フォントという一つの文化ともいえるものに興味があります。「絶対フォント感」という言葉に惹かれてAmazonほしい物リストに入れて、ギフトしてもらったもの。
ぱらぱらとめくると、要約とかそういうことするやつじゃないというのを早々に思って焦る。ざっと読もうにも、初めての知識すぎるのと、熟読して咀嚼しながらじゃないと全く頭に入らない…
結果、「絶対フォント感」は一日にして成らず。
フォント(というか書体?)について全然知らなかった明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体、毛筆・硬筆書体、デザイン書体という大枠の分類がようやっとできる程度…挫折。
でも、内容はかなり面白い。書体の歴史にも触れられます。
写植というmacが登場する以前に主流だった印字機械。写植書体で名作だったものがデジタルでは存在しないこと。
読みながら、なぜ書体の名前って読み方が分からないんだろうとか思いましたが、名前からもその存在の流れがわかるものもあるとか。
それから印象に残ったのは、タイプデザイナー鈴木功さんのインタビュー。タイプデザインと言うのは、「社会の課題を解決する」ことでもあるということ。「デザイン」というのは、アートとは違ってあくまでも対象者がいるソリューション、情緒的な効果も含めて、あくまで機能的に役割を果たすものでないといけないということを『なるほどデザイン』という本からも学びました。
僕らが、普段何気なく読んでいる文字には横書きも多い。昔は縦書しか想定されていなかったから、そのまま横書きに使ってしまうと読みにくさがあったりするそうだし、今は紙に加えデジタルデバイスが増えたりして、そこへの適用もなされている。
書体研究科の小宮山さんもこう言ってます
「文章を読んでいるとき、意識せずにいられるのが、良い書体。良いものほど目立たない。健気だよね。」
一方で、写植からデジタルに移って「クオリティが高い」とされた書体は、多くの人には気にもされずに徐々に姿を消えようとしてるわけで、儚くもあるように思えますね。
本の概要と要約
内容
・絶対フォント感とは?
目にした書体を即座に見分け、その名前を言い当てられる能力。
※ここでの意味は正確には「書体」だが、細かいことは置いておく
・明朝体
ー金属活字がルーツ
ー効率的に鋳造できるよう書体ごとに「とめ」「はらい」などに決まった型がある
ー同じ部品の組み合わせている
ー筆と彫刻の総合芸術
ー「ひらがな」は日本で独自に進化
・ゴシック体
ーシンプル
ー縦と横がだいたい同じ太さ
ー丸みがあってかわいくなるのが丸ゴシック体
・大きく9つに分類(本書独自)
①明朝体レトロ系
②明朝体ベーシック系
③明朝体アップデート系
④ゴシック体レトロ系
⑤ゴシック体ベーシック系
⑥ゴシック体アップデート系
⑦丸ゴシック体
⑧毛筆・硬筆体
⑨デザイン書体
・分類メモ
ー金属活字のイメージやニュアンスがあるものがレトロ
ーオーソドックスなスタイルがベーシック
ー時代に合わせて進化したものがアップデート
・豆知識
ータイプデザインは数人がかりで3~5年かかることもある
ー鉄道好きには「もじ鉄」もいる
ーDTP以前(写植)と以後で書体のデザインの印象が変わる
ー写植書体の大手メーカー「写研」がDTPに参入しなかったため、名作が姿を消す
本の解説と感想
絶対フォント感とは
絶対フォント感とは、この牛乳パックの赤字部分を見たとき、写研書体に混ざって「株式会社ヤツレン」が中ゴシックBBB、「原材料名 生乳100」が新ゴなのではと推定でき、昔からある版下のうち、この部分だけ後から差し替えられているのではないかと仮説が立てられる能力を指す
『絶対フォント感を身につける』p7
本の序盤には、「マジか…」となるような、絶対フォント感とはどういうことかを伝える言葉が、ビジュアルを交えて提示しています。
SNSでバスりそうなpostなわけですが、本書を読み通せば、この文章にはすごい深さがあることを思い知らされます。書体の名前を言い当てられるのが「絶対フォント感」だとしても、「写研書体に混ざって」「この部分だけ差し替え」の部分に、中ゴシックBBBと新ゴという書体を使わなければならないセンチメンタルな歴史も匂わせています。
それにしても街に出てみれば、世の中はフォントに溢れている…というか家にいてもずっとフォントに触れている。どうやら「絶対フォント感」を持つような人は、日々、「なぜこの場面でこの書体なのか」「書体の統一感のなさ」といったことが気になってしょうがなかったりするんだろうな。絶対音感の人も、生活の音が音階に聞こえるって言いますもんね。
な、なんだか疲れそうだな…
フォント(書体)の分類
僕は、この本に興味は持ったものの、そもそも書体のことなんてさっぱり知識がありませんでした。
なんとなくパワポの資料は「メイリオ」がよさそうだとか、明朝とかゴシックとかそういう違いはなんかあるんだろうとか思っていましたが、フォントをみてどの分類のものも答えられませんでした。別に答えられなくてもいいと思いはしますが…
さきほどから「フォント」と「書体」と同じような意味で使っていますが、正確には別物なのです。「書体」が統一されたデザインの文字様式で、「フォント」はさらに踏み込んで太さや大きさまでを指します。
なので「絶対フォント感」は、厳密にいえば「絶対書体感」らしいですが、なんとなく「フォント」と言ったほうが伝わるのでそのようにしているそうです。
