『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ)の書評とサクッと要約|自分自身を見つめる成長の物語

はてしない物語(ミヒャエル・エンデ作) Amazonほしい物リスト2021
はてしない物語(ミヒャエル・エンデ作)

ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。『モモ』を読んだ際に「こっちもおすすめ」という声を頂いたので購入したものの、買ったのが上巻だけでかつ小説ということもあって、ちょっと読んで止まってしまっていました…。映画版は小さい頃にテレビで観た記憶があり、昨年の誕生日のAmazonほしい物リストを公開して下巻を頂き、一気に読みました。

児童文学ということもあり、文字がぎっしり書いてあるわけではなく読み進みやすいこともあったのですが、それでも上下巻あわせて700ページ超。小説は要約とか、まとめるものではないなと実感するところですが、だいたい登場人物をなぞっていくとストーリーの流れは掴めます。

面白いし、『モモ』同様に示唆に富んでますね、『はてしない物語』!
こちらも名言ばかりな気がします。

映画版の『ネバーエンディングストーリー』も見たくなったなー、と調べてみると、映画はエンデの怒りを買ってしまったくらい、エンデの描いた世界観とは異なるようです。

昔、見た記憶があるけど、そんなに違ったのかな~とは思いますが…
というか、あの白い竜の名前がフッフールといって、お前ファルコンじゃないんかい!とツッコミを入れざるを得ませんでした。どっからファルコンて名前きたんですか。

映画版はどこまで語られたのか覚えていないのですが、たぶん前半(上巻)部分だけだったんじゃないかな。映画の『ネバーエンディングストーリー』は2も3も続編としてあるらしい。

小説版のほうはというと、上巻と下巻とでは物語の雰囲気が全然違います。前半の主人公はファンタージエンという世界のなかに住むアトレーユという少年。ファンタージエンを統治する「幼ごころの君」から、虚無に支配されようとしている世界の命運を託されます。無茶ぶりのようですが、幼ごころの君にはすべてがわかっているらしい。

下巻の主人公は、人間のバスチアン。一番最初から登場し、全体を通して主人公なのだけど、前半は『はてしない物語』の読み手、後半は創り手として『はてしない物語』の世界の中に入ります。

上巻は冒険譚といった感じですが、下巻は暗さも併せ持ちます。人間の欲という者にも焦点が当てられ、それを実現させ続けることでバスチアンは一人になってしまうのですが、本当に大事なものを最後に見つけるというもの。以前に読んだ『英雄の旅』という物語と人間の成長を説明した本をなぞるようで、少年の成長物語としてお手本のような展開です。しかも前半で一度旅が終わって後半で再び旅に出るという。

ちなみに、読んでいる間、ずっと映画版の主題歌、リマールが歌うネバーエンディングストーリーが流れていました笑 あの曲って、始まりも終わりもフェードイン、フェードアウトのような感じでずっとループしている感があるんですよ。まさにネバーエンディング。

↓これ。懐かしすぎる。アトレーユ美少年過ぎますね…

映像を見ると、スフィンクスの門のところ、あんな猛ダッシュで走り抜ける感じだっんかい、というかんじですが、きっと小さいころはドキドキしながら見てたんだろうな。

小説は時間がかかるのですが、文字だけで追いながら、ファンタージエンのような世界に没入できる想像力を湧きたててくれる、いい分野ですね。

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サマライズ(本の概要と要約)

『はてしない物語』のあらすじ

前半(上巻)

いじめられっこの少年バスチアン。

ある日も、クラスメートに追いかけられていた。逃げ込んだ先は古本屋。その主人コレアンダーが読んでいた本から目を離したとき、バスチアンはその本にとり憑かれたように欲しいと思ってしまい、お金がなかったので盗んでしまう。

学校の屋根裏部屋で本を開いて読んでみると、そのなかにはファンタージエンという世界が広がっていた。

その世界では「虚無」が侵食し始めていて、ファンタージエン中の国々が不安を抱え、エルフェンバイン塔に住む、ファンタージエンの統治者で女王の「幼ごころの君」の元へ使者を派遣していた。ところが、幼ごころの君は虚無が広がるのと時を同じくして病に臥せってしまい、ファンタージエンのどの医者にも解決ができなかった。

