『チーズはどこへ消えた?(Who Moved My Cheese)』は、物語を通して生きていくうえでのいくつもの教訓を考えることのできる本で、たくさんの人に読んでもらいたい、おすすめの一冊です。
何がいいかというと、まずシンプルで短く、30分くらいですぐ読める。それでいて、自己啓発本でありがちな「専門的すぎて難解」あるいは「具体的すぎて自分には使えない」ようなものではなく、「チーズを探す」という抽象的な形で、読者に考える余白を用意しているので、解釈が人それぞれになるというがいいところかなと思います。
例えば、登場人物を自分や知人に当てはめて考えたりしながら、自分の今を見つめてみたり、過去を振り返ったりして、自分事にすることができる。
物語のなかで中心になるのが「チーズ」なのですが、これは「私たちが求めているもの」を表しています。物語のあらすじを簡単に書くと、ネズミと小人が苦労して「求めていたチーズ」を手に入れたんだけど、ある日なくなってしまった…というところから始まり、やがて迷路を彷徨いながら「新しいチーズ」を見つけるというストーリーです。
最初に見つけたチーズは、はたして突然がなくなってしまったのか、消えるべくして消えたのか。
なくなったチーズを探すのをあきらめ、迷路に進み出たホーという小人を通して、人生の教訓を学ばされます。そしてもう一人の小人ヘムは、古いチーズに頑なにこだわり続け、一歩を踏み出さず、新しいチーズを見つけることを考えすらしません。彼がチーズを見つけるためには、自分で迷路に歩みださなければならないと、ホーは悟っています。
チーズがなくなったらすぐさま行動に移ったネズミ2匹、恐れながらも迷路を進みだしたホー、同じ場所にとどまったヘム。それぞれに感じ入るところがあり、読書会が盛り上がりそうな本ですね。
ちなみに私は、今チーズが目の前にあるのかどうかすら分かってない気がする…笑
本の概要と要約
概要と登場人物
・ある迷路で起こった出来事をめぐる「ねずみ」と「小人」の物語
ー迷路を探して苦労して見つけたチーズが消えた!
・登場する人物、もの
ー2匹のねずみ:単純な思考
ースニッフ:名前の意味は「素早く動く」
ースカリー:名前の意味は「嗅ぎつける」
ー2人の小人:頭で考える
ーヘム:名前の意味は「閉鎖的」
ーホー:名前の意味は「口ごもる」(→やがて行動する)
ーチーズが意味するもの
ー私たちが求めているもの
ー仕事、家族、恋人、お金…など
あらすじ
内容
ー迷路を探し、ネズミと小人は求めていたチーズを見つけた
ー場所はチーズステーションC
ーねずみと小人は、毎日そこへ通って食べた
ーネズミはやがてなくなると覚悟していた
ー小人はいつまでも自分たちのものだと安心していた
ーある日、チーズがなくなった
ーネズミはすぐに迷路に新しいチーズを探しに行った
ー小人はどこかにあるはずだ、と同じ場所にとどまった
ーネズミはステーションNで新しいチーズを見つけた
ー小人はどうすればいいか決められなかった
ーヘムはその場にとどまり続けた
ー迷路に出ることの恐怖
ーまたチーズが戻ってくると信じてる
ーホーは迷路に進みだした
ーホーは迷路に進むのが恐怖だったが、一歩踏み出すと恐怖から解放された
ー恐怖がなかったら何をするだろう?と問いかけた
ー新しいチーズと自分を想像するだけで幸せになった
ー新しい方向に進めば新しチーズが見つかると確信した
ー振り返ると前のチーズは少なくなっていたし、腐り始めていたかも
ー古いチーズに早く見切りをつければそれだけ早く新しいチーズが見つかると思った
ー変化が起きるのは自然なことだ
ー最大の障害は自分自身
ー自分が変わらなければ好転しない
ー新しいチーズを探しながら、少しのチーズを手に入れることができた
ーヘムのところにも持って帰ったがヘムは相変わらず動かない
ーやがてチーズステーションNにたどり着いた
ー見たこともないチーズ、たくさんのチーズがあった
ースニッフとスカリーもいた
ーホーはこの新しいチーズもやがて変化するものと受け入れた
ーヘムは自分自身で変化を受け入れなければならない
ーはたしてヘムはここにくるだろうか
『チーズはどこへ消えた?』とは
累計発行部数は日本で400万部を超え、全世界では2800万部も発行されている、今だに読まれ続けている世界的ベストセラーだそうです。
日本語訳では「チーズはどこへ消えた?」ですが、英語原題は”Who Moved My Cheese?”です。物語のあらすじはチーズが消えるところから始まりますが、そのチーズが「なぜ消えたのか?」という点において、ねずみは「いつかなくなるものと分かっていた」のですが、小人は「いつまでも自分たちのものだと思っていた」のです。なので、小人はチーズを誰かが隠したのではないかと疑ったりして、やがて自分たちが苦労して見つけたチーズが再び姿を現すだろうと、古いチーズをあきらめることができなかったのです。ということで、英語原題をそのまま訳すと「誰が私のチーズを動かしたのか」になり、小人中心の物語だということがわかります。
