『武士道』(新渡戸稲造)の書評とサクッと要約|自分に打ち克つ

武士道(新渡戸稲造) 名著

武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」というのは、あまりにも有名な『葉隠』の一節。そもそも「武士道」と言う言葉は、新渡戸稲造が外国人向けに著したこの『武士道』から広まったもいわれるそうです。

武士道、すなわち日本男児の心に宿る伝統的精神を新渡戸稲造が説明するにあたってまとめられているこの本の序文を読んでいくと、日本という国はやはり独特な文化を形成しているなというのが良く分かります。神道という八百万の神を尊ぶ信仰に、大陸から伝わった仏教から何事にも動じないという精神が融合して、自然とそれが日本人の心に根差すものとして武士道として形成される。さらに時を経て江戸・幕末に強く影響を与えた儒教(というか陽明学)の教えである知行合一と合致するところもあり、独特な土着精神に帰結したということでしょう。

武士道をシンプルに言えば、「克己」という言葉に集約されるのだと思います。自分に克つということ。「高き身分の者に伴う義務」という書き方が強く印象的で、高い身分だからこそ重んじなければいけないという制約を自分に課しているのが、古き日本人の美徳なのでしょう。とはいえノブレス・オブリージュといいう言葉とも似ているので、日本だけの感覚ではないのかもしれませんが。

翻って私たちはどうなのでしょうか。身分というものがもはや存在せず、役職であったり可処分所得でレッテルが貼られる時代、匿名性あふれるネットの世界においてはひどく”envy”(エンヴィー:嫉妬)が渦巻いている気がします。煽られてしまった側は、ひどく取り乱すか、冷静に対処するか二分され、煽る側はそもそもその心根に尊さを感じません。

『武士道』を今に生きる私たち日本人が読むと、わが身を顧みて果たして日本人の魂が宿っているのか、と新渡戸稲造から問われている感覚に陥ります。

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サマライズ(本の要約)

武士道(新渡戸稲造)の要約
武士道(新渡戸稲造)の要約

著者

新渡戸稲造といえば、5000円札の人…という世代です。今の20代以下の方たちは知らないかもしれませんね。私はお札で言うと福沢諭吉や夏目漱石といった世代なのですが、新渡戸稲造という人物については小学生時分にはまるで接点がなく、謎の人物ではありました。それは日本史の教科書でも近代はあまり取り上げられない残念な歴史教育ではあるので、続いてしまうのですが…

その人物を改めて紐解いていくと、非常に素晴らしい。

幼いころ東京に行き、そのころから英語学習をして東京英語学校に入学してすっかり流暢な英語が喋れるようになったのだとか。『代表的日本人』を書いた内村鑑三ともこの頃から交流があり、ともに札幌農学校に入学したそうです。札幌農学校時代には、洗礼を受けクリスチャンに。

当時、日本を代表する国際人として活躍。台湾総督府で台湾財政の独立に大いに寄与。第一次大戦が終わると、国際連盟の事務局次長として活躍しました。

略歴は新渡戸記念館のサイトがとても詳しいです。

新渡戸稲造 | 新渡戸記念館

本の解説と感想

武士道の源流

新渡戸稲造が『武士道』を著すきっかけとなったのが、「なぜ日本人は宗教教育がないのに、道徳的な素養が備わっているのか」というような質問を受けたからだそうです。新渡戸はわざわざ教育で学ばずとも、日本人に自然に身につくこの伝統的な精神のルーツをたどりました。

大きくは二つ、神道と仏教。そしてそこに儒教が加わった思想あるいは精神を称して「武士道」と定義しました。

文化・思想の融合というのは日本らしさの一つ。大陸やヨーロッパでは国が変わり支配者が変わるということが繰り返し行われますが、日本が全てを覆されることがありませんでした。したがって人の考え方が180度変わることもなく、あらゆる文化が線でつながって今日まで続くものも非常に多いです。そしていいところは加えつつ、絶妙な進化を遂げます。伝統的な精神というのはまさにそうして連綿と続いた末に遺伝子レベルで組み込まれたものなのでしょう。

武士道の構成要素

一つ一つ解説していくと大変なのですが、さっとまとめると以下のようになります。
分かれてはいますが、綺麗に分解されていないような気はしています。どの要素も複雑に絡み合っていて解釈しだいでは「名誉で語られてるけど義にもなるような…」という印象を私は持っています。

①義
人としての正しさ。見返りをもとめるのではなく、正しさを行動の判断基準とすること。

②勇
動じない心。何事にも左右されない心。義が分かってても行動できない人がいます。しかし武士道は実行に移さなければならない。実行に移すには自分の義に従い行動するということです。