幼ごころの君は、命運を託す勇士にアトレーユを指名し、女王自身のように振舞うことができ、不思議な力を与えるお守り「アウリン」を授け、旅立たせるのであった。

アトレーユは、幸運の竜フッフールとの出会いや、度重なる苦難の末に、ファンタージエンを救う方法が「女王に新しい名前をつけること」「名づけることができるのはファンタージエンの彼方にある外国(とつくに)に住む人間種族である」ことを知る…

後半(下巻)

幼ごころの君に新たな名前を名付けたのはバスチアンだった。

本の世界に飛び込んだバスチアンは、新たな名前を得た幼ごころの君と会う。しかしそこは何もない世界だった。幼ごころの君は、「これが始まり」と告げる。バスチアンは「の欲することをなせ」と記されたお守りアウリンを受け取り、新たなファンタージエンを創造していくのだった。

バスチアンはファンタージエンの世界では特別な存在だった。見た目は人間世界のような姿ではなく未少年に変わり、勇敢な心と仲間を得ていった。アトレーユやフッフールとも出会い友情を深めた。

しかし、人間がアウリンの不思議な力を使う旅に、人間世界での記憶を一つずつ失うという代償があった。次第に人間だった頃の記憶を失っていくバスチアンは、人間世界に戻ろうとすることも忘れ、ファンタージエンの世界で欲求を満たそうと、嫉妬や猜疑心に捉われ横暴になり、孤独になっていく。

バスチアンにとって本当に大事な記憶は何か、バスチアンは果たしてどうやって人間世界に戻ることができるのか…

『はてしない物語』の登場人物

はてしない物語の登場人物(前半)
はてしない物語の登場人物(前半)

バスチアン・バルタザール・ブックス

背が低く、肥満体系、X脚で、見た目がさえない少年。クラスメイトにいじめられている。ある日逃げ込んだ古本屋で、主人であるコレアンダーの持っていた本を盗んでしまう。

学校の屋根裏部屋で盗んだ本『はてしない物語』を時間も忘れて読み進めていく。だれかが自分を探しているような気配を感じながら、やがて自分が本の中の世界であるファンタージエンを救える人物だと知ることになる。

ファンタージエンの世界に入ってからは、人間世界では得ることができなかった容姿、身体能力、勇気などを得ていくが、幼ごころの君に授けられたアウリンで望みを得るたびに人間世界の記憶がなくなり、徐々に人間世界へ戻る気持ちがなくなってしまう。

ついにすべての記憶をなくし孤独になるが、旅の末に、本当に大事なものを見つける。

何かに心をとらえられ、たちまち熱中してしまうのは、謎にみちた不思議なことだが、それは子どももおとなと変わらない。そういう情熱のとりこになってしまった者はそれがどうしてなのか説明できないし、そういう経験をしたことのない者は理解することができない。バスチアン・バルタザール・ブックスにとってそれは本だった

『はてしない物語』上巻p19

コレアンダー

バスチアンがクラスメイトに追いかけられた末に逃げ込んだ古本屋の主人。入ってきた客が子どもだったことにややそっけない風な態度をとる。いじめられているバスチアンに対して、「臆病者だ」など厳しい言葉を投げた。話している途中、掛かってきた電話が長引いているあいだに、バスチアンに本を盗まれる(本人は盗まれたと思っていない)。

物語の終盤、冒険から戻ったバスチアンにまた来て一緒に話そうと告げる。コレアンダーとバスチアンにはある共通項があった。

幼ごころの君

『はてしない物語』のなかに広がるファンタージエンという世界の統治者。少女のような女王。アトレーユにお守りアウリンを授け、ファンタージエンの命運を託す。旅の末にエルフェンバイン塔まで報告にきたアトレーユとの対話を経て、ファンタージエンの外にいる救い主バスチアンをファンタージエンに呼び出すために、さすらいの山の古老のところへ向かい、古老が記録している『はてしない物語』を語らせた。

幼ごころの君は、ただ存在するだけだった。けれども、それが特別のことだった

『はてしない物語』上巻p56

いいえ、もしもかの勇士が、
わたくしたちに加わるなら、
新たな命が芽生えましょう。
今こそかれも、心を決めるでしょう!

