『「バカな」と「なるほど」』の書評とサクッと要約|「バカな」戦略は軽蔑される戦略

「バカな」と「なるほど」 ビジネス
「バカな」と「なるほど」(吉原英樹 著)

『「バカな」と「なるほど」』は、ビジネススクールで複数の講師が推奨されていた本。いまさらながらのタイミングで読んでみました。

不合理の理、とも言うのでしょうか。
「バカな」というような戦略をとる企業がいて、なんだかわからないけどうまく行っていて、理由を説明されると「なるほど」と納得してしまうようなことって結構ありますよね。これって、つまり作り手側やそれに慣れたユーザーが従来の延長線上で物事を考えているから「バカな」と見えるのであって、別の視点から考えれば、実は繋がっていて合理的に説明ができるということ。たまたまかもですが、前回読んだ『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』ともリンクします。

イノベーションのジレンマで語られるところの一つ、既存企業は破壊的な技術に関心が低いので、いつの間にかシェアを取って代わられるというようなこと…に近いけどちょっと違うのかな。同業のなかで「バカな」と軽蔑されるような戦略が「バカな戦略」。

思い当たるところでは何だろう。分かりやすいところでは、コンビニコーヒーとか「俺の○○」とか、いきなりステーキもそうかも?ほかにどんな事例が思い浮かぶでしょうか?

本書で書かれている内容で一番刺さったのは、「長期的な成長には多角化が不可欠」という点。「バカな」と思うのは、競合他社だけではなく、内部もそうで、現状その会社が戦っている産業以外に進出しようとすれば少なからずハレーションが起こる。でもその企業が今後も成長し続けるかどうかは、いまいる市場に左右されるので、成熟したらどこかでは止まってしまうという。なので、「バカな」と思われることを実行しないといけない。

だからって非常識な戦略をやればいいってものではないので、ちゃんと合理性がなきゃ選ばれもしないわけです。難しいところですね。。

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本の概要と要約

「バカな」と「なるほど」の問題提起
「バカな」と「なるほど」の問題提起

著者の課題
成功している企業は非常識と思えることが少なくないが説明を受けると理屈が通っていて納得せざるを得ない。

解決方法
経営の成功のキーファクターとして「バカな」と「なるほど」があるのではないかというのが、私の一応の結論である。

「バカな」と「なるほど」の要約
「バカな」と思うけど「なるほど」と納得してしまう
「バカな」と「なるほど」の要約
「バカな」を実現するためには?

内容
・「バカな」と「なるほど」
 -「バカな」は差別性
 -「なるほど」は合理性

・差別性には2つある
 -他社から尊敬される差別化
  -さすがだ、と言われるから憧れられる
  -模倣される
 -他社から軽蔑される差別化
  -バカな、と思うから冷ややかに見られる
  -模倣されない

・「バカな」戦略の例
 -中堅企業が大企業に先んじて投資する
 -大企業にとっては一事業でしかないから、全資源を投入することはない
 -中堅企業が全力で立ち向かえば、勝てないことはない

・戦略は「べき論」ではなく「予測論」で
 -変化への反対派は今まで通りのほうが自分にメリットがある
 -したがって自分都合で反対する
 -しかし企業の成長はどの産業に身を置くかで決まる
 -多角化は長期成長に不可欠

・進まない変化、どうすべきか
 -戦略の伝え方
  -口頭、文章では共感得られにくい
  -社員はよく見てるので、目に見えて示す
   -誰を投入するか
   -予算はあるか
   -組織はどうか
 -組織慣性
  -10年遅いはありがち
  -サンクコスト
   -危機感を活用する
 -不満がでたり、成果が出なかったり
  -投資先行で赤字
   -カラ元気
   -トップのリーダーシップ
 -必要な人材が変わる
  -30代40代の洗脳は難しい
   -若手登用
    -飲み込み速い
    -技術理解
    -新しい情報
   -採用で選ばれるようイメージ戦略
  -購買の85%は女性
   -作り手側にも女性を
 -計画のグレシャムの法則
  -悪貨は良貨を駆逐する
  -日常業務が優先され革新が後回しに
   -常に変化を推奨
   -変化に慣れさせる

著者: 吉原英樹とは

神戸大学名誉教授。経営学博士。1941年、大阪府生まれ。66年、神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。同大学経済経営研究所助手を経て、84年より同教授。2005年に南山大学に移り、2012年まで同大学院ビジネス研究科教授を務める。

本の解説と感想

「バカな」と「なるほど」とは

「バカな」とは差別性、「なるほど」とは合理性と言い換えることができる

いくつかの企業の事例が紹介されていました。その一つが吉川製油(現在は日本精化と合併)。吉川製油は、当時すでに成熟市場で1社独占市場だったラノリンという羊毛から得た脂肪様物質を精製した原料に狙いを定め、扱う製品の多角化を行ったそうです。

1社独占の市場を狙うのは、スケールメリットや流通などの面で新規参入のハードルは高いように見えますが、独占状態にある企業はその立場にあぐらをかいて、さまざまな面で改良が緩慢に陥りがち。そういった市場であれば、顧客も何らかの新しさを求めていたりするというところに、見事にフィットさせていったのだとか。

