、ただ分かった気になる。なぜならたくさん時間をかけてたくさんの文字を読み込んだので、満足感があります。ですが本当に理解しているのなら、「この本はつまりこういうことを言っている」という要約ができるはずです。
じつは著者が言いたいことは本文を読み込まなくても分かったりします。本著でもこう書かれています。
「最初と最後」「否定の後」「問いかけの文」「装丁読みの付箋」に着目すれば要約が簡単になる
『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』p127
ほとんどの本は「はじめに」に問題提起と主張が書かれています。本文はその主張を根拠で支えるために肉付けしていくものです。『東大読書』もまさにそうで、「地頭力を鍛えるには能動的に本を読めばいい」という一言で片付きますが、地頭力とは何か、能動的に読むとは何か、といった具体的な中身が章立てで解説されていきます。
このように内容を整理して読んでいくことで要約力が鍛えられます。
本は1冊ずつ読んではいけない
もし情報源が1つしかなかったとしたら、私たちはそのシングルソースを信じるしかありません。それを信じるのは危険ですよね。
本も同じです。本は著者が語る1つの意見でしかありません。なので意見の偏りを避けるために、なるべく同じテーマの本を複数同時並行で読むことが推奨されています。こうすることで、共通点と相違点を発見することができ、多面的にそのテーマを捉えることができるようになります。
これは読書法でよく言われることで、外山滋比古さんも『思考の整理学』で積読読みという手法がおすすめだと書かれていました。共通点はおそらく通説で、相違点は議論になる論点ということです。確かに新聞を読んでいても同じことなのに好意的に書かれていたり否定的に書かれていたりします。
複数の本を読みながら検証する読み方で、論理的思考力が鍛えられます。
知識を得るためには相互性
学生時代、一方的な講義を聞くよりも、はるかにゼミのほうが知識が深まった気がするのは、会話があったからだと思います。
一方的な話(speak)は、受け手の集中力も続きませんし、疑問に思ったことを確認しないままになってしまうので消化不良になります。ですが対話で深めていくと記憶にも定着していきます。また、インプットしたことは実践でアウトプットしていかないと、自分の血となり肉になりません。これは多くの方が実感することなのではないでしょうか。仮説検証や主張をぶつけ合うこの過程によって、より理解が深まっていきます。
読書において人と議論するのは読書会もありますが、なかなか参加する機会ってないですよね。本著ではなにも読書会を推奨しているわけではありません。最初に立てた仮説の検証、要約というアウトプット、自分なりの結論をだして読みっぱなしにしないようにしようということです。この本を読んで自分はこう思った、という感想を言葉にするだけでもよいそうです。
※本著では地頭を鍛えるための5つの力に「応用力」があるとしていて、この議論読みが応用力を鍛えるそうなのですが、この繋がりが理解できていません。
本の選び方が大事
本をどうやって選んでいるのか。普段はあまり意識していませんが、私はどこかに掲載されていた本であったり、リアルな場やSNSで誰かがおすすめしていた本を購入しています。最近は本屋に立ち寄ってぶらぶらと見たりもします。
きちんと使える知識にするためには、どの本を読むかも重要になります。なんていったって時間は有限。人間の記憶力もキャパがあります。効率よく読んだほうがいいに決まってますよね。
本著では選書のコツも書かれています。それが「ベストセラー」「信頼できる人のレコメンド」「古典」「同じテーマの本」「読まず嫌いを避ける」というもの。
ベストセラーは多くの人が読んでいるので、いま世の中で話題になっていることの流れも掴めるし、たとえ良書とはいえなくてもなぜこの本が議論になっているのかを考えるきっかけになります。レコメンドはいわずもがなですが、信頼できる人を探すのが難しそう。古典は長きにかけて読み継がれていることから考え方のベースになるものです。同じテーマのものを読むというのは、積読読みであったり本著で伝えている多面的にテーマを捉えることにつながります。読まず嫌いをしていると知識が狭まるので、なるべく広いジャンルを読んでいた方が考える力は身に付きそうですね。
まとめ
東大読書では、本を読むだけのインプットにとどまらず、それを活用できるレベルに高めるためには本を能動的に読むということが書かれていました。
わたしは、比較的たくさん本を読んでいるほうだと思いますが、いまのところインプットだらけなのは自覚しているところ。しっかりとこのインプットを展開できるようにしたいのですが、実践の場がない…
それこそ本を読む目的が大事になってきますね。必要に迫られたときに読む本の習熟度ってとんでもないので、それはそれで読めばいいと思っています。平時は多くテーマの本を読んで色々な価値観や理論に触れて、引き出しをだせるようにしておきたいと思います。