『はてしない物語』上巻p321-322

アトレーユ

幼ごころの君から、ファンタージエンの命運を託された少年。その命を伝えるために派遣された黒いケンタウロスの医師カイロンからアウリンを渡され、愛馬アルタクスとともに旅に立つ。様々な出会いと困難を乗り越え、幼ごころの君のもとへ戻る。

ファンタージエンの世界に来たバスチアンに対して、幼ごころの君に名前を授け、世界を救ってくれたお礼に、今度はバスチアンを人間世界に送り届けることを信念に行動する。

人間がアウリンの不思議な力を得ると記憶を失っていくと気が付き、バスチアンからアウリンを奪おうとする。

わたくしはかれを見ました かれもわたくしを見ました

『はてしない物語』上巻p286

太古の媼モーラ

憂いの沼に住むというファンタージエンのあらゆる生き物よりも年を取った生き物。山のように巨大な亀。不思議なしゃべり方をしていて、相手に話していることなのに自分に話しかけているような言い方をする。幼ごころの君が助かるには「新しい名前」が必要だと告げる。みんなが忘れてしまった名前では生きていけないと。

幼ごころの君が助かりなさろうがおかくれになろうが、おんなじことよ。

『はてしない物語』上巻p103

イグラムール

死の山脈の奈落の裂け目に住む、スズメバチのようにブンブン唸りながら飛ぶ無数の昆虫の集まりで、姿かたちを自由に変えることができる。本を読んでいるバスチアンは、イグラムールの恐ろしさに思わず声を上げると、奈落の底に響き渡りイグラムールやアトレーユに聞こえることとなった。

アトレーユは、モーラから聞いたウユララのいる南のお告所へ向かうために、「1時間で死ぬが瞬時にどこへでも行ける毒」を入れられる。

幸いの竜・フッフール

イグラムールと戦っていた白い竜。イグラムールに噛まれて毒をもらっていたため、アトレーユについていく。これ以降アトレーユの乗り馬的存在になる。

「わたしの命は若殿のもの。」竜はいった。「もっとも、お受けくだされば、だが。大いなる探索の旅には乗物がおいり用だと思ったんですよ。いいですか、幸いの竜の背に乗って大空をぴゅっと翔ぶのと、二本の足でよちよち地面をうごめくのとは大ちがい、いい馬に乗って駆けるのとだって、くらべものになりませんからな、いいでしょう?」

『はてしない物語』上巻p134

エンギウッグとウーグル

イグラムールの毒に当てられ体力を消耗したアトレーユを看病した地霊小人の夫婦。ウユララを知っていて、観測所の望遠鏡からウユララの住む場所へと続く門を観察し、ウユララのところへ向かう者や帰還した者たちから情報を収集して研究している。

エンギウッグによると、ウユララのところに行くためには3つの門「大いなる謎の門」「魔法の鏡の門」「鍵なしの門」を通過しなければならないという。

アトレーユが観測所望遠鏡のレンズから覗くと、月明かりの中にじっと座っている堂々としたスフィンクスを見た。大いなる門は2頭のスフィンクスに挟まれていた。

ウユララ

南のお告所に住む「声」だけの存在。質問をするときは韻を踏んで歌にしながらでないと聞いてくれない。アトレーユの「幼ごころの君を救うのは誰か」という問いに対して、「ファンタージエンの彼方の外国(とつくに)の人間種族」と答える。

グモルク

ファンタージエンの外の国に行こうとしたアトレーユが台風坊主の力によって落ちていった町に鎖でつながれていた人狼。

人間世界に行こうとするアトレーユに「虚無の世界に飛び込むとこっちには戻れない」「人間世界に現れたら思えはもうお前じゃない」「お前は夢で描かれたものに過ぎないんじゃないか、はてしない物語の中の登場人物だ」という。

