『人生を変える「ドラえもんセレクション」」おとなになるのび太たちへ』の書評とサクッと要約

おとなになるのび太たちへ Amazonほしい物リスト2020
ドラえもんセレクション「おとなになるのび太たちへ」(藤子・F・不二雄)

昨年、Amazon欲しいものリストで頂いた本のレビューも今回が最後、38冊目。

おとなになるのび太たちへ』は、漫画『ドラえもん』のなかから、著名人がセレクションして構成されたもの。ドラえもんの1話1話をテーマにして、それぞれの道で自分がやりたいことをやっている著名人が、「これから大人になるのび太たち」に向けて、メッセージを送っている。

すでに私は大人になってしまっているのですが、十分面白いです。Amazonでもレビュー数が結構ついてるは、そういうことなのでしょう。でも実際のメッセージとしては、成人していない人たちに向けての書き方が強いですかね。これを手に取る小学生、中学生、高校生がどのくらいいるのかなー。

メッセージを寄せている10人は、職業も個性も多様です。知らなかった方も多かったのですが、その職業、その人が歩んできた道、選んだ作品とどう向き合ったのか、そしてどう感じとったのかは、大変興味深いものでした。伝説のプロゲーマー梅原大吾さん、チームラボ代表の猪子寿之さん、俳優の菅田将暉さんなど、それぞれが子どものころだったり、どんな思いで今の職業についているのかという価値観に触れることができます。

みなさん、トップランナーなわけですが、途中離れて戻ってきた人も多い。先日読んだ『ずっとやりたいことを、やりなさい』で、周りからの親切な助言であったり、空気によって違う道を選んでしまうこともままある。eスポーツプレイヤーの梅原さんは、ストリートファイターで世界一になったのは高校生の頃。当時ニュースを見た記憶がうっすらあります。その後、介護職に転職するなどやりたいことをそのままやっているわけではなかった。そんな梅原さんは、『ドラえもん』の1話、のび太が得意な「あやとり」が大人気になる世界に自分の職業を照らしています。

ストーリーを通して自分を語れるという、『ドラえもん』の奥深さが見えますね。『ドラえもん』を読んでもらって、どれが一番自分にとって発見があったか、なんていうワークショップもあっていいのかもしれません。巻数がかなり多いですが…

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本の概要と要約

『おとなになるのび太たちへ』の内容
藤子・F・不二雄も、みんなものび太だった

内容

子どものころ、僕は”のび太”でした

『おとなになるのび太たちへ』p2(藤子・F・不二夫)

『ドラえもん』の作者、藤子・F・不二雄さんは、そう語ったそうですが、この「大人になるのび太たちへ」、というタイトルから推測するに、読み手のなかにものび太がいるということを指しています。

大人になって、子どもたちにとってあこがれの職業についている10人の大人たちが、『ドラえもん』を通して伝えたいことを伝えています。

本の解説と感想

アスレチックハウス(猪子寿之さん)

家の中をアスレチックにしたように、街の中にアスレチックを作りたかった

『おとなになるのび太たちへ』 p8

アスレチックハウスというアイテムを使うと、野比家の室内が、まるでアスレチック施設のように歩くのも大変なって…というエピソード。

のび太がぐうたらしてたので、ぐうたらできないようにようという意図で、ドラえもんが使うのですが、そうしてる間にのび太は外に遊びに行ってしまい、ドラえもん自身と、のび太のママとご友人が大変な目に。

老化がルームランナーみたいになっていたり、座布団がトランポリンになっていたり、階段が手をかけないと登れない高さになっていたり。

このエピソードを選んだ猪子さんは、アート集団・チームラボの代表を務める方。チームラボはここ数年、観る人が作品と一体となるような体験型のアート施設を展開しています。

全身を使う「アスレチックハウス」は、体を動かし、物に触れ、とにかく大変。猪子さんの目指す、「体を通して世界とつながる」という感覚が得られる世界だったようです。

あやとり世界(梅原大吾さん)