著者:スペンサー・ジョンソン
著者であるスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson)は、多くの企業やシンクタンクに参加し、ハーバード・ビジネス・スクールの名誉会員に列せられている、アメリカ・ビジネス界のカリスマ的存在。経営学の古典的名著でありロングセラーの『1分間マネジャー』(共著、ダイヤモンド社刊)をはじめ、多数の著書を発表している。心理学者であり、心臓のペースメーカーの開発にたずさわった医師でもある。著書のなかでも、寓話に託して、変化にいかに対応するべきかを語った『チーズはどこへ消えた』(2000年/扶桑社刊)は、日本でも400万部を超える爆発的なヒットとなった。2017年、78歳で逝去。『チーズはどこへ消えた?』の続編となる『迷路の外には何がある?』(2019年・扶桑社刊)が遺作となった
●公式
スペンサー・ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』シリーズ特設サイト ─ 扶桑社
●ブランドムービー
本の解説と感想(レビュー)
物語の構成
その物語のおかげで、変化に対する見方が変わったんだ――変化とは、何かを失うことだと思っていたのが、何かを得ることなのだ、とね
『チーズはどこに消えた?』p15
本書は3部構成です。メインパートはファンタジーですが、その前後はダイアローグのような形になっています。
冒頭は、「ある集まり、シカゴで」という、大学を卒業して久々に集まった元クラスメイトたちがランチをしていた時に、一人がある物語をみんなに共有するところから始まります。
そして、メインパートとなるその物語「チーズはどこへ消えた?」が語られます。
物語を語り終えると、クラスメイトたちが「ディスカッション」に入り、物語を受けて自分は実はこうだ…という語りに入っていきます。
上記のように、「チーズはどこへ消えた?」の話は、教訓としての物語として語られ、それをもとにダイアローグが重ねられていくのです。久々に集まったクラスメイト達は、卒業して以降の変化を共有しつつも、何かもやがあるような状態でした。そんななか一人が、ある物語を知ったおかげで「変化に対する見方が変わった」と語ったことから、物語に興味をもっていきます。
チーズとは何を表しているか?
物語に登場する「チーズ」は、私たちが追い求めているもの(欲しい物、ありたい姿)のメタファーです。物語では「古いチーズ」や「新しいチーズ」と形容詞がつきます。
例えて言えば、「古いチーズ」は過去の栄光、昔の恋人。「新しいチーズ」は新しい夢、将来の伴侶。興味関心の移り変わりでもいいかもしれません。ビジネスの世界でも、昔からある成功体験に引きづられて、変化した競争環境のなかで次第に力を弱めていくということはよくある話です。
チーズとの向き合い方
最大の障害は自分自身の中にある。自分が変わらなければ好転しない
『チーズはどこに消えた?』p65
ネズミと小人は、迷路を長らくさまよって、ついに自分たちが求めるチーズをチーズステーションCで見つけることができ、そこに通うことが日課となりました。しかし、ねずみと小人は若干構え方が異なりました。
ねずみは、ステーションCに着いても、ランニングシューズを結んで首にかけていつでも履けるように準備していました。小人はランニングシューズからスリッパに履き替えてくつろぐような格好で過ごしていました。
ある日、チーズがなくなった時の反応が、その日ごろの姿勢に現れていました。ねずみは消えたことをすんなりと受け入れ、すぐにランニングシューズを履いて新しいチーズを探しに迷路に出て行きます。一方で小人は「誰かが隠したのかもしれない」「チーズはどこへ消えた!」と声を張り上げて叫び、古いチーズにしがみつきます。
チーズはずっと変化しないなんてことはなく、少しずつ減っていくかもしれないし、腐っていくかもしれないものです。保存状態を気にせず放置していたら劣化も早まるでしょう。ずっと同じなんてことはない、いつなくなるかも分からないという前提でいるなら、最初のヘムとホーのように、いきなり消えたと思い込んで慌てるようなことはないわけです。ねずみは「いつかなくなるもの」と割り切っていたから、気持ちの切り替えを早くすることができました。
ではネズミの思考が素晴らしいかというと、個人的にはそうは思わず、後述するホーのような行動にこそ、人間の真価はあるんじゃないかなと思います。
迷路
迷路はチーズを探す過程の人生、試行錯誤のメタファーです。