また、利晶工業という絶縁材料のメーカーだった中堅企業は、大企業すでに進出しているある特定の分野に、徹底的に資源を集中させることによって、大企業に対抗することができました。日立、松下電機…名前だけでも圧倒的な力量がありそうな気はしますが、大企業は1分野のみに投資をしているわけではないため、中堅企業が将来の成長産業だと確信して、全力で資源を割けば大手ができない設備投資も実現でき、勝ち筋を作ることができたというものです。

このように、セオリーで考えれば無謀に見えることも理由を聞けば納得してしまう、これが「バカな」と「なるほど」の戦略です。

ここで重要な点は、「バカな」と思われる差別性が、競争相手がマネをしたいと思えない差別性だというところです。

差別化のなかには、他社が憧れるような素晴らしいアイデアにがあったりしますが、「バカな」の差別性は「軽蔑」されるものです。尊敬される差別性は他社もやりたいと思うので、すぐに模倣されますが、軽蔑される差別性は他社は目を向けず、ちょっと成功の兆しが見えてもまだ様子見の状態。そうしているうちにすっかり顧客を奪われてしまうのです。

べき論より予測論

経営者は、べき論でなく予測論の立場から時代の流れを読み、経営にあたるべきだと思われる

『 「バカな」と「なるほど」 』p67

「バカな」と「なるほど」の戦略は、既存戦略の延長線上では考えにくい物です。なぜならば、「なぜそんな無謀なことをするのか」と軽蔑されるような戦略だからです。

しかし、経営者は長期的な企業の成長のためには、セオリー通りにやっているだけでは、いつかは成熟してしまい、その成熟した産業も何らかのイノベーションに奪われてしまう可能性があります。「バカな」と思われることの多くは「改革」と呼ばれるものだと思います。

改革には必ず抵抗が発生します。この現象は、「○○はこうあるべき」という思いから派生するものです。その「べき論」は大概の場合、意識しているいないに関わらず、今の自分の立場を守るための自分都合主義です。「べき論」の立場から反対する人は、改革が自分にとって何らか都合がよくないマイナス方向に作用する人たち。

自動車産業で言えば、テスラのような電気自動車、自動運転に反対を唱える人は、従来のガソリン自動車が廃れないほうが自分の利益に資すると考えている人たちです。

しかし、「べき論」の立場から世の中の流れを読むと、対極を見誤る可能性が高いです。アメリカ(特にシリコンバレー)ではテスラがそこら中をすでに走っていて、世界中でエコロジーの思考が強まっていく社会の変化のなかで、電気自動車という選択肢や、テスラの自動アップデートという便益に触れたユーザーが、従来の自動車メーカーに戻るでしょうか。ときすでに遅し、となってしまうかもしれません。

なので、経営者は予測論で意思決定していくことが望まれます。

進まない変化を進ませるには?

他社からどう見られるかは、「言わせておけ」で済みますが、内部の考え方をいかに変化させるかは、非常に困難です。

創業者がいる状態であれば、強烈なトップダウンで力技で変化させることも可能です。しかし雇われ社長である場合はさらに難易度が高まります。

変化を阻害する要因は、いくつもあります。戦略が伝わり切らない、組織慣性が働く、目に見えた成果がなかなか出ない、働き手の考え方が変わらない、など。

戦略を全社に伝える方法は、ほとんどの場合、年初の所信表明や文書だったりします。しかし、単発のそれらだけでは理解と浸透には至らないでしょう。なので、組織のなかに戦略を意識させることが必要になってきます。例えば、新規事業にエース人材を送り込む、予算を十分に与える、組織に余力を作りこれから拡大させるという「見せ」をする。社員はよく見ているので、経営がここに力を入れるぞ、というのをハード面で分かりやすく示すと効果が出ます。

また、組織慣性はソフト面、情緒的な要素によって起こります。何もしなくても安定だ…という考えを持っていれば、人間何もしないほうが楽なので、あえて変化させようとは思いません。しかし、1年後どうなるかわからないぞ…という危機感があると、今までのやり方ではダメだとなり、変化を受け入れるマインドになります。

社長の仕事は、皆が納得する危機感を探し出して、全員にそれを自覚させることだと思いますよ。それも、まだ第三者の目には順調にいっているように見える時に、みんなに危機感をもたせないと、何の効もない

『 「バカな」と「なるほど」 』 p95(日経ビジネス1986年1月6日)松下電器産業山下俊彦前社長

また、戦略が変わるということは求められる人材も変わるということです。ここで問題になるのは、従来の事業でフィットしてきた人が必ずしも新しい戦略に合うものではないということ。30代40代の人たちを、新しいマインドに洗脳することはなかなか難しいです。なので、『ビジョナリーカンパニー2』で語られるように「誰を同じバスに乗せるか」という話になってきます。必要な人材を採用して組織を作り上げる努力が重要になってきます。

多角化を成功させるキーファクター

長期にわたる企業の成長は、その企業がどの産業に身をおくかで基本的に決まる

『 「バカな」と「なるほど」 』 p147

多角化戦略という言葉があります。これはもちろん容易なことではなく失敗する企業が多いでしょう。しかし、著者は企業が長期の成長を遂げるためには、多角化は不可避であると断言しています。もはや多角化の議論のポイントはすべきかどうかではなく多角化するかにあると述べています。