実は人狼はアトレーユと同様に使命を仰せつかってここまでたどり着いていた。それはファンタージエンを崩壊させようとしている者からの使命であり、幼ごころの君が勇士を派遣してもう少しで一人の人間の子どもをファンタージエンに連れてくるところまできたため、アトレーユを始末しようというものであった。

ファンタージエンなんてないと思ってるからこそ、おまえらを訪ねようって気もおこさねえわけよ。何もかも、これ一つにかかってんだな。だってよ、おまえらのほんとうの姿を知らねえから、あいつらいいようにされているんだ

『はてしない物語』上巻p250

さすらいの山の古老

ファンタジーエン中で最大最高の山脈で永久に氷に閉ざされた地帯にある「さすらいの山」に住む者。これから何が起こるかは見えずに空白のページだけが広がる『はてしない物語』という本に古老が書き記すことが全て生じる。

幼ごころの君が物語の最初から語り始めるよう促すと、「『はてしない物語』がそのなかに自身を含めると永遠に終わらなくなる」と主張するも屈して、バスチアンと思われる少年が古本屋に入るところから『はてしない物語』を最初から語り始めた。そうしてこの物語は何度も繰り返されることになる。

この永久に続きそうになった話に入って行けるのはバスチアンだけだった。

「新しい始まりをつくることのできるのは、」古老は書いた。「人の子のみ。」

『はてしない物語』上巻p319

もしも、はてしない物語が、
自身をその中に含むなら、
この本の中の世界は、
亡びてしまうのだ

『はてしない物語』上巻p321-322
はてしない物語の登場人物(後半)
はてしない物語の登場人物(後半)

グラオーグラマーン

夜の森ペレリンの先にある、色の砂漠ゴアプの主で強大なライオン。バスチアンの不屈の強さと勇気を証明するための欲望として現れた。睨み合いの末、先に目を伏せバスチアンを主人と認識した。眠ると石になりその間にペレリンの植物が成長する。目を覚ますと一気に枯れて塵になる。

バスチアンに一振りの剣・シカンダを授ける。

この道をゆくには、この上ない誠実さと最新の注意がなければならないのです。この道のほど決定的に迷ってしまいやすい道はないのですから。

『はてしない物語』下巻p69

3人の騎士

グラーグラマーンと分かれ秘密の扉から出た先で最初に出会った一行のうちのヒンレックと姫を除く3人の騎士(ヒクリオン、ヒスバルト、ヒルドン)。バスチアンがアトレーユと会うことができた銀の都アマルガントを去ろうとする際に、従者となる。以降、バスチアンたちとともに旅路に加わり、エルフェンバイン塔でアトレーユの反乱軍と戦う時までバスチアンに従う。

イハ

バスチアンの売り馬となる年老いたラバ。感性が鋭く、バスチアンが救い主であると公になる前から気づいていた。その後もバスチアンをサポートする。

しかしバスチアンが魔女サイーデに「なぜ年老いたロバに乗るのか、何が自身に相応しいか分かっていない」などとそそのかされ、別れを告げられる。バスチアンはイハに白鳥の羽でできた翼をもつ白馬がイハに恋焦がれているという物語を贈って別れた。

「あたしはだんなさまをずっとお乗せしたいんです」イハは言った。「ほかのごほうびなどいただきたくないんです。それ以上の望みなんて、ありゃしません。」

『はてしない物語』下巻p232

サイーデ

ファンタージエンの中で最も恐ろしい魔女。
バスチアンは、アトレーユとフッフールが自分のことを保護を必要とする少年と見ていたのに腹を立てたため、魔女のサイーデと衝突して力を示そうとする。そのせいで3騎士がサイーデの操る兵士に捕まってしまっため、いよいよサイーデの城に乗り込み、にらみ合いとなる。

するとサイーデは狼狽えた様子で命乞いをして奴隷にしてくれと言う。バスチアンの承認欲求を満たすのに十分だったサイーデの態度を気に入り、バスチアンは仲間に加えるが、サイーデは自らの計画のためにバスチアンを利用しようとしていた。

