『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』。
毎月やっている読書会で取り上げたのですが、これまでの仕事を中心とした人生の振り返りをするいいきっかけになりました。そう、この本はあくまでも仕事中心で考えられた時間の使い方や意識といったところから、充実した人生を送るための戦略を立てようと試みているものになります。
結論から言えば、「50歳までにやりたいことを見つけて、やればいい」です。
リンダ・グラットンが『LIFE SHIFT』で提唱した人生100年時代という大きなパラダイムは、すでに私たちの頭の中に刷り込まれています。メディアでも100年時代って前置きがつくことも多いですよね。著者である石川さんは、人生100年を複数の視点で分解をして考えています。
1つ目は、Well-DoingとWell-Being。
2つ目は、ハードワーク期、ブランディング期、アチーブメント期
3つ目は、春夏秋冬
年齢を経るごとに、右のウエイトが大きくなる、あるいは時期を経ていきます。
最初のころはわけも分からず、がむしゃらに頑張る、なぜなら自分が本当にありたい状態にたどり着くためには、それが一般的には一番いいだろうという感じ。このあたりは賛否ありそうですが、大概の場合はそうなのではないかなと思います。
「よりよく生きる」ために大切なものが「信頼」です。もし、自分が何か大きなことを成し遂げたいと思っていても、そのリソースがなければ実現できません。ゼロからは誰も何も成し遂げられませんよね。大きな目標に必要なものが、例えば広い人脈だったとするならば、その人脈を獲得するためにはまず上司に信頼されなければならない、そして同僚に信頼されなければならない、業界を超えて信頼されなけれならない。
そう考えるならば、仕事人生の序盤では、「Well-Doing(よくする)」という状態にあり、つまりハードワークする(質の高い仕事をよくする)ということです。
自分のよりどころとなる得意領域ができたとき、それを横展開していくのがブランディング期で、この時期になってくると徐々に社会に与えるインパクトも大きくなりだします。ブランディングができたとき、春夏秋冬のなかの「実りの秋」に突入するわけです。黄金期です。
で、その「実りの秋」は、人生100年時代には、50歳からだと著者は言っています。「そうか?」という疑問も出るのですが、100年生きるとしたら50歳でも、まだあと50年あるわけです。
著者の石川さんは本を書かれているタイミングで39歳。こんなことを述べていまして、私も同意。
私自身、現時点で「これをやりたい」というものがないわけではありませんが。しかし、果たしてそれが「志」と言えるか、まだ確信が持てません。
『フルライフ』p126-p127
そのうえで、50歳までにやりたいことを見つければいい、50歳から本気出そう、というメッセージは大変勇気づけられるものでした。
わたしはといえば、30代後半にさしかかり、ハードワーク期を過ぎ、この本のなかでいうブランディング期、真っただ中です。ブランディング期には、視野を広げるために(大局観で物事をみる)、転職という選択肢についても触れられています。異なる分野に手を広げたり、同じ仕事でも別の業界に行ってみるということです。
わたしは、もうすぐ今の会社に入社してから10年になろうとしています。少し不安になったのは、今の会社を離れたときにどのような価値を同僚や会社に提供できるのかということ。今のところ自分の拠り所となる専門領域もなく、起業を考えていうわけでもないです。そんなことを読書会で共有したところ、過去どのようなことをやってきたのかということを辿り、それはなんでできたのか、どう思ったのか、なぜ今のポジションにつながっているのか、そんな問いを対話の中でさせてもらって、自分が他の人よりも差別化できる点を見つけることが出いました。
いまは、ちょっとした割り切りもありつつ、充実した人生を送るうえでのコアな部分の「信頼」を広げることを意識していこうかと思います。
でもこの本自体は著者の石川さんの時間との向き合い方が書かれている本なので、万人が納得はしないのかなーとも感じました!