『おとなになるのび太たちへ』あやとり世界
あやとり世界×梅原大吾さん

何に価値があって何にないかなんて、それぞれの中にきちんとした基準なんかない

『おとなになるのび太たちへ』 p21

もしもボックスを使い、のび太が得意な「あやとり」が、世界中で大人気になる世界になります。現実の世界では、「くだらない」と言われたりしたものが、その世界では大会がTV中継されたり、賞金があったりする。

梅原さんが高校生の頃、ゲームは「遊び」でした。きっとその道をやり続けても稼げない、生活していけないという、どうしようもない障害があったと思います。そのころと比べ、今は「eスポーツ」と呼ばれ、世界的に注目されるカテゴリになってます。まさかゲームが強いことでスポンサーがついたりすることがあるなんて、僕も全く想像していませんでした。何に価値があって、価値がないのかなんて、その瞬間の誰かの枠組みでしかないんですね。

さようなら、ドラえもん(梶裕貴さん)

誰かを想い、何をすべきかを考え、想像することで、人は成長していく

『おとなになるのび太たちへ』 p45

「さようなら、ドラえもん」は、『ドラえもん』のなかでも有名なエピソード。ドラえもんが未来に帰らなければならなくなったのですが、のび太は、自分がドラえもんに頼りっぱなしの人間で、まるで成長できていなかったら、「ドラえもんが安心して帰れない」と、ジャイアントのケンカで粘り勝ちするなど、ドラえもんのために行動します。

梶裕貴さんは、いまをときめく人気声優。彼が選んだのがこのエピソードでした。梶さんも、声優という仕事にすんなりと就けたわけではなく、声優一本で生活ができるまでは、アルバイトで生きる毎日だったのだとか。

梶さんはこうした経験を悲観するのではなく、こうした経験を積むことによって、様々な人の気持ちを想像できるようになる、自分の将来の力になることを信じて、夢をあきらめずに進んだそうです。

いつも、自分勝手なのび太ではなく、ドラえもんの気持ちを考えることができたのび太の成長エピソードでした。

オモイコミン(亀山達矢さん)

大切なのは思い込みだけでなく行動に移すこと

『おとなになるのび太たちへ』 p62

「オモイコミン」は、思い込みが自分の世界では具現化する薬です。「どうせやっても無駄」「怒られるからやらないほうがマシ」というのび太の根性に怒ったドラえもんがこの薬を飲ませると、野球ではホームラン、宿題もあっというまに解けるように。

このエピソードを選んだのは、tupera tuperaという絵本作家コンビの一人、亀山達矢さん。亀山さん自身の経験とその文章、とても面白いです。

亀山さんは小学校のころ、児童書に出てくる「クジラの卵焼き」をテーマに絵を描いたものが、バケツをひっくり返してびしょびしょになってしまって提出したものが、なんとコンクールで入選してしまったのだとか。それ以降、両親が自分の絵を褒めてくれたりするのがうれしく、油絵がだんだん好きになっていたそうです。途中、絵を止めてしまったりするのですが、「心の底から思い込み、自信を持つことで思っている以上の力を発揮するのではないか」と語っています。

サンタメール(菅田将暉さん)

「夢がない世の中」だからこそ「夢のある世界」を作っていかなきゃいけない

『おとなになるのび太たちへ』 p77

「夢のない世の中になったなあ」というのは、のび太。クリスマスプレゼントはサンタからもらうものという慣習がありますが、最近は親がもう何も隠さずにプレゼントを買うなんてことも増えてきたんですかね。(私の家庭もそんな感じでした)

「サンタメール」は、欲しいプレゼントを書いてポストに入れると、サンタが持ってきてくれるというもの。のび太はみんなに夢を見て欲しいという思いから、みんなにサンタメールを配ります。実は切手がないと有効にならないので失敗するのですが、のび太は方々から壊れたおもちゃなどを探してきて、タイム風呂敷でもとに戻す涙ぐましい努力をします。

晴れて皆のもとにプレゼントが届くものの、ジャイアンやしずかちゃんたちは、それをサンタが届けてくれたものと最後まで認めず、「 夢のない世の中になったなあ 」とのび太が悲嘆にくれるというオチ。