邪魔なアトレーユとフッフールを遠ざけるために策略を巡らせる。

アトレーユは、わが君さまから、幼ごころの君のおしるしを奪おうとしているのでございます、こっそり盗むか力ずくでか。

『はてしない物語』下巻p239

アーガックス

元帝王の都で、ファンタージエンの帝王だった者たちを監視するサル。バスチアンに、あとせいぜい3つか4つしか望みが残されていないと告げる。

ここの連中は、記憶をすっかりなくしちまった。過去がなくなったものには、未来もない。だからこの連中は年もとらない。

『はてしない物語』下巻p304

アイゥオーラおばさま

「変わる家」に住む。変わる家というのは、その中にいる人を変えるという意味からそう呼ばれている。ほとんどの記憶をなくしたバスチアンのすべてを受け入れ甘やかす。バスチアンに命の水の湧き出る泉を見つければ人間世界へ帰れる道が開けると教える。

「変わる家」とアイゥオーラおばさまと過ごした日々が、バスチアンに「自分を愛することができるようになりたい」という憧れを目覚めさせた。

あなたは、お父さんとお母さんを忘れたのよ。今あなたには、自分の名前しか残っていないわ。

『はてしない物語』下巻p356

ヨル

バスチアンが命の水の湧き出る泉を探す途中で出会った坑夫。人間が見たはずなのに忘れられてしまった夢が、ファンタージエンの地下深くに眠っており、ヨルはこの採掘坑で絵を掘り続けている。

バスチアンのように命の水を探し出せない人間のためにあり、バスチアンは忘れた夢を見つけるために毎日掘り続ける。バスチアンはついに、手に石膏の歯形をもった男の絵を掘り当てた。

「お前はいい坑夫見習いだった。」ヨルがひそやかにいった。「よくやった。」

『はてしない物語』下巻p375

バスチアンの父親

歯科技工士。妻(バスチアンの母親)がなくなって以降、バスチアンとの関係性は寂しいものになっていった。ファンタージエンの世界を旅していたバスチアンが、家に戻らないことを心配していた。

本の解説と感想(レビュー)

ファンタージエンとは

ファンタージエンとは何か、というテーマだけで相当な考察がありそうですが、個人的な感想を。

『はてしない物語』はファンタージエンという世界での出来事ですが、バスチアンが読み始める頃には虚無に襲われて崩壊が近づいています。その言葉の通りファンタジー(=空想世界)で、その空想は人間だけができる能力で、特に子どもがその力を持っている、というのは想像しやすいですね。

ファンタージエンを襲う虚無というのは、「忘却」と近しい意味なのかなと思います。ファンタージエンという想像上の世界が、人間から忘れ去られようとしているために、その世界が崩壊しようとしている。

そしてこの世界を救うことができるのは、ファンタージエンの外の世界の者、人間の子どもであると語られているように、物語に登場するものに名前を付けられるのも物語の登場人物にはできず、人間にしかできないのだとすると、ファンタージエンは子どもの空想の世界なのでしょう。

物語の主人公は、読み手である読者を映す鏡で、途中でアトレーユが魔法の鏡でバスチアンの姿を見たのはそういうことでしょう。

バスチアンの成長物語

バスチアンは自分の容姿や身体能力に強いコンプレックスを持っています。

前半のアトレーユの物語の最後の最後、幼ごころの君に名前を与えるために、ファンタージエンに入り込めば救えるとわかっていても、そうした役目はかっこいい人物を想像しているから、アトレーユも幼ごころの君もがっかりするはずだと思い、なかなかファンタジエンに行こうとしません。

さすらいの山の古老が、『はてしない物語』を最初から読み上げてしまったことで、はてしなく続いてしまった『はてしまい物語』を止めるために半ば強制的にファンタージエンに飛び込みます。

ファンタージエンに着いたバスチアンの姿は、人間世界とは違う美少年の姿をしていました。ファンタージエンの創造主となったバスチアンは自分が欲しいものを得ていくのですが、勇敢さを誇示するためであったり、強さであったり、今までの自分になかったものを得ていきます。