さて、分類の話です。この本では便宜上(だと思うのですが)9分類にわけています。大きくは5つ(明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体、毛筆・硬筆体、デザインフォント)で、明朝体とゴシック体がそれぞれ3分類(レトロ・ベーシック・アップデート)している感じです。これらの分類を整理してまとめた見本帳が、付録としてつけられています。
「これは〇〇ではないか」と推測して見本帳を確認するのを繰り返して「絶対フォント感」を訓練するためのアイテムです。
いまのところまだまだ、大分類しか分からないのですが、明朝・ゴシック・丸ゴシックの特徴を分かりやすく書いてくれていて、少なくともその分類だけは今後つけられそうです。
活字印刷というのが、書体(フォント)のルーツで、明朝体の筆で描いたようなデザインは、活版印刷の型を鋳造するときに、作りやすいようにルールに従って文字が組まれているのだとか。
ゴシック体は、縦と横の太さがほぼ同じで、丸ゴシック体がそれを角が丸くしたものだと。そう捉えるともう、あっという間に分類はできます。体系だった分類って分かりやすい…
写植からデジタルへ
本書の半ばに『写植モダン』というエッセイ(?)が組まれています。写植(写真植字)については、このように表現されています。
カメラとタイプライターを合体させたような専用の大きな機械で文字を撮影し、現像した印画紙や図版を手作業で切り貼りしてレイアウトし、「版下」と呼ばれる原稿をつくっていた
『絶対フォント感を身につける』p51
写植からデジタルに移行して、文字の世界が「変わった」ということ本書を読んで認識をしました。
写植は、「活版印刷の活字に代わる革新的な発明だった」と記述があります。活版印刷が一字一字の型を取っていかなければならなかったり、文字の大きさを変えることはできません(なので号数という文字の大きさの単位ごとに型を用意しなければならなかった)。
ところが写植は、文字盤というプレートを使って、写真の原理を利用して印字します。レンズを利用して文字の大きさを調整したり、斜体や長体といった変形を可能にしました。まさにイノベーション。
写植は電算写植というコンピュータで組版(活字を「組」合わせて、「版」を作ること。 現在では、文字や図などをページに配置する作業のこと)できるようになる進化を遂げて繁栄します。
しかし現在はさらに、DTP(Desktop Publishing)に置き換わっています。DTPがもたらしたものについては、以下が分かりやすかったです。
DTP(Desktop Publishing)の登場により、職人の手作業による製版作業がなくなりなり、その代わりにデザイナーに仕事が集中するようになりました。文字や写真を貼り合わせる作業はGUI画面上のマウス操作で可能となり、写植の作業はパソコン上での文字入力とフォント選択に変わるなど、かつて製版職人たちが担っていた作業はDTP時代に入ると全てデザイナーの仕事となった
印刷と出版を変革したPostScript(中編)
昔、スーパーでアルバイトをしていた時、POPを作っていたんですが、あれかって思ったものの、まあ、パワポとかexcelとかで印刷するのも、もはや同じか。
そしてなんだか哀愁という感情とか、栄枯盛衰を考えさせられるもの、それが「写植書体」です。現在では、そのほとんどを見ることがなくなっているそうなんです。私たちが知っている書体の大手メーカー「モリサワ」より、写植時代の「写研」のほうがクオリティが高く、シェアを取っていたのにもか関わらずです。
書体も創作物であって、著作権があるんですね。写植書体の大手だった「写研」という会社が、デジタルに移行せず書体を公開しなかったのだとか。DTPに比べて写植のほうがクオリティが高いという自負があったのかもしれません。WEBで写植とデジタルのことを調べていたら、こんなことを書いている方がいました。
フォントのクオリティが下がりましたね。と、言われたらどうしようかと思ったが、そのようなクレームや指摘は、ほとんど無く、世の中はそんなに微細な違いに敏感ではない。と改めて知ることとなった。
デジタルが全てを破壊したフォントのはなし。
世の中の真実の一つなのかもしれません。僕たち消費者は自分でいうとこだわりがあると思っているのに、総和になると意外なほどに無頓着。
まとめ
絶対フォント感というのはなかなか習得できそうにはないですが、フォントそのものがもたらす効果はもっと学びたいなと思いました。媒体や場面ごとに「違和感のない」使い方ができるので、相手に余計なことを考えず、楽にに情報を送ることができるはず。気になったフォントがあれば、なるべくそのフォントがどのような意図をもって開発されたかの背景も知っておきたい。
本の目次
- 絶対フォント感とは
- article 1絶対フォント感を身につける。[総合編]
- 絶対フォント感のある人生
- フォントのディテール・ウォッチング
- 写植モダン。――現代に息づく写植の文字を味わう
- タイプデザイナ― 鈴木 功に聞くフォント制作の裏側
- article 2絶対フォント感を身につける。[明朝体編]
- 明朝体の歴史の始まり。――誰が作ったのか、どう発展したのか 講師:小宮山博史
- 書体――ことばの姿を追いかけて 書体史研究家 小宮山博史インタビュー
- ひらがなの形でたどる 明朝体の系譜まるわかり! 講師:祖父江 慎
- article 3絶対フォント感を身につける。[ゴシック体編]
- もじ急行 PRESENTS もじ鉄のススメ!
- 「絶対フォント感」を身につけるための参考書
- BOOKLET 絶対フォント感を身につけるためのフォント見本帳