小人のヘムは、何があるか分からない危険な迷路に飛び出すよりも、安心感のある古いチーズが出てくるのを待ったほうがいいと言い、頑なに消えたチーズにこだわる一方で、ホーはしびれを切らして迷路に出ます。
ステーションCで消えたチーズを見つかるのを待っていたうちに、体が衰えていたということもあり、ゴールの分からない迷路に飛び出すのは恐怖でしかなく勇気のいる行為でしたが、ちょっとずつ見知らぬ土地に足を踏み入れ、少しのチーズを手に入れるなかで、様々なことに気が付きます。
思えばチーズが一夜にして無くなったのではなく、段々と少なくなってカビもあったかも…とか、ねずみ(スニッフとスカリー)にできたのなら自分にだってできるはずだとか。新しい方向に進めば、少ないけどチーズを見つけることもできたし、新しいチーズの山に囲まれた自分を想像するだけで、それが見つかるかもしれないと思えるようになってきました。
そうした旅のなかで、自分が進んだ道の各所に、格言をメモ書きのように残していき、目印にしていきました。
やがてついにチーズステーションNで、たくさんのチーズ、見たことのないチーズを発見し、そこでスニッフとスカリーと再び会うことができました。
「チーズはどこへ消えた?」の格言
- チーズを手に入れれば幸せになれる
- 自分のチーズが大事であればあるほどそれにしがみつきたがる
- 変わらなければ破滅することになる
- もし恐怖がなかったら何をするだろう?
- つねにチーズの匂いをかいでみること。そうすれば古くなったのに気がつく
- 新しい方向に進めば新しいチーズがみつかる
- 恐怖を乗り越えれば楽な気持ちになる
- まだ新しいチーズが見つかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すればそれが実現する
- 古いチーズに早く見切りをつければそれだけ早く新しいチーズがみつかる
- チーズがないままでいるより迷路に出て探した方が安全だ
- 従来どおりの考え方をしていては新しいチーズは見つからない
- 新しいチーズを見つけることができ、それを楽しむことができるとわかれば、人は進路を変える
- 早い時期に小さな変化に気づけば、やがて訪れる大きな変化にうまく適応できる
- チーズと一緒に前進しそれを楽しもう
本のなかで短い間隔で書かれているこの格言は、ほとんどは旅をしたホーが迷路の壁に落書きをしたものです。これを眺めるだけでも考えるところはあるのではないでしょうか。
ホーは、新しいチーズを探すために、迷路を旅するのですが、その過程で様々なことに気が付きます。そのたびに壁に書き込んでいるんです。そして壁にメッセージを残すことで、古いチーズのあったステーションCに留まっているヘムが、やがて迷路に進みだしてから、はやく新しいチーズのあるステーションNにやってきて欲しいと願っています。
ホーは、物語の最後でヘムを迎えに行くべきかどうか…と考えますが最終的に待つことにしました。それでもヘムを完全に突き放すのではなく、道しるべを残して、ねずみとは違って「効率よく」チーズにたどり着くように考えていました。ホーが気が付いたことを眺める私たちもまた、行き当たりばったりではなく、ホーという先人のヒントをもとに早くから人生の教訓に気が付き、早く新しいチーズを見つけることができる恩恵に授かってるわけですね。読書というのはそういった叡智の集合だということに改めて気づかされます。
「チーズはどこへ消えた?」のまとめ
「チーズはどこへ消えた?」が伝えようとしているのは、変化を前提として変化に備え、そして変化を楽しむことかなと思いました。
物語を読んでから”Who Moved My Cheese?”という原題を見直すと、「Who(誰が)」というところに、人生を他人の責任にするような言葉に聞こえてきます。私は高尚な人間ではないので他責にしていることも多そうですが、自分のチーズは自分で責任を持つという基本的なことに気づかされます。他人からの影響を全く受けない人生なんてないですが、そうしたわずかな影響も含めて変化することが当たり前だという前提があれば、素直に受け入れることができますね。
アドラー心理学を対話形式で分かりやすく解説した『嫌われる勇気』では、自分を変えられるのは自分しかいない、そして変えられる、とアドラーの教えを示しています。ヘムは、過去の経験に捉われてしまい、変わることができませんでした。
物語を読み進めていく流れでは、ずっと同じ場所に留まろうとするヘムのことを、なんて意固地なんだと思うのですが、実はヘムのような状態に陥る人がほとんどではないでしょうか。物語を読み返すことで、自分がヘムになっていないかを確認することも大事かもしれません。
本の目次
- ある集まり シカゴで
- チーズはどこへ消えた
- ディスカッション