ファンタ―ジエンにきてからのバスチアンは、高慢になっていき、友人を疑ったり、騙されてあやつられたり、失敗を重ねます。本人は失敗だと気が付いていないのですが、徐々に孤独になっていきます。

アトレーユを刺して以降のバスチアンは、一人で彷徨います。元帝王たち都では、自分と同じような境遇だった人たちを客観的にみて恐怖を覚えます。

アイゥオーラおばさまには、かなり甘やかされるのですが、自分のすべてを受け入れてくれる母のようなアイゥオーラおばさまは「まわり道を通ってきたけど、それがあなたの道だった」と自分自身での経験を通した学びが大切だったと諭されます。

ヨルの採掘坑では、自分自身で大切なものを探し、ついにそれを見つけます。そしてアトレーユの手助けもあり、自分を取り戻し、自分自身を愛することができるようになりました。

嘘をつかず、取り繕わずに、自分自身を愛するということが『はてしない物語』を通してバスチアンが得たものであり、結果として人間世界で物語冒頭のような暗さがあり臆病な少年はもうどこにもいなくなっていたのです。

けれどもこれは別の物語

けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすとしよう

『はてしない物語』下巻p411

『はてしない物語』のなかにはさまざまな登場人物が登場します。アトレーユやバスチアンは彼らと出会い、別れるのですが、別れたあとに彼らには別の物語があることが示唆されています。

物語が終わった先に、さらに物語があるという言葉通り「はてしない物語」が紡がれていくような形で結ばれています。象徴的なのは『はてしない物語』の最後で、これまでのすべてを「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすとしよう」で締めくくっています。

さすがに数えてはいないのですが、10回くらいは出てきているのではないでしょうか。

まずアトレーユに幼ごころの君の使命とアウリンを届けただけの黒ケンタウロスのカイロンもそのあとにどこに行ったのか別の物語があるように書かれていたり、ウユララを観察していたエンギウックたちのその後の物語も少しかかれている。

後半はさらに多くなっていて、バスチアンの引き立て役でしかなかった勇士ヒンレックは竜と戦う物語を与えられ、バスチアンに別れを告げられたイハは、その子どもの話がありそうだったり、さらには人物ではなく「ゲマル」という姿を隠すマントのその後すら続きそうな気配。

創造力は、無限に物語を紡ぐということを象徴しているような繰り返しの結びとして使われています。

まとめ

かなりハイペースで読んだので、読み飛ばしも多く、エンデが盛り込んだエッセンスに気づけていない可能性が濃厚です…。でも読んでいて思ったのは、失敗を経験して人は成長するんだよってことだったり、自分自身を偽らずに正直にいきようとかそういうことだと思うんですよね。

この経験を得るというには、読書を通すことでかなり得られるんじゃないかなと思います。特に小説や漫画は、登場人物が失敗ばかりしてます。その失敗が起こる理由も描かれているので、本を読んだ子供たちはそれを自分の経験として知識を得ていくんじゃないかなと思います。

なので、小さいころから物語に親しむというのは、子どもの成長に寄与するものなんでしょうね、きっと。私もたぶんマンガやゲームの登場人物を鏡にして影響受けているんだろうなー。

本の目次

『はてしない物語』の表紙
『はてしない物語』の表紙
  • 上巻
    • A.ファンタージェン国の危機
    • B.アトレーユの使命
    • C.太古の媼モーラ
    • D.群衆者イグラムール
    • E.夫婦隠者
    • F.三つの神秘の門
    • G.静寂の声
    • H.妖怪の国で
    • I.化け物の町
    • J.エルフィンバイン塔へ
    • K.女王幼ごころの君
    • L.さすらいの山の古老
  • 下巻
    • M.夜の森ペレリン
    • N.色の砂漠ゴアブ
    • O.色のある死グラオーグラマーン
    • P.銀の都アマルガント
    • Q.勇士ヒンレックの竜
    • R.アッハライ
    • S.旅の一行
    • T.目のある手
    • U.星僧院
    • V.エルフェンバイン塔の戦い
    • W.元帝王たちの都
    • X.アイゥオーラのおばさま
    • Y.絵の採掘坑
    • Z.生命の水
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