③仁
慈悲の心。

④礼
最上級が愛とされています。相手を想う気持ちです。これは私の解釈ですが、相手を否定せずに受け入れることにより、その結果その自分を愛するということになるのではないでしょうか。

⑤誠
漢字を分解すると「言う」を「成す」。行ったからにはやり遂げるということ。現代で言うと『影響力の武器』でいうところの「コミットメントと一貫性」でしょうか。

⑥名誉
恥になることをしない。これはいろいろな論点がありそうです。自分に対してであったり、先祖であったり、学問派閥であったり、その所属するものの心意気において恥となる行為をしないということ。

⑦忠義
忠義と服従とを明確に分けています。忠義とは自分の本能で尽くすことで、服従とは屈服や強制です。服従ではその対象に逆らうことはしませんが、忠義は例え反感を買おうとも対象が名誉を損なったり不義となる恐れがあるのであれば、それを上申します。

己に打ち克つ

克己(こっき)という言葉が出てきます。そのまま己に克つ(勝つ)ということです。武士道を構成する7つの要素はとどのつまり「克己」なのではないでしょうか。

我欲に勝ち「義」に基づき行動する「勇」。他者に対して慈しむ「仁」とギブの精神ともいえる「礼」。行ったことに責任を持つ「誠」。恥にならないように自分を律する「名誉」と対象との協働を目指す「忠義」。

いずれも自分本位のものではありません。そして知行合一。これらを知っているだけでは意味を成しません。全てを知ったうえで行動に移してこその武士道。

武士道

本の目次を味わう

目次がめちゃくちゃ素晴らしいと思います。目次だけで語れそうな勢い(^^;

第一章 武士道とは何か
 高き身分の者に伴う義務
 武士の心に刻み込まれた掟
 勇猛果敢なフェア・プレーの精神

第二章 武士道の源はどこにあるか
 仏教よ神道が武士道に授けたもの
 孔子を源泉とする武士道の道徳律
 武士道が目指す「知行合一」の思想

第三章 義――武士道の礎石
 義は人の道なり
 「正義の道理」が私たちに命ずる

第四章 勇――勇気と忍耐
 義を見てせざるは勇なきなり

第五章 仁――慈悲の心
 「仁」が王者の徳といわれるのは何故か
 「武士の情け」とは力あるものの慈悲
 武勲を捨て去った強者の物語
 「詩人」であったサムライたち

第六章 礼――仁・義を型として表す
 礼の最高の形態は「愛」である
 茶の湯は精神修養の実践方式
 泣く人とともに泣き、喜ぶ人とともに喜ぶ

章 誠――武士道に二言がない理由
 武士の約束に証文はいらない
 なぜ武士は銭勘定を嫌ったか
 嘘は「心の弱さ」である

第八章 名誉――命以上に大切な価値
 恥の感覚こそ、純粋な徳の土壌
 寛容と忍耐による陶冶
 一命を棄てる覚悟

第九章 忠義――武士は何のために生きるか
 日本人の「忠義」の独自さ
 わが子の犠牲を厭わない忠誠
 武士道はこじにょりも公を重んじる
 主君への忠誠は「良心の奴隷化」ではない

第十章 武士はどのように教育されたのか
 最も重視された「品格」
 「富は知恵を妨げる」が武士の信条
 教師が授けるものは金銭では計れない

第十一章 克己――自分に克つ
 大人物は木戸を色に表さない
 日本人の微笑の裏に隠されたもの
 克己の理想は心の平静を保つこと

第十二章 切腹と敵討ち――命をかけた義の実践
 魂は腹に宿るという思想
 切腹は法制度としての一儀式
 切腹はどのように行われたのか
 武士道における生と死の決断
 敵討ちにおける正義の平衡感覚
 切腹に必要なのは極限までの平静さ

第十三章 刀――武士の魂
 魂と武勇の象徴としての刀
 日本の刀剣に吹き込まれた霊魂
 武士道の究極の理想は平和である

第十四章 武家の女性に求められた理想
 家庭的かつ勇敢であれ
 純潔を守るための懐刀
 芸事やしとやかな振る舞いの意味
 みずからを献身する生涯
 武士道が教えた「内助の功」
 武士階級における女性の地位
 「五倫の道」により他の魂と結びつく

第十五章 武士道はいかにして「大和魂」となったか
 民衆に規範を示した武士道
 大衆の娯楽に描かれる気高き武士たち
 桜と武士道は「大和魂」の象徴

第十六章 武士道はなお生き続けるか
 武士道が堂々と築き上げた活力
 維新の元勲たちのサムライ精神
 「小柄なジャップ」の持つ忍耐力、不屈の精神
 武士道が持つ無言の感化力

第十七章 武士道が日本人に遺したもの
 武士道は消えゆくのか
 日本人の表皮を剥げばサムライが現れる
 「武士道」に代わるものはあるのか

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