『英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー』の書評とサクッと要約|自分のアーキタイプを知り、どの発達段階にいるかを知る

英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える(キャロル・S・ピアソン) 心理学
英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える(キャロル・S・ピアソン)

ヒーローズ・ジャーニーという枠組みは、よく聞くのだけど中身をあまりよくわかっていなかったので、ちょっとかじっておこうと思って、この『英雄の旅』を購入したのですが、中身が全然違い、苦戦しました…。『insight (インサイト)』のような自己理解の本ですね。

もともと知りたかったフレームワークは、この本のあとがきに、著者が研究のきっかけになったと書いている『千の顔をもつ英雄(ジョーゼフ・キャンベル著)』という本で説明されたものだったようです。『桃太郎』や『ロード・オブ・ザ・リング』という文化や時代が違うにもかかわらず、物語の流れに共通項がある、というと想像しやすいかもしれません。それがキャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー理論」と呼ばれているものです。詳しい説明はこちらが詳しいです(小説を書くときに知っておきたい「ヒーローズジャーニー理論」とは※幻冬舎ルネッサンス新社)。

この本『英雄の旅』では、ヒーローズ・ジャーニー理論を、より一層に人間の心理面の発達段階について説明されています。

まず、英雄の旅を 「準備」「旅」「帰還」という三段階に分解 し、それぞれの段階で中心となるアーキタイプ(原型)が示されます。読者は最初に、英雄の物語に登場する12種類のアーキタイプのなかで、どのタイプに当てはまっているかをテストしたうえで、読み進めます。次の段階に進むヒントや、そのタイプの中でより高次にレベルアップするとはどういうことか、また「影」と表現されるアーキタイプごとの危うさも説明されていています。

自分がどのような段階にいるかを理解することにより、より自分にとっても、世界にとっても役に立つ機会が得られるだろう、という内容です。

テストは本の巻末に「英雄神話指標」というものを計測する簡単な質問があり、それに答えることで得点を計算します。

たぶん、自分の人生のにおいて、その時に置かれた状況によって結果が違うので、何か障害にぶつかったときにやってみて、逆引きでアーキタイプを読んだらよいのかなと思いました。

ちなみに、私は「道化」が最も数字が高くなりました…

道化は、英雄の旅から帰還したのちに、王国に新たな秩序が敷かれるなか、宮廷内をにぎやかしたり、トリックスターとして新たな当たり前が陳腐化する局面で、風穴を開ける存在だそうです。しかしともすれば自分の快楽だけに寄ってしまい、行き過ぎた自由をさらしてしまうとか…

Bitly

本の概要と要約

英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の問題提起
英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の問題提起

著者の課題
今の世の中には荒れ果てた王国の兆候がいくつも現れている。それぞれが自分の使命を悟り、授かったギフトを発揮する必要がある。

解決方法
旅に出た先で見つけたピースを王国に持ち帰り変革に役立てる機会を手に入れる。

英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の要約
英雄の旅は3つの段階に分かれる
英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の要約
英雄の旅を案内する12のアーキタイプ

内容

・英雄の旅とは
 ー真の自己という宝を見つけて帰還し、世の中のためにまた自分のために役立てる旅

・英雄の旅の三つの段階
①準備
助け合いや思いやりを学ぶ
自我(エゴ)をつくる段階
②旅
自己の探索、苦しみと成長
魂をつくる段階
通過儀礼を通して本物になる
③帰還
自分が統治するようになる
自己を表現する段階
④新たな旅へ
ハッピーエンドは長続きしない
再生と新生を繰り返す