菅田将暉さんは、夢を魅せるのが俳優の仕事と考えているそうです。それは、マネージャーと「菅田将暉を作ってきました」という言葉にも表れている。ひとつの原体験として、仮面ライダーWで演じた菅田将暉という俳優に会いたいという、難病の子との出会いがあったそうです。受けとった人が夢見られるように、自分がまず夢見なきゃいけないと。

この結末にはショックを受けたそうです。夢を魅せなきゃいけない『ドラえもん』で、これだけ努力をしたのに、ハッピーエンドにならないなんてと。

なかまいりせんこう(田村優さん)

同じ目標があれば人と仲良くなれる

『おとなになるのび太たちへ』 p105

「なかまいりせんこう」の煙がまかれると、その人たちの輪のなかで、すっかり仲良くなれるというもの。

選定した、ラグビー日本代表の田村優さんがこのエピソードを選んだのは「仲間」について伝えるためです。

田村さんは、ラグビーが人生の中心。だからこそトレーニングもきつくないし、ストイックでもなんでもないと語る。好きなこと、やりたいことをやっていれば、突き進む中で同じ志を持つ仲間と出会え、それがいまでも自分を形成しているようです。

ぼくよりダメなやつがきた(辻村深月さん)

『おとなになるのび太たちへ』ぼくよりダメなやつがきた
ぼくよりダメなやつがきた×辻村深月さん

優越感や劣等感を超えて友情は芽生える

『おとなになるのび太たちへ』 p111

このエピソードは、なかなか味わい深いです。

のび太よりも、勉強も運動もできない多目くんというキャラが転校してきます。のび太は自分よりもできない子がいることに喜びを隠せず、わかりやすいマウントを取ります。

多目くんがのび太と違うのは、本当は勉強もできるようになりたいなど、とても前向きなことです。その態度に怒ったのび太は、ジャイアンからの野球の誘いに多目くんを代わりに行かせます。

ドラえもんはそんなのび太にあきれて、「配役いれかえビデオ」というアイテムで、過去のび太と多目くんの行動を録画しておいたものを、のび太が多目くんにマウントをとっている映像を、スネ夫に入れ替えて見せます。それを見たのび太は恥ずかしくなり、多目くんを助けに戻るという話です。

のび太のクズっぷりが目立つエピソードですが、優越感は人間を安心させること心理的な要素があることは否定できません。

小説家の辻村深月さんは、高校にあがると、それまで成績が上のほうだったのが真ん中くらいになり、劣等感に苛まれます。その高校生活では、学校で飛びぬけて成績がいい子と仲良くなるものの、その子はまるで優越感を感じている素振りを見せなかったのだとか。じつは彼女は、辻村さんが高校の時にすでに夢をあって、将来のやりたいことを決めていることにショックを受け、「すごい人がいる」と思っていたそうです。

世の中には、たくさんの価値があって、そこでのできるがたくさんあると、辻村さんは伝えています。

だいこんダンスパーティー(なかしましほさん)

魔法のような実験が新しいわくわくをつくる

『おとなになるのび太たちへ』 p139

このエピソードはなんともサイエンスチックです。

「新種植物製造機」というアイテムを使うと、例えばスイートピーの花の遺伝子情報に手を加える(設計図を書き換える)ことで、新種の蝶々を作れるというもの。

このエピソードを選定したのは、料理家のなかしましほさん。もともとこのエピソードが大好きだったそうです。料理とサイエンスってどことなく繋がりますね。いまなかしまさんがやっているお菓子作りは、まさに実験。「これを入れることでこんな味になるのか!」というワクワクがそこにはあります。

なかしまさんは、子どものころからお菓子づくりが好きだったそうですが、大人になると別の道へ進みます。しかしそこで出会った料理の本の編集の手伝いを通して、自分が本当にやりたかったことを再発見されたそうです。

もしお菓子作りを仕事にするなら、こういう人が向いてる、こういう責任が出る、というやや実践的なアドバイスもありました。

思いだせ!あの日の感動(はなおさん)