多角化を成功させるための重要な要素は、前項でも述べた点と重なります。組織の中に危機感を醸成させること。既存のリソースが活用できること。既存事業も新規事業もうまくバランスが取れるリーダーシップ。変革を進めていくためには、これらの論点をしっかりと考えておくことが求められます。

まとめ

「バカな」と「なるほど」の話は、これまで経営戦略を学んできた範囲のなかで幾度となく語られる、合理性だけではない非合理の戦略が、分かりやすくまとめられた本でした。これ1988年に刊行されたんですね。イノベーションのジレンマが1997年と考えると、すでにビジネスの世界では、既存と新規のこのせめぎ合いみたいなところは、研究されていたんですね。こうした戦略系の話で毎回思うのは、本当にしっかりと戦略通りに成功した例というのがいくつあるのかというところ。おおよそは本書で言う「なるほど」は後付けの理由であって、なんとか合理性ある状態に持って行こうとしてないか?と感じてしまいます。まだまだ私には見えてない世界がたくさんありそうです…

本の目次

「バカな」と「なるほど」の表紙
  • 第一部常識破りの発想
    • 1 「バカな」と「なるほど」ー成功する戦略のニ大条件ー
      • 1 戦略の差別性
      • 2 戦略の合理性
      • 3 「バカな」戦略の強み
    • 2 答えをみながら答案を書くー創造的戦略の発想法
      • 1 創造的戦略で成功
      • 2 落差利用の戦略発想法
      • 3 外への関心
    • 3 べき論より予測論を…ー経営者の先見力強法
      • 1 べき論と予測論
      • 2 べき論の本質
      • 3 常識的な予測
    • 4 ダブダブの洋服の戦略メッセージー戦略を効果的に伝える方法
      • 1 方針発表と計画作成だけでは不十分
      • 2 事例にみる効果的方法
      • 3 様々な戦略メッセージ
      • 4 戦略メッセージの一貫性
    • 5 マイナス情報に”情け”をかけよう
      • 1 経営者は裸の王様
      • 2 イノベーションの源泉
      • 3 身を隠すマイナス情報
      • 4 心で怒って、顔で笑う
    • 6 組織慣性との戦いー企業変身の最強の敵
      • 1 「10年おそかった」
      • 2 組織慣性を生み出すもの
      • 3 危機感の活用
    • 7 人事スペシャリスト不要論ー野村證券の「非」常識な人事部
      • 1 2年交代の人事部員
      • 2 「バカな」と「なるほど」の人事部
    • 8 カラ元気のリーダーシップ
      • 1 新事業で苦境に直面
      • 2 予期せざる出来事
      • 3 成功するまでがんばる
    • 9 社内事情より社会事情を優先ー野村證券のキープヤングの人事
      • 1 野村證券と三菱重工業
      • 2 キープヤングの三つの理由
      • 3 社内事情優先の伝統的人事
      • 4 困難な人事に挑戦
    • 10 女がわからないで経営できるか
      • 1 購買決定の85%は女性
      • 2 女性活用のメリット
      • 3 役員室に女性誌
    • 11 人づくりは人選びから
      • 1 洗脳はむずかしい
      • 2 会社は学生によって選別されている
      • 3 悪循環を断ち切る
    • 12 計画のグレシャムの法則
      • 1 日常業務が革新を駆逐する
      • 2 タイムプレッシャーをかける
      • 3 継続は悪、変化は善
  • 第ニ部常識破りの戦略
    • 1 多角化を成功させるキーファクター
      • 1 はじめに
      • 2 構造不況企業からハイテク企業へイビデンのケース
        • (1)企業変身の一例
        • (2)プリント配線板に進出
        • (3)プリント配線板の競争戦略
        • (4)企業変身の成功要因
        • (5)企業変身のためのリーダーシップ
        • (6)素材屋的発想からの脱皮
        • (7)地方版の会社から全国版の会社へ
      • 3 技術シナジーの追求
      • 4 ユニークかつロジカルな戦略
      • 5 トップのリーダーシップ
    • 2 非常識な戦略で活路を開く
      • 1 成熟産業の中で成長
      • 2 脱成熟化に成功した企業
      • 3 「バカな」戦略の強み
    • 3 中堅企業海外進出の成功の条件
      • 1 海外進出の障害物
      • 2 ハンデを克服するのは技術力
      • 3 海外でもユニーク経営を実現
      • 4 トップ主導の海外進出
      • 5 リスクに備える
      • 6 世界に通用する製品と技術
    • 4 夢と技術力と余裕
      • 1 海外雄飛の夢
      • 2 優れた技術力
      • 3 大切な「余裕」
      • 4 海外進出で避けるべきこと
    • 5 安全運転は新事業の敵
      • 1 人材の相性
      • 2 セレクトとリクルート
      • 3 上司の役割は汚染防止
      • 4 失敗のマネジメント
      • 5 サービス産業感覚で本業をリニューアル

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