サマライズ(本の概要と要約)
著者の課題
人生100年時代に、私たちはどのようにしてハードワーク(質の高い仕事)を成し遂げつつ、長い人生をよりよく生きればよいのか
解決方法
時間の使い方に戦略を持つことで、フルライフ(充実した人生)を実現する
内容
・フルライフとはWell-DoingとWell-Beingの重心を見つけること
ーWell-Doing(よく”やる”時間)
ーWell-Being(よく”いる”時間)
ーフルライフの反対は「空っぽの人生」
・時間戦略の全体像
ー時間を「ハードワーク期」「ブランディング期」「アチーブメント期」に分ける。
ーハードワーク期からブランディング期にかけては、Well-Doingを重視
ーブランディング期からアチーブメント期にかけては、Well-Being重視
ーハードワーク期は、質の高い仕事をすることに集中し、うえ世代からの信頼を築くことが大事。
ーブランディング期は、同世代からの信頼を集め、大局観をもって幅を広げる。
ーアチーブメント期は、社会に還元する時期で、次世代からの信頼を得るために行動し、自身の志にも取り組む
・フルライフにするために
ー仕事で信頼を築く
-可愛げや大物感じる
-他分野からの信頼を得る
-弱さをみせる
-アチーブメント期は自分ではなく仲間の魅力を磨く
ー時間軸を考える
-時間のスケールを1日、1週間、3~10年でとらえる
-1日は、始まりと終わりに気を付ける
-1週間は土曜スタートで考える
-3か年計画は三段階で計画する
ー大局観を持つ
-広く深く情報を知る
-視点を高くする
-事業・企業・産業でとらえる
-具体と抽象、論理と直感を行き来する
ー人生100年を春夏秋冬で考える
-戦後、昭和とは人生が違う
-50歳から本気出す
-それまでに自分の得意領域を見つける
著者:石川善樹さんとは
著者である石川善樹さんは、予防医学研究で医学博士。東京大学医学部健康科学科卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修し、自治医科大学で医学博士を取得あれたというご経歴をお持ちです。「人がより良く生きる(Good Lifeまたはwell-being)とは何か」「生き生きした老後」をテーマにして研究に従事されているそうです。
私のイメージとして、「自分で考えること」「問い」を立てることを大変重視されている方で、これまで読んだ著書のなかでも『問い続ける力』といった本を書いています。
最近ではメディアやカンファレンスでの講演でも登場される機会があります。
●登壇動画
幸福度の高い組織をつくるには「1日の終え方」「雑談」「信頼」を大切にしよう!これからの企業に必要な「Well-being(ウェルビーイング)」とは?
本の解説と感想
Well-DoingとWell-Being
本書のはじめに、フルライフとは何か?という問いに、以下のようなアンサーがつけられています。
フルライフとは、Well-doingとWell-beingの重心を見つけること
『フルライフ』p17
こうなると、Well-doingとWell-beingとは何か?という話になりますよね。
Well-Doingとは、「よくする」こと、
Well-Beingとは、「よくある」こと、と書かれています。
まだ、なんのこっちゃとなるわけですが…Doingは考えたり仕事したりして役割や目的を果たすことで、Beingは感じたり雑談したり無意識や習慣的に過ごすことです。これらのバランスはひとそれぞれで、これはそのときどきによって変わってきます。
ただ、年齢という横軸をとったときに、多くの場合は年齢を経るにしたがって、Beingに重心が移っていきます。これは仕事をバリバリこなすには体力も必要だということも包含してると思います。Beingに重心が移っても、何も無為に過ごすということではないです。イメージしやすいのは仕事の「引退」でしょうか。後進の育成に励むとか、そんな状態もBeingといえます。
では、どんな状態ならWell-Beingと言えるのでしょうか。それは信頼がある状態です。
信頼を得る
職場のなかでWell-Beingな状態が何なのか、想像してみてください。常に監視され、厳しく詰問され、自分で考えることなく言われるがままの職場は果たしてBeingなのかというと、それは違いますよね。それは信頼のある文化だと著者は述べています。
『心理的安全性』でもありましたが、「何でも意見を言ってもいいよ」といって、ほんとに素直に何でも言える、つまり自分の思うままに伝えられるという関係性が築かれているかどうかですね。このような信頼関係を築きWell-Beingな状態だから、Well-Doing(よくする)ことができます。
さて、信頼ある職場というのは大前提ですが、ハードワーク期、ブランディング期、アチーブメント期それぞれにおいて、より誰からの信頼を得るかの重心は違ってきます。ここが戦略的ですね。
