59巻で長きにわたる趙との対戦が終わり、『キングダム』はいつも通り、内政ターンに入っています。まあ、ちょっとだけで、巻の半分過ぎるともう戦争ターンに戻ってしまいますが…。59巻では主人公である信が、「李(り=すももの意)」という姓を得ました。今回その信は、全く活躍がありません。
60巻では、久々に呂不韋が登場します。
呂不韋といえば、奇貨居くべし。趙の人質だった秦の公子・子楚(荘襄王)に投資し、自身が寵愛していた趙姫も子楚に差し出します。このあたりのエピソードはこれまでもキングダムで語られていたところ。
秦の始皇帝の話は、中国でもたびたび映像化していますが、この部分は諸説あり、ドラマチックに描かれる部分。日本でも宮城谷昌光は呂不韋を主人公にした『奇貨居くべし』があります。血縁については決めつけず、読者に想像に任せるということが多いです。キングダムで描かれる呂不韋と政の関係性もそうですね。
呂不韋はその登場時から呂氏四柱と呼ばれる4人を、武力・政治・知略・法のメタファーとして従えることで、圧倒的な力を持つことを読者に印象付けました。当時の人物たちの絵も大きく描かれ、政や信たちとの力の差を表現しています。
その後、王としての思想と力をつけていく政に対し、不気味な存在は増す呂不韋。39巻で嫪毐の乱・加冠の儀を経て、蟄居した呂不韋はこのときの舌戦の末に何を思ったのでしょうか。
60巻では、政への呂不韋なりの愛を感じざるを得ません。そのセリフがこちら。
さて、戦いに関して言うと、対楚戦が始まります。
魅力的な戦いにするには、それなりの背景をもった個性的な武将を登場させなければならないと思うのですが、クセが強すぎて…楽しめるのかどうかはまだこれからなのかなと思います。長引かないことを祈ります…
キングダム 60巻の内容
呂不韋の自害
59巻は、李牧の燃え尽き感に包まれた終わりでしたが、60巻に入ると、李牧自身が少し前向きに進むかのようなマインドに切り替わっています。弱音を吐露したことでカイネがやや取り乱し気味に、背中に張り付きながらかけた言葉に、我に返ったのかもしれません。
場面は変わり、秦の朝廷内の話に移行します。更迭した呂不韋のもとに、徐々に人が集まっているという報が肆氏(しし)からもたらされます。呂不韋を撃たねばならぬという勢いもあり、これを聞いた秦王・政は、単身で呂不韋のもとを訪れます。そこで改めて呂不韋の真意を問います。
ところが、呂不韋にはすでに戦意はないようで、なぜ自分(呂不韋)のもとに人が集まるのかということに対し、こう言い放ちます。
あなたは優しすぎるのです 大王
『キングダム 60』p34
政はこれまで、内乱において反乱軍の根本を処刑したことがなく、呂不韋についても更迭するのみ。それが反乱を起こした者たちの依り代になり、また反乱分子たちが集まってしまうのだという。中華を統一するどころか、秦ですらまとまらない状況に釘をさす格好です。
話はズレますが、中国で始皇帝を扱ったドラマ『大秦賦』で、始皇帝を「暴君礼賛」だとして物議をかもしているというニュースが話題になりました(「中国、始皇帝ドラマが物議」共同通信※リンク切れ)。中国では始皇帝は焚書坑儒などの言論弾圧をしたとして、暴君だとする考えがあるんですね。これまで誰も成し遂げたことがない統一という覇業は、決して温かいだけの世界ではないのでしょう。
呂不韋は政の優しさを武器であるという一方で、唯一の弱点にもなると予言します。そのうえで改めて政が目指すものを問い、変わらぬ答えが返ってくると、政の体を包み込みながらこう告げます。
では 心からご武運を祈っております
『キングダム 60』p37
この後、朝廷には呂不韋が自害したという伝令からの報が届きます。
ちなみに前漢の初代皇帝となる劉邦の妻の呂雉(りょち)が呂不韋の一族とする説があったり(これは怪しそう)、三国志に登場する蜀の武将・呂凱(りょがい)の祖が呂不韋である(これは史書に記載があるらしい)など、その存在感の大きさから後世様々な憶測などを生んだものと考えられるのではないでしょうか。
秦魏同盟 VS 楚
先の大戦のあと、李牧が獄中から指示した戦略は的確であり、かつ秦と相対する扈輒(こちょう)などの武将が活躍して、秦は思うように趙を攻め込むことができません。兵を集めるのはいいものの、魏や楚など他国との戦線から引っ張れるだけの兵をすでに巻き込んでおり、身動きが取れなくなるという事態に陥ります。
打開策として昌平君(しょうへいくん)が編み出したのが、魏との同盟。その見返りは、魏・楚・韓・秦の、四国が接する国境地帯・什虎(じゅうこ)で、中華でも最重要地の一つ。最大の問題はこの地を治めているのが秦ではなく、「楚」だということ。
ここから、「秦魏同盟 VS 楚」の戦に突入していきます。
秦からは、蒙武(もうぶ)と騰(とう)、呉からは呉鳳明(ごほうめい)。久々のファル無双に期待です。ところで60巻のカバー裏に騰が描かれていますが、妙に艶っぽく描かれているのがなんか…何とも言えない感じです…
対する楚軍は、イロモノ揃い。楚は広大な領土を持つ大国ですが、そこに至るまでには多くの小国を滅ぼし併呑してきた歴史がありました。その亡国の傑物たちが集まり居城としているのがこの什虎。城主の満羽(まんう)と将軍の千斗雲(せんとうん)、まだ個性がみえない玄右(げんう)、緊張感なく戦を楽しんでいるように見える軍師の寿胡王(じゅこおう)。寿胡王は自らをこう表現します。
我らは楚軍にあって楚軍にあらず
『キングダム 60』p161(寿胡王)
什虎の兵の強さは半端なものではないようで、同盟軍も攻めあぐねます。乱戦となるなか、呉鳳明が同盟軍の作戦を変え、魏は助攻となり、秦を主攻とするよう、全軍に伝達します。城主の満羽は、蒙武との一騎打ちにおいて、蒙武を馬から叩き落します。
と、戦場は盛り上がりを見せるなか、什虎城そのものに近づく影、呉鳳明お得意の井闌車です。
というところで、60巻はおわります。
まとめ
まだ戦の序盤ということもあり、どういう内容になるのでしょうか。冒頭にも書きましたが、いまのところどうしてもその将軍たちの個性が受け入れられずいます…。滅んだ小国のなかに怪物みたいな武将がそうそういるもんですかね、とか考えてしまって。よくないですね(笑)
ただ新たな展開ですので、引き続き61巻に期待します!