・アーキタイプ
1.幼子
 楽観的。無垢な存在、安全でいたい。
 脅威となる影は、実際に起こっていることを自分自身に悟らせまいとする他人の物の見方が反対でも信じてしまうことがある。
2.孤児
 現実主義。裏切りなどで活性化自分だけでは身動きが取れない。
 脅威となる影は、特別扱いや免責を期待する手を差し伸べてくれる相手にまで攻撃する。
3 .戦士
 勇気と自制心。目標に向かって挑む。
 脅威となる影は、戦士としての手腕を私利私欲の為に利用してしまう。
4 .援助者
 憐れみ、寛容さ。他人を気遣い自分も大切にする。
 脅威となる影は、相手に罪悪感を抱くようしむけ人を操ってしまう。
5 .探求者
 自立や野望。より良い世界への憧れている。
 脅威となる影は、完璧主義者で到達不能な目標を達成しようと奮闘する。
6 .破壊者
 謙虚さ。死と遭遇したりして変容の力を蓄える。
 脅威となる影は、自己破壊的な行為や、他人への破壊的影響の行為すべてに内在している。
7 .求愛者
 献身。愛によって一体感を目指す。
 脅威となる影は、 妖婦や誘惑者、人間関係依存症に内在している。
8 .創造者
 個性や使命。変容を促す自分の力と接し、運命は自分のビジョンを育まねばという義務感。
 脅威となる影は、取り憑かれたように様々な可能性に手を出してしまうこと。
9 .統治者
 自分の人生に責任を持つ。帰還し自分が当事者になる。
 脅威となる影は、自分のやり方に固執し支配権を手放さないこと。
10 .魔術師
 自分だけの力。意識を変えて現実を変容させる。当事者にとっての助言者。
 脅威となる影は、その人から未来の輝きを奪ってしまうネガティブな思考や行動で不快にさせる。
11 .賢者
 英知。コントロールしたいと思わない。ただ真実を見つけたい。
 脅威となる影は、感情のない裁判官として私たちを評価すること。
12 .道化
 喜びや自由。宮廷でもてなす。トリックスターとして自我に風穴を開ける。
 脅威となる影は、 欲望や肉体的衝動のままに行動すること。

・自分の人生がアーキタイプとどう結びついているかを理解することで、日々の体験に品格と意義がもたらされる

本の解説と感想

本の使い方

この本は、いま自分のなかで一番活性化しているアーキタイプを特定して、逆引き的に読むのが一番よいかと思います。

まず「はじめに」をよく読み全体像を把握したうえで、本の後半にある「HMI(英雄神話指標)」を計測するアンケートをやる流れです。そこで導き出されるものは、いまの人生の中で活発なアーキタイプ(原型)の特定です。よくある適性診断のような感覚で答えていけばよいです。複数の使い方があるので、質問番号と回答の数字(5段階)は、excelなどで管理すると、よいでしょう。

アンケート回答して計算すれば、自分のなかで活性化しているアーキタイプが分かるので、2部~4部で説明される個々のアーキタイプについての解説を読めば、ほぼこの本の使い道としては完遂しているかと思います。

第1部は、英雄の旅の全貌が書かれているので基礎知識的に入れて置き、第5部はこの英雄の物語を用いた自己理解の発展として読むとよいかと思います。5部のなかでも21章「人生の神話」のエクササイズは、新たな発見があるかもしれません。

英雄の旅とは

王国の変革が成功するかどうかは私たち次第だ。それを理解していれば、競争意識を捨てて、自分や他人に力を与えることに専念できるようになる。

『英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー』p21-22

古今東西、英雄譚の多くに見られる構成は、王国に危機が訪れていて、それを復活させるために元凶となっているドラゴンを倒し、囚われの乙女や財宝を持ち帰って平和が訪れる…というようなものになっています。

この構成はおよそ人生に似ていて、誰しもが挫折を経て旅に出ることを余儀なくされ、旅先で協力者や武器を手に入れ、さらなる困難に苛まれながらも問題を解決して、自分や社会のために恩恵を持ち帰るというプロセスを経ています。

年齢に伴う成長かもしれませんし、もっと小さい単位で螺旋のように繰り返すものでもあります。例えば高校球児で、高校1年生のときと3年生の時では、同じようなことを繰り返すにもかかわらず、自分の役割や精神レベルが変わっているというような感じで。英雄の旅が一度終われば、そのままではなく、ハッピーエンドは永遠には続かないので、新しい旅に駆り立てられるものです。繰り返し旅に出て、新たな力を持って王国に帰還するのが英雄です。

英雄の旅に出ないままだと、腐敗しきった王国に何ももたらすことがないままです。この状態では、自分自身だけではなく国民全体が損害を被ることになることを自覚することが大切になってきます。

現代社会では私たちは軽視され人的資源とみなされて、経済という歯車になるために教育されることが多い状態になっています。自分が何者なのか、何をもたらすことができるのかという問いへの答えを自分で発見するために、英雄の旅に出る必要があるのです。

英雄の旅の三段階

英雄の旅は、「準備」「旅」「帰還」の三つのステージに分けられています。この旅の途中では、内なる案内人(アーキタイプと呼ばれる存在)の力を借りることで旅が進んでいくことになります。