ハードワーク期においては、上司からの信頼を得ることができれば、次につながる大きなチャンスを得ることができます。信頼の積み重ねによって、「こいつにこの仕事をやってもらおう」と指名されるということです。仕事をこなすことも大前提ですし、可愛げや大物感といった要素も上司からの信頼を得るポイント。
ブランディング期においては、実績をひけらかすのではなく弱さをアピールできると、同世代や同僚からの信頼を得ることができます。これは人間は本質的に他人を見下したいという生き物だという点があるからだそうです。なるほど、納得感。
アチーブメント期は、次世代からの信頼を集める時期です。この時期になるともはや自分自身の魅力よりも、仲間の能力や魅力を磨くべきだと述べています。
時間軸を見直す
時間軸について書かれている章は、すぐに活かせるtipsがたくさんあります。いくつかピックアップします。
1.1日の重心は、仕事の始まりと終わりにある
毎日、朝出勤して思いついたことから取り掛かる。終わりもあるタスクが片付いたらそのまま帰る。そんな仕事の始まりと終わりの毎日で過ごしませんか。私は過ごしてました。すみません。
バイタリティが高い人たちというのは、仕事をうかつに始めないし、うかつに終わらせないそうです。ルーティンのように、同僚に挨拶をかわしに行ったり、今日のToDoを確認して1日をスタート。終わるときも、1日をしっかり振り返り明日の予定を確認し、身の回りを片付け、整理整頓してから帰る。
で、実際私もやってみました。このルーティンがあることによって、まず気持ちの切り替えがある。そして生活リズムが整います。これは実感。
2.To DoではなくTo Feelで振り返る
ピーク・エンドの法則をご存じでしょうか。『ダニエル・カーネマン経済と心理を語る』で詳しくは述べられているのですが、人間というのは必ずしも合理的ではなく、エンド(終わり)の記憶で評価する傾向にあります。1日の終わりにその1日を振り返り、その日がかけがえのない1日だっということを実感すると、次への改善行動につながっていきます。
3.具体的にアウトプット
これまでに述べた振り返りも、しっかりとアウトプットすることで効果が高まります。例えば日記ですね。これは私も実践してます。本の内容とは全然関係ないですが、5年日記というのを使ってて、1年前の記載も振り返れるのでかなり重宝。
また、仕事でも最近はOKRという手法のなかで、1週間の終わりをグッジョブで終わらせるようなこともあるように、自分だけではなく回りを巻き音でアウトプットするとよいようです。
4.一週間は土曜スタート
これもいい思考!意識的に取り組み始めました。1週間のそもそもの始まりと終わりをどこに設定するか、たいがいのビジネスマンは月曜日に始まり金曜日に終わるという感じですよね。でもこれだと土日ってボーナスタイムのような扱いになって気が付けば昼に起きていた…なんてことも。そうではなく、土曜日を有意義に過ごす、具体的には土曜日に平日と同じ時間に起きるということをすることによって、つい金曜に飲みすぎてしまい土曜をだらだら過ごすという社会的時差ボケをなくす意識が立てられます。これが土曜スタートです。
5.3段階プラン
10年後の目標ってポエムになりがちですよね。ふわっとしてるし、社会的にも変動要素が大きすぎて何をすればいいのか逆算が難しいです。なので、三段階にわけてプランニングをしていきます。例えば1段階目は準備、2段階目は開始、3段階目は広げる、といったもの。当たり前のことですが、大切ですね。
大局観で行き来する
本著のキーワードで分かりにくかったのが「大局観」。流れとしては、ハードワーク期はいわば「こなす仕事」で、ブランディング期に入ると自ら仕事を作り出すので、「創造性」が要になってくる、という文脈で登場します。
これからの時代は、非定型のアウトプットである知的生産が重要だと主張しています。知的生産の反対語として工業生産が説明されており、こちらは「工程通りに進めば商品が生まれる」もの。知的生産は「情報をインプットして思考するプロセス」だそうです。
まずはインプットで、いい情報を手に入れなければならないのですが、視座を高めることによって、視野が広がります。これは意識的に変化させることができて、ハードワーク期においては「とにかく作業!」ということも多かったかもしれませんが、上司の目線、経営者の目線、産業全体の目線、これらで考えたときに広く情報を捉えることができます。
次にプロセス。ここで重要になってくるのが大局観。キーワードは「具体と抽象」そして「論理と直感」です。
具体と抽象とは、例えば、自分が会社で抱えている課題は具体 それを他の会社にそのまま当てはめても理解は得られませんが、少し抽象度を上げてみると、実は根源的には近しい課題だったりします。また、古典のように読み継がれている本というのは普遍的なものがあり、時代を超えて何にも適用することができるもの、つまり抽象度が高いといえます。