楽しく生きるコツは子どものままでいること

『おとなになるのび太たちへ』 p155

特別だったことも、日常になると感動がなくなっていく。そんな経験を多くの方がされていると思います。

「ハジメテン」というアイテムは、なんでも初めて経験したかのように感動を得ることができるというものです。のび太は、しずかちゃんに初めて会ったときのドキっとする感情、ご飯を食べるときの美味しさにも感動し、思わず声にだして喜びます。それをみたしずかちゃんは、「のび太さんが羨ましい。小さな子供みたいに何にでも興味をもって夢中になれる」と言います。

家ではパパとママがケンカをしているが、ハジメテンを使えば、新婚というか初めて出会ったときのように向き合いなおします。そこでのび太は、本当の初めてを見に行くため、タイムマシンでのび太が小学校に初めて行くときに戻ります。そこでは、のび太が学校に行くのを楽しみにしていてはしゃいでいる様子や、パパとママも楽しみにしている光景があったのです。

今、子どもがなりたい職業で上位にくる職業といったら、Youtuberが上がってきます。このエピソードを選定したのはYoutuberはなおさん。非常に自己分析ができているかたなのかなという印象を受けました。

大人になると新しい発見も、友達との喧嘩もありません。なぜなら子どものみんなと違って、僕たちは今日あったことのほとんどが、昨日あったことと同じになってしまうからです

『おとなになるのび太たちへ』 p169

初期のYoutuberは、非日常のチャレンジを多くやって人気を博しましたが、だんだんとネタがなくなったり、本人が楽しめなくなったりと、更新が途絶える方も多いという側面があります。Youtuberは何よりも自分が一番、笑っていなければならないという特性が必要になってきます。ハジメテンのような感動を常に届けてくれるYoutuberの方々は、なかなか過酷な仕事でもありますね。

野比家が無重力(向井千秋さん)

当たり前は常に当たり前ではない

『おとなになるのび太たちへ』 p175

「重力調節機」というアイテムによって、野比家が無重力状態になるという話。

このエピソードを選定したのは、宇宙飛行士で意思の向井千秋さんです。宇宙に行けば無重力を経験するのですが、無重力は「普段いかに自分を中心に考えているか、当たり前のことは常に当たり前ではないことを教えてくれました」と語っています。

このエピソードでは、のび太はしずかちゃん家に呼ぶのですが、のび太がはしゃぐ一方で、しずかちゃんは終始「帰りたい」モード。自分の当たり前が、相手にもそのままつうじることはないということを教えてくれます。

ちなみに、向井さんは宇宙飛行士になるなら…ということでこんなことを語ってます。

「医者になりたい」と思う人は、みんなが遊んでいる時にも勉強しなきゃいけないんだって、覚悟しておいてください

『おとなになるのび太たちへ』 p189

『宇宙兄弟』の六太たちもそれだけ努力を…?

りっぱなパパになるぞ!

このエピソードは、大人になったのび太が描かれています。酔っぱらって帰ってきたパパを見て、自分はこんな父親にはなってないはずと、いきまいて25年後に向かいます。

しかしそこで目にしたのは、酔っぱらって帰ってくる自分。未来の自分の子どもが書いた日記にケチおやじを書かれる自分。

「もっと立派になるはずだったのに、全然守ってないじゃないか」とのび太。

「やる気はなくしてない」と言う、未来ののび太。

立派なパパへの道は遠い…

本の目次

  • 「アスレチック・ハウス」(19巻)猪子寿之 アート集団チームラボ代表
  • 「あやとり世界」(15巻)梅原大吾 eスポーツプレイヤー
  • 「さようなら、ドラえもん」(6巻)梶裕貴 声優
  • 「オモイコミン」(22巻)亀山達矢 ツペラツペラ絵本作家
  • 「サンタメール」(21巻)菅田将暉 俳優
  • 「なかまいりせんこう」(25巻)田村優 プロラグビー選手 25巻
  • 「ぼくよりダメなやつがきた」(23巻)辻村深月 小説家 23巻
  • 「だいこんダンスパーティー」(21巻)なかしましほ お菓子研究家foodmood店主 21巻
  • 「思いだせ!あの日の感動」(29巻)はなお はなおでんがん動画クリエイター 29巻
  • 「野比家が無重力」(32巻)向井千秋 宇宙飛行士・医師
  • 「りっぱなパパになるぞ!」 (16巻)
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