三つの段階は、それぞれ精神の発達段階、「自我」「魂」「自己」に当てはまります。

1.準備

準備の段階では、自分の能力勇気思いやり理想への忠誠心を証明するよう求められます。この段階にいるアーキタイプは「幼子」「孤児」「戦士」「援助者」です。

私たちは無垢な存在(幼子)として生を受け、裏切りなどの転落を経験すると孤児となりに捨てられます。孤児は一人では身動きが取れないので、仲間と団結して助け合うのが最善の策だと気が付きます。仲間や自身のなかに戦士が登場すると、目標設定とそれを達成するための戦略を学ぶことになります。目標達成には、自制心と勇気が必要になりそれらを発揮するよう求められるようになります。この過程のなかで、うちなる援助者が活性化してくると、他人のことを気遣うようになり、最終的には自分も大切にするようになります。

ここまでで、楽観主義、助け合い、勇気、思いやりなどが揃い、社会で生きていく基本的スキルに不足はなくなります。

2.旅

手が届かないものに憧れると探求者となって、言葉にならない何かを探し求めるようになります。旅の第一歩を踏み出すと、やがて大切にしていたものをなくしたり、苦しみを体験します。破壊者が奪ってしまうのです。これは通過儀礼であり、さらに進むと別の通過儀礼を経験します。求愛者による愛情をを通して破壊への補完がなされます。死に代表される破壊と、愛に代表される求愛を経ることによって、真の自己が創造者によってもたらされます。

生き抜く力、自分を解き放つ力、愛する力、創造する力が、英雄の旅の準備段階で育まれた自我に魂を吹き込み、新しい自己を誕生させる準備が整います。

3.帰還

真の自己というギフトを王国に持ち帰ると、私たちが王国の統治者になっていることに気が付きます。私たちが変わったというだけで、王国も変革されていきます。しかし、同時に再生と新生を繰り返していくことも求められます。手に入れた真実は流れゆく社会に普遍的に合うものではないため、しがみつけば、また暴君となって王国に損害をもたらしてしまいます。

王国では、王国の変容の道を手助けする魔術師が助言を与えてくれます。また、統治者は自分の主観性と向き合わなくてはならないので、客観的に何が正しいのかを考えている賢者が手助けしてくれます。幻想や欲望を手放すことができれば、自由を味わえ、道化の奔放さを受け入れることができるようになります。

英雄の旅は三つの段階を移行していくものの、帰還して終わりではなく、螺旋のような線を描くように、再び幼子のアーキタイプに象徴される第一段階へ戻り、前回よりも高いレベルで新たな旅が始まります。

まとめ

この本が示唆するところは、人生は英雄の旅を螺旋のように繰り返し、帰還するたびに、より高次な精神に至っているはず。自分のなかではいま、どのアーキタイプが活性していて、何を目指し、何に気を付けなければならないかを知っておくことで、自分自身や社会に何をもたらす存在なのかを知ることで、生きる動機づけをしてくれるという感じでしょうか。

おそらく自分も今は道化だけど、また1年後とかには全く違う旅に出ているのかもしれません。そのときの英雄伝説で、気を付けておくべきことを発見するためにも定期的なHMIテストをやっておくとよいのかもしれません。

本の目次

『英雄の旅(ヒーローズジャーニー)』の表紙
『英雄の旅(ヒーローズジャーニー)』の表紙
  • 監訳者まえがき
  • はじめに
  • 第一部 自我、魂、自己のダンス
    • 第1章 旅における三つの段階
    • 第2章 自我ーー内なる子供を守る
    • 第3章 魂ーー神秘を体験する
    • 第4章 自己ーー自分という人間を表現する
    • 第5章英雄的精神を超えて
  • 第二部 旅立ちのとき
    • 第6章 幼子 the innocent
    • 第7章 孤児 the orphan
    • 第8章 戦士 the warrior
    • 第9章 援助者 the caregiver
  • 第三部 旅ーー本物の存在になるために
    • 第10章 探求者 the seeker
    • 第11章 破壊者 the destroyer
    • 第12章 求愛者 the lover
    • 第13章 創造者 the creator
  • 第四部 帰還ーー自由を手にするために
    • 第14章 統治者 the ruler
    • 第15章 魔術師 the magician
    • 第16章 賢者 the sage
    • 第17章 道化 the fool
  • 第五部 多様性をたたえる力
    • 第18章 二元性から全体性へ
    • 第19章 ジェンダーと人の成長
    • 第20章 ジェンダーと多様性と文化の変容
    • 第21章 人生の神話
  • 謝辞
  • HMI(英雄神話指標)
  • 原注
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