論理と直感とは、例えば意思決定をする際に判断基準となる根拠は論理で固めることが多いかと思いますが、アイデアは精査される前にただただ思いつきで直感的な閃きのアイデアだったりします。
これらの思考を高速で行き来することが「大局観」で、これがイノベーションを起こすベースになります。『世界標準の経営理論』でもあった、「知の探索・知の深化」の考え方にも近いですね。またはシュンペーターの新結合(既存知と既存知の融合)。
肝心なのは、じゃあ大局観ってどうすれば身につくの?という点でしょう。
まとめると、大局観を育むのはひとりでDeep-Thinkしたり、みんなでRe-Creationすることです。
詳しくは本の購入いただいて四象限の図を見ていただきたいのですが、「みんなでDoing」する活動(例えば会議)は論理的。「ひとりでBeing」するとき(トイレ、通勤など)は直感的。この二つはほぼ強制的に発生します。しかし残る「みんなでBeing」(飲み会など)と「ひとりでDoing」(資料作り、読書など)は意識しないと機会がありません。実は飲み会は、具体的な愚痴のような話から、「人生って…」のような大きな話まで様々発生します。その往復が大局観を育むのだと石川さんは述べています。また、ひとりでDeep-Thinkする人のほうが自分の哲学をもっていたりして魅力的ですね。
50歳から本気出す
人生100年時代、どこで志を立てるか?という問いが投げかけられます。
終戦後、人はとにかく働くだけでした(特に日本がというのもあるかもしれません)。復興し高度成長期には、「学ぶ」「働く」「休む」という三段階で考えることができました。ですが今はこの三段階のなかにも「働く」と「休む」の間にもう一段階あるとし、春夏秋冬で分け、充実したアチーブメント期を迎える実りの秋があると著者は述べています。
この投稿の最初に石川さん自体が、39歳でも「これが自分の志だと確信が持てない」と書きました。これは、30代以上の人は特に思うのかもしれませんが、様々な仕事や人と触れることによって、多種多様な刺激を受け、価値観も変わるし、やりたいことも変わっていきます。ですが、年齢を経っていくと自分が何によって信頼を得ているのかがぼんやりと見えてきたりします。
本書では、それを一層加速させるに、今の仕事とは別の仕事をしてみるという選択肢を提案しています。同じ業界でも違う職種、同じ職種でも違う業界、これらを渡り歩くことによって、最初の仕事とは全く異なる業界や職種で活躍できるかもしれません。
テクノロジーの進化スピードに伴って業界再編や企業の短命化も進むなか、働く人は「弊社」ではなくもっと大きな箱の中で過ごすということを考えるようにもなっていきます。本書のなかにこんな言葉がありました。
これからは一つに依存する時代ではない。では、依存の反対は何か? それは自立ではなく、たくさんへの依存である。
『フルライフ』p135(若林恵さんからの言葉)
50歳から本気出す。
そう考えたら、これからの人生も気負うことなくいろいろなことに挑戦ができそうですね。
本の目次
- はじめに
- 第1章 仕事人生の重心は、すべて「信頼」にある
- Well-Beingは触媒の課題を一挙に解決する
- 「信頼の文化」を築くための3つの問い
- 大成するキャリアは3つに分けられる
- 質の高い仕事をするには誰の信頼が必要か?
- 仕事の幅を広げるには誰の信頼が必要か?
- 志を達成するには誰の信頼が必要か?
- 第2章 生産性の重心をとらえる3つの「時間軸」
- 1日の重心は、仕事の始まりと終わりにある
- 「To Do」ではなく「To Feel」の振り返りを
- 1週間の「終わり」はどこであるべきか
- 現代人が「社会的時差ボケ」に陥る理由
- 睡眠にも仕事にも効く「土曜スタート」
- 10年先の目標がポエムになる理由
- すごい人は3段階で計画をたてている
- イーロン・マスクのすごいプランニング
- 第3章 創造性の重心は「大局観」にある
- 知的生産性には広く、深い情報が必要である
- すべては「コンセプト」からはじまる
- ビジネスのコンセプトはどう作ればいいのか
- 具体と抽象を行き来する能力とは
- 直観・論理・大局観を切り替えよ
- 働く人々が生きる4つの時間領域
- 大局観が発揮される時間領域とは
- 第4章 人生100年時代の重心は「実りの秋」にある
- 生涯の「志」をいつ決めるか?
- 人生の100年を春夏秋冬でとらえる
- 異なる分野を大局観で行き来する
- 圧倒的な成果を出せる分野を見つけること
- 第5章 真のWell-Beingとは「自分らしさ」の先にある
- 人類は進化してどのくらい幸せになったのか?
- Well-Beingは体験と評価で測られる
- 幸せなのは「どのような人たちか」?
- Well-Beingの定義はアップデートできるか
- 真のWell-